"技術的萌え"を考える

ただいま「コンドルは飛んで行く」の演奏中です

齢を重ねるにつれ、人は過去を懐かしむことが多くなるもの。筆者もその例に漏れず、しばしば過去に思いを馳せる。湯船に浸かって目を閉じれば、十年前すらつい昨日のことのよう、あの興奮やら感動やらが鮮明に思い出される。仕事のこともまた然り、年の瀬も近づくと、この一年に登場した新製品や新技術を振り返ることが多くなる。

脳内追憶の旅のテーマは日々変わるが、数日前のテーマは感慨深かった。題して「これまで自分が"技術的萌え"を覚えたデジタルネタ」。X68000のマンハッタンシェイプやG4 Cubeの造形の見事さ、NeXTSTEPに垣間見たシステム設計の優美さも捨て難いが、その情熱を他の事物に費やせばさぞ……的な要素は見当たらない。筆者のいう"技術的萌え"には、効率化や集約化という言葉とは決して相容れない、伊達と酔狂の精神が必要不可欠だからだ。

本年最後の掲載となる今回、敢えてデジタルデバイスではなく、筆者のいう"技術的萌え"を感じさせるソフトを取り上げてみた。最新のものではないが、そこにはデジタルガジェット好きなら理解してくれるはずの普遍的ななにかがあるはずだ。

ガタガタいわしたる

今から二十数年前、NECの8ビット機「PC-8801」を所有していたことがある。このマシンは前モデルのPC-8001と高い互換性があり、N88-BASICから「NEW ON 1」を実行するとN-BASICモードへ移行、マシン語/BASICを問わずPC-8001用ソフトのほぼすべてが動作した。

自分でアクションゲームを作ることを目指していた筆者は、N-BASICそしてi8080/Z80のマシン語をマスターしていったわけだったが、やがていくつかの難問にぶち当たった。1つはグラフィックの問題。PC-8801は高解像度だが描画速度が今ひとつで、筆者のスキルでは満足いく結果が得られなかったため、HAL研究所から発売されていた周辺機器「PCG-8800」のキャラジェネ機能を利用することにした。もう1つ悩みの種だった効果音は、当初I/Oポートを直接叩く方法を利用していたが、その後PCG-8800のサウンド機能を頼るようになった。

AmigaのFDD。実は日本製だったりする

なんの疑問も持たず"楽な方法"を選んだ筆者だが、それから10年ほど経過したあるとき出会った1つのソフトにより考えを改められることになる。初めて見たのは忘れもしない、友人宅に鎮座していた「Amiga 500」。妙な位置から妙な音がするなあ、と思いつつ黙って聴いていると、その旋律は確かにフォルクローレの定番ソング「コンドルは飛んで行く」。大阪のほうでは、喧嘩のとき「手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたる」と脅すらしいが、まさかFDDをガタガタいわせるとは。まさに体が震える思いだった(戦慄……ああ、書かなきゃいいのに)。

このソフトのどこが素晴らしいかというと、その着眼点だ。本来音声出力装置ではないFDDを楽器代わりに使ってしまおうという発想は、PCG-8800に頼ってしまった筆者の考えとはベクトルが真逆で、いわばI/Oポートを直接叩く方法を洗練させたもの。それに、見た目(聴いた耳?)のインパクトもある。確実に寿命は縮まりそうだが、単調なRead / Writeの繰り返しより、音楽を奏でる人生のほうがFDDも幸せだろう。

Amigaはいまもネタの宝庫です

伝説の「コンドルは飛んで行く」を再現

長らく行方不明になっていたその「コンドルは飛んで行く」だが、年末の大掃除で大量のフロッピーを処分していたところ、偶然発見。手持ちのAmiga A1200改で試したところ、ああ懐かしや、あのメロディが……とはいえど、Amiga用パーツの入手が難しいここ日本ではおいそれとFDDを消耗させられないため、再生は一度にとどめた。

それに、いまやAmigaエミュレータ「WinUAE」には、Floppy Drive Sound Emulationなる機能が実装されている。文字通りFDDの回転音をエミュレートするというこの機能、そこまでやるかという気がしないでもないが、「コンドルは飛んで行く」を安全に再生できる唯一の方法といえる。

「コンドルは飛んで行く」の実行には、WinUAEのほかに、Amigaに搭載されたROM (KickStart) のイメージファイルが必要。ほかにAmigaOS / WorkBenchが必要となるため、Amiga実機のオーナーもしくはAmiga Foreverのユーザでないかぎり、実行はできない。

WinUAEの設定パネルで「Floppy Drive Emulation」をMAXにしておくことがコツ

Floppy Drive Sound Emulationを有効にする。エミュレーション精度を100%にすることも忘れずに

そこで、WinUAEの音声出力機能を利用して「コンドルは飛んで行く」をキャプチャしてみた。実機の音と趣きは異なるが、忠実に再現していることは間違いなしだ。

再生中の音声を取り込んだMP3ファイル(El_Condor_Pasa.mp3)を配布しています。

「コンドルは飛んで行く」精神は死なず

FDDよりスキャナのほうが楽器としては優れているかも(画像は、リンク先で配布されている動画の1シーンから。必見!)

「コンドルは飛んで行く」に見られた精神は、プログラミングの作業がAPIという共有の部品に大きく依存するようになってから、少しづつ失われているように思える。たとえば、"ハードを直接叩く"という言い回しは、最近のPC系の記事ではほとんど見かけなくなった。そういう(効率化の)時代だ、といわれてしまえばそれまでだが、寂しすぎはしないか?

とはいえ、目を皿のようにしてネット上を徘徊してみると、その精神を引き継ぐ層はいまだ健在のようだ。いささか旧聞に属してしまうが、スキャナを利用して「エリーゼのために」を奏でる試みは、かなりイイ線を行っている。こちらの古いドットマトリクスプリンタを楽器化するという試みも、おもしろい。このような一見ムダとも思えることから、新しい発想や技術が生まれてくるのではなかろうか、と思うのだが。