Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。今回は「キャラクターの運動曲線」について学んでいく。

運動曲線

前回前々回とキャラクターの動きにメリハリをつける方法を模索してきましたが、今回は、作画の基本といえるかもしれない「キャラクターの運動曲線」について考えてみたいと思います。

運動曲線とは、簡単に言えばボールが飛んで、跳ねてまた飛んで……という動きを考えた場合、放物線を描く「動きの流れ」が想像できると思います。この動きの流れをラインとして捕らえた物が運動曲線です。「Flash CS4」以降を使われている方であれば、トゥイーンのラインとして画面上で確認できるものです。

運動曲線を考えてゆく足がかりとして、単独のオブジェクトの動きを理解し、さらに次のステップとしていくつかのパーツで構成されているオブジェクトの動き方が描くラインを考えます。例えば、ボールを投げる腕を考えてみると、肩から先の部分だけでも、回転する二の腕、二の腕の先で溜めを作りボールを投げる前にしなる上腕部、さらに上腕部と連動する手首という数段階の動きの混合があります。実際には、体全体のひねりや動きもありますので、その手に握られているボールはさらに複雑に移動します。これはボーンを仕込んだ3Dアニメや、真横から見た関節アニメでは、それぞれの部位が連動するままに任せてしまってもいいでしょうが、コマアニメを制作しようとすれば、そういった動きをきちんと理解しなければ、自然な作画は難しいと思われます。

肩から先のボールを投げる作画をした場合、正面から見るとその動きは直線ではなく、全体的にやや外側にカーブを描くようにしなると思います。そして、肩からボール迄に、肩、肘、手首、指先とそれぞれの部位が連動しながらも、さらにひねりを加え個別になめらかな曲線を描きます。

通常、アニメーション制作では、原画ではこういった動きの始まりや、終わり、頂点となる部分を描き、その間の中割りは動画に任されます。しかし、その動画を描く人が目的の動作の運動曲線を把握して描かなければ「それらしい動き」にはなりません。実際には、この運動曲線には、意志を持った体の動きだけでなく、惰性、摩擦、重力なども関係してきます。

また、アニメーションでは、「オバケ」という速い動きを写真がブレている様に描いて素早い動きを表現する方法があります。この場合には、動きAと動きBの間をビヨーンと伸びたような絵で繋ぎますが、ここでも先に考えた運動曲線を考えて反映させると、よりきれいな効果を得ることができます。もとのアイデアがブレを絵で描いてしまおうということなので、動きの意識を持つか持たないかで絵の気持ちよさに影響が出てきます。

運動曲線を描くことを頭で理解しても、そこに前回の「予備動作」、「後追い」、前々回の「スクィッシュ&ストレッチ」、さらに、第23回の「詰め」が関連してくると、作画がとてつもなく複雑かつ難しいものになってきます。だからこそアニメーターというプロフェッショナルの職業が成り立っているのですが、本業のセルアニメーターではない、僕のような立場においても、どうにかこうにか結果を出して行かなければいけません。ではどうするかと言えば、とにかく描こうとするものを観察するか、自分でアクションを行ってみて体のどの軸がどのように回転しているか、またどこに重心があり、どこに負荷がかかっているか等を体感してみるのが一番良いのでしょう。欧米のメジャーアニメーションスタジオには、体操用マットとビデオカメラと鏡のある部屋が設置してある所もある程ですから、とにかく「やってみる」、「観察する」、「考える」ということに尽きると思います。

PCを使い、デジタル環境があるのであれば、パソコンのカメラで動画を撮影し、ひとコマひとコマをコマ送りで確認してみるのが手っ取り早いと思います。もちろん、どれだけなりきっても架空のドラゴンの動きを自分でやることはできない様に限界もあります。でも、必要とする動きの流れや必要なタイミングの感覚を掴む練習にはなるはずです。ただ、ビデオにあまり頼りすぎると、アニメーションらしい面白く強調された動きが萎縮してしまう事もあります。自分が作ろうとする作品のテイストを考えながら、リアルからどれだけ強調するか、省略するかなどを検討してみるのが重要でしょう。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。森永アロエヨーグルトのWebサイトで、最新Flashアニメシリーズ5作目となる『Boy meets Girl アロ恵』公開中。全国のTOHOシネマズで本編前に上映されている短編『紙兎ロペ』では、アニメーション制作を担当。
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