Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。連載第15回では、作品制作の前の絵コンテについてさらに考えてみる。単なる絵コンテでないビデオコンテとは?

紙からデジタルへ(絵コンテをデジタルで作成する)

前回前々回と絵コンテについて考えてきましたが、実際にどう描くかということに関して言えば、特に決まったフォーマットがある訳ではありません。基本的には、以下の要素が上手く書きこんであれば問題ありません。

●カット内容の、構図、動き、キャラクターの配置等が分かるスケッチ
●カットの尺
●カット内容の解説
●シーン、カット番号
●SE、BGMの指定
●カット間のつながり・カメラの動き

これらの項目を効率よく書き込める絵コンテ用紙を自作するのも楽しいものです。ちなみに、下にサンプルとして掲載したのは、「ペレストロイカ」のコンテです。

絵コンテには、「スタッフとのイメージ共有を促す指示書」と「映像プランを練りこんでゆく設計図」などの役割があります。1人で制作する場合、絵コンテを書かず一カット一カットを積み重ねながら制作する方法もありますが、やはり早い段階で全体を把握しバランスを取るという作業は大切です。特にアニメーションの場合は、実写の様に臨機応変に現場のフィーリングで作っていたら、制作者は混乱の極みに巻き込まれてしまいます。

その為にも、きちんと絵コンテを書くということは重要です。一通りカットを頭から終わりまでコンテ用紙で描き終わってから絵コンテを推敲する時、削るのは大きくバッテンを描けばすむことなのですが、新たなカットの挿入はコンテ用紙を切って間にカットを入れてノリで貼って……、となると、意外と手間だったりします。しかし、ちょっとでも内容を良くする為には、その手間を惜しむわけにはいきません。

そこで、絵コンテを製作する前に、まず下書きというかスケッチをすることをおすすめします。絵コンテ用紙に落とし込む前に、連載12回で説明した「割った」脚本を元にカットをザクザクと大きな白い紙にスケッチして、「こういう流れでいいだろう」というところまで考え、概要を決めてしまうのです。

これが紙でのコンテのやり方なのですが、修正の簡易さや、ファイル共有の利便性から、エクセルやHTMLのスプレッドシート使用する方もいらっしゃいます。シーンの入れ替えや、情報入力作業の分業など利点もなかなかに多いです。

ビデオコンテとは

僕の場合、最近はほとんど「Adobe Flash」のタイムライン上でコンテを切ってしまいます。まずは通常Flash制作をする場合と同様に、画面サイズ、毎秒のフレーム数を決め、それをプレファレンスパネルで設定します。

そして、ガシガシ行けるブラシツールで、カット単位の絵をおこしてゆくことになります。僕の場合はグレースケールでイメージを描いてゆきます。基本的には、頭のカットから順にスケッチしてゆき、タイムライン上で必要な長さ分フレーム数を追加します。この作業と前後して、仮音をコンピュータのマイクで録音してタイムラインに貼付けます。そして必要であれば、カットナンバーやシーンナンバーも記入してゆきます。また簡単なカメラの動きや、アクションを追加、カット同士のトランジッションを作ります。これで、絵コンテというより、ビデオコンテと呼べるものを作っています。

ビデオコンテサンプル 『アロ恵』 第一話30秒

推敲する場合には、タイムライン上でキーフレームを移動しながらやっていきますので、あまり長い作品だとちょっと手間になる場合もあります。切りのよいところで別ファイルをつくって、最後にまとめて繋げてしまえば良いと思います。

このコンテ利点としては、やはり絵コンテより完成状態を意識しやすいということに尽きると思います。また、特殊なケースとして、「モンドガール アロ恵ちゃん」シリーズでは、このコンテを元に、スタジオで声優さんの声の収録をしています。そして編集した音を、仮音と入れ替えて最終のアニメーションの口パクを調整しています。

ビデオコンテ欠点としては、紙の様にコピーして配ればよいというものではないので、再生環境を必要とすることです。どうしても紙のコンテが必要で、このビデオコンテからキャプチャを抜いて、脚本をコピペして暫定版の絵コンテを作成するというケースもありました。

コンテの段階で作品が面白くなければ、その後に作品が面白くなるということはありません。ここでじっくりいじり倒して作品の骨格を決めていきたいところです。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。森永アロエヨーグルトのWebサイトで、最新Flashアニメ『BABY&GIRLS アロ恵』公開中。全国のTOHOシネマズで本編前に上映されている短編『紙兎ロペ』では、アニメーション制作を担当。