季節は秋。次第に空気が澄んできて、
夜空に浮かぶ月もいっそう美しく見えてきます。
今週は、そんな月を眺めつつ、こねりが問答を仕掛けてきます。
「月は本当に空に浮かんでいるのか?」

仏教には「唯識」と言う世界観があります。
あらゆる存在は心(五感や無意識)が知覚した現象であるという考えで、
全ては移ろいつづける実体のないものであるという「空」の思想に繋がります。

「誰も月を見ていない時、月は本当に存在するのか?」
「誰もいない森で木が倒れたとしたら、
その時に音は鳴ったと言えるのだろうか?」
哲学の歴史の中でもこういった「知覚の外」にあるものの
存在についての議論が行われてきました。

また、中国禅の重要人物、慧能禅師は、
揺れている旗を見た2人の修行僧が「これは旗が動いているのだ」
「違う、風が動いているのだ」と言い争いをしている所に
「旗でも風でもなく、あなた達の心が動いているのです」
と説明したと言われています。

何かが「ある」と言うとき、
人は見たり触れたりして知覚しているものについて述べているか、
その体験を頭の中で思い出したりしています。
「月」「木」「旗」「動いている」と言った物事の区別も
人間の認識の範囲内で行われているものです。
また、自分の認識の外に出られない以上、
その外側で何が起こっているかは確認のしようがありません。

世界は心の中に知覚された現象である。
日常的な世界の捉え方とは異なった考え方のように思われますが、
それだけに発想を豊かにしてくれる世界観です。

VRやARといった技術が広がりを見せている時代、
「現実」はどのように捉えられるでしょうか。
「作られたものは作られたものにすぎない」
「知覚されている以上、作られたものも現実の一部だ」
色々な考え方ができると思います。

あらためて、自分や周りの人の体験している世界や
「現実」「存在」というものを観察してみると、
日常の見え方が少し変わってくるかもしれません。



■今回登場したのは、禅のぼさつが宿った「こねり」

■著者紹介

Jecy
イラストレーター。LINE Creators Marketにてオリジナルキャラクター「こむぎこをこねたもの」のLINEスタンプを発売し、人気を博す。「こむぎこをこねたもの その2」「こむぎこをこねたもの その3」もリリース。そのほか、メルヘン・ファンタジーから科学・哲学まで様々な題材を描き、個人サイトにて発表中。

「週刊こむぎ」は毎週水曜更新予定です。