Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。連載第3回では、自分のアイデアを、さらに磨き上げる術を考える。

多角的に自分の企画を見直す

前回の記事で取り上げた様に、自分が信じてつき合う事ができるアイデアの核を捕まえることが出来たら、そこから改めてさらに磨きをかける作業を行っています。ここでは「作者の視点」、「観客の視点」、「プロデューサーの視点」の3点から多角的に企画を見直します

作者の視点

作品のコアになるアイデアは、主に「自分が面白いと思うもの」を中心に組み立てられていると思います。しかし、作者の視点として見直すと「面白いと思う」要素とは別の次元で「自分がやりたい事」があります。個人的には、あくまで作品のコアとなるべき部分は「面白いと思われる事」が優先されるべきであって「やりたい事」ではないことに注意しています。この順番を間違うと押しつけがましい自己中心的な作品になってしまうと思っています。では、やりたい事はガマンしなければいけないかというと、軸をきちんと決めた上で、その軸をぶれさせない様にやりたい課題を肉付けしていけばいいと思います。やりたい事が何もない状態では、モチベーションがキープできないし、勢いのない作品になってしまいます。

観客の視点

さて、次に「観客の視点」ですが、僕が実践している簡単なチェック方法があります。自分がまとめたアイデアを仲の良い周りの人に「こんなお話考えてるんだけど」と話すだけです。アイデアを人に話すのは恥ずかしいものですが、よけいな解説を付けずに、出来る限りクールに、作品の本質のみが伝わる様に話します。相手の反応が芳しくなくても、焦らず冷静に頑張ってみます。話が上手か下手かという個人差もあるかと思いますし、相手との力関係や、相手の性格によって上手くいかないかと心配もあるでしょう。最悪、理論武装が得意な相手にアイデアごと潰されることもあるかもしれません。

しかし、ここでのポイントは、相手がどういう反応をするかではなく、自分がアイデアを伝える為にどういう風に話しているかだと思っています。自分の中では、ひとつの完成したアイデアであっても、人に伝える時にどこか「アクセント」をつけているところがあるはずです。そこが「きっと楽しんでもらえるに違いない」という点。少し省略して話してしまったところは「ちょっと行き過ぎかもしれない」ところ、もしくは「自信のない所」です。このアイデアを話すという行為を通じて、「観客の視点」を意識する事が出来ます。場合によっては、話しているうちにアイデアの要素の重要度のバランスが変わっていく事もあります。それは「観客がより好意的に受け入れられるようにする」ための調整作業だと思っています。周囲にアイデアを話す相手がいない場合は、元のアイデアを見ないで、記憶を頼りに誰かに伝えるつもりで企画のコアの部分を書き直してみます。時間を空け2~3回、その作業を繰り返してみると、オリジナルのアイデアから多少バランスが変わって、企画の意図がより明確になる場合が多いです。この時、「誰かに伝えよう」と思いながら書くようにしています。

プロデューサーの視点

次に、「プロデューサーの視点」です。これから作ろうとする作品に明確な目標を持たせます。短編映像であれば、「スポンサーを獲得する」、「コンテンストで入賞する」、「ネットで●●万ヒットを獲得する」、「DVD化して販売する」、「自分の名刺代わりの作品を作る」など、具体的な指針を設定するようにしています。これらの目標によって、作品の世界感、ルック、長さ、解像度などが具体的に絞られてゆきます。ここをきちんと分析し、傾向と対策を立て、それらをアイデアに反映させる事で、無目的に作られた作品より、確実にまとまりのある意志をもった作品になると思っています。自分が何のために作品をつくるのかによって、アイデアの内容をアジャストしています。 3つの視点は、衝突する事もあります。しかしどのような作品であっても「作者」、「観客」、「売り手」のトライアングルを無視する事はできません。このバランスの調整の仕方を試行錯誤する癖をつけておくことは、アイデアから企画、そしてそれをプレゼンしなければならないようになった時に必ずプラスになるものだと思っています。これで、アイデアは一歩現実へと向かいます。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。代表作に『CATMAN』(2002年)、『OH!スーパーミルクちゃん』(2002年 ※Flash版キャラクターデザイン)など。最新作は『CATMAN Series III』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。