【コラム】

週刊こむぎ

95 迷いをたちきる

95/99


仏教というと、禅寺でいかつい和尚さんが「喝!」と叫んでいるイメージを思い起こす方も多いかもしれませんが、今週はそんな「喝」についてのお話です。

大きな声を出して相手を怒鳴りつける「喝」。初めて「喝」を用いたのは中国・唐の時代の禅僧、馬祖道一(ばそどういつ)禅師と言われています。馬祖禅師の「喝」はすさまじい迫力があり、これを受けた弟子は3日間耳が聞こえなくなったと伝えられるほどのものでした。

そんな馬祖禅師の何代も後の弟子で、中国で臨済宗を開いた臨済義玄(りんざいぎげん)禅師は、弟子を指導するのに「喝」を頻繁に用いたことで知られています。臨済禅師の問答は「臨済録」という本にまとめられているのですが、その中にも「喝」を使ったやりとりの場面が度々登場しています。

大きな声を浴びせると言っても、ただ相手を怒ったり怖がらせたりするのではなく、きちんと意味があって行われるものです。

臨済録の「勘弁」(禅僧が相手の力量を試す問答のこと)という章からは、臨済禅師が自らの「喝」を下の4つの働きに分類していることが読み取れます。(これを「臨済四喝」と呼びます。)

  • 鋭い剣のように迷いを断ち切る喝
  • 獲物を狙う獅子のような、内に秘めた威厳を示す喝
  • 魚をおびき寄せる道具のように相手の力量を探る喝
  • 喝の形を取らない喝

あれこれ理屈をこねる隙を与えず、相手の迷いを断ち切る。いきなり大きな声を浴びせられると、ぐるぐると迷いをもたらしていた思考は吹っ飛び、瞬間的とはいえ心が「無」の状態を体験します。

特に禅宗では、重要なことは言葉や理屈にできないものであるという考え方をしていますから、短い音と大きなインパクトでやり取りをする「喝」はそれ自体が真理を体現しうるものでもあるのかもしれません。

この4つの役割を説明した臨済禅師は「お前にはこれらがわかるか?」と修行僧に問い、答えに詰まる相手にすかさず一喝を浴びせ、その意味を体験させています。

どんなに論理的に考えてもまだ迷いがある時、自分の中で答えは決まっているのにそれを実感できない時、迷いを振り払って進む決め手や最後の一押しとなるのは、直感などの言葉にできないものであったりします。

やるべきことを人に話したりして気合を入れる、優れた作品に触れて自分を鼓舞する、それこそ「喝」を入れてくれる人物と交流したりアドバイスを求める...

あなたにとって、もやもやとした迷いや不安を断つ起爆剤となる体験とは、どんなものでしょうか?

■こむぎこをこねたもの、とは?

■著者紹介

Jecy
イラストレーター。LINE Creators Marketにてオリジナルキャラクター「こむぎこをこねたもの」のLINEスタンプを発売し、人気を博す。その後、「こむぎこをこねたもの その2」、「こむぎこをこねたもの その3」、「こむぎこをこねたもの その4」をリリース。そのほか、メルヘン・ファンタジーから科学・哲学まで様々な題材を描き、個人サイトにて発表中。

「週刊こむぎ」は毎週水曜更新予定です。

95/99

インデックス

連載目次
第99回 なにもしない
第98回 同じ人間なのだから
第97回 自分のスタンス
第96回 自らに由るもの
第95回 迷いをたちきる
第94回 目の前のチャンスをつかむ
第93回 こころをほぐして挑む
第92回 ゆるがぬこころ
第91回 「続ける」ことの大切さ
第90回 因果と輪廻
第89回 カルマとの付き合い方
第88回 夏の空
第87回 1日を生きる
第86回 自分の好みは争いのタネ?
第85回 自分の思考をしっかりと眺める
第84回 枠の中で過ごす時間
第83回 直感にとらわれない目線
第82回 認識を変える
第81回 こころを洗う
第80回 価値観のかごの外側
第79回 真の強さ
第78回 変わらぬもののちから
第77回 もやもやを変えるきっかけ
第76回 かわらぬ日常
第75回 夢うつつ
第74回 おだやかなことば
第73回 花は咲いたら落ちるもの
第72回 ひとりで歩くことも時には大切
第71回 あるがままに生きる
第70回 強い執着心が苦しみを生む
第69回 「やりきった」達成感に 要注意
第68回 大きなものは 切り分けたべる
第67回 鳥が鳴くから 静けさがきわだつ
第66回 雑念を 雪のように溶かす
第65回 心身のこわばりから 自由になる
第64回 辛いとわかっているのなら
第63回 目は横に、鼻は縦に
第62回 心を空っぽにできることは 何?
第61回 目をさませ!
第60回 ひとも こむぎも あるがままが一番
第59回 一年のおわりに 「心の癖」をさがす
第58回 寒さのしのぎかたは 人それぞれ
第57回 さとりとは 苦しさから抜け出すこと
第56回 もともと そこには 何もない
第55回 考えるより まず お食べなさい
第54回 言葉にしばられず 「月」をながめる
第53回 「自分だけのもの」は 本当にある?
第52回 言葉がなくても つたわるきもち
第51回 ままならない体で パンをもとめる
第50回 どこから行っても たどりつく月
第49回 良いも 悪いも 心しだい
第48回 自分の足元を しっかりと見る
第47回 夜空の月は ほんとうに浮かんでいるか?
第46回 じぶんに適した「立ち位置」を見つける
第45回 パンだけに頼らず 多くの選択肢を持つ
第44回 どんなにちいさくても 「活きる」場所がある
第43回 「今あるもの」を あらためて知る
第42回 つよく求めるほど こころはさわぐ
第41回 口コミにはない じぶんの体験
第40回 心しだいで 火もまた 涼し
第39回 雲のように 水のように 流れてみる
第38回 すべての不安は 現実をこねたもの
第37回 ことばにできない 感覚を大事に
第36回 食べてみなければ わからない
第35回 七夕の夜に かの人を思う
第34回 すべては さだめ
第33回 居場所に合わせて 心はうつろう
第32回 相手にあわせて 語り方をかえる
第31回 雨もまた ひとつの試練
第30回 しぜんのままに ゆるやかに
第29回 そこにいるだけで 助けになる
第28回 雨が降るから こむぎがそだつ
第27回 答えのありかは 「どちらか」ではない
第26回 うちかつべきは おのれのみ
第25回 片手ではくしゅして 枠を見つめる
第24回 語るべきことだけを ていねいに伝える
第23回 たいせつな日は いつですか?
第22回 さくらの季節と 一期一会
第21回 不安をとりだし こねて焼く
第20回 「正しさ」の向きを 観察する
第19回 目の前のご飯に しっかり向き合う
第18回 待つことも ひつようです
第17回 やすむことも 大切なしごと
第16回 身近なやさしさを たいせつに
第15回 分けへだてなく お茶をもてなす
第14回 かわらぬものなど ないのです
第13回 おいしいとわかる しあわせ
第12回 みえるものだけに とらわれない
第11回 まいにちが 「なにかびより」
第10回 この"まる"は 何にみえる?
第9回 こころもすっきり おおそうじ
第8回 "へいじょうしん"にこそ みちはあり
第7回 こだわりを すててみる
第6回 じぶんにあった「しょうじん」を
第5回 そなたのみちを ゆくのです
第4回 あらゆるものが、われわれの師
第3回 すべてはひとつにつながっている
第2回 かまどにとびこむ勇気
第1回 いつでもおいで

もっと見る



人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事