ラジオといえば「ビター・スイート・サンバ」

これでオールナイトニッポンを聞きたい!

Herb Alpertをご存知だろうか? トランペット奏者として、A&Mレコードの創始者として、また「This Guy's In Love With You」などの大ヒット曲を持つ著名な人物として、ああ彼のことかと思い至る人も少なくないはず。彼の名を知らなくても、「パ~パラッパッ パッパララッパッパラッ……」という印象的なイントロで始まる「ビター・スイート・サンバ」は、老若男女を問わずかなりの人が耳にしているのではなかろうか。

筆者がこの曲をはじめて聞いたのは、四半世紀前の小学校6年生のとき。プログレ聞きかじり虫のその頃は、インターネットの掲示板などという便利なものはなく、雑誌とFM / AMラジオが主要な情報源だった。最初はNHK FMでときどき組まれていたプログレ特集目当てにラジオを聞いていたが、やがてFEN (Far East Network、現AFN)に手を染め、ふと我にかえればオールナイトニッポン、しかも笑福亭鶴光。この番組のオープニングを飾っていたビター・スイート・サンバは、筆者のラジオ感とは切っても切れない、なんともいえずほろ苦くて甘い(bitterでsweetかよ!)思い出の曲なのだ。

この箱に必要な一式が入っています

などとつらつら考えていると、筆者の書斎にはAMチューナーがないことに気づいた。そういえば、ドライブ中にときどき聞く(「小沢昭一の小沢昭一的こころ」が好きです)以外、AMラジオを聞くことは少なくなった……これではいけない、タモリにもたけしにも坂崎幸之助にも申し訳が立たないではないか!

というわけで今回選んだのは「学研 大人の科学」シリーズから出ている工作キット、「真空管ラジオ Ver.2」(9,801円)。消費電力量が多くコストパフォーマンス良好とは言い難いが、かつて学研の「科学」にお世話になった身、敢えて挑もうという結論に至った次第。

30年以上前の中国製ということは……文革の荒波を乗り越えている?

荒波を乗り越えたためか、曲がっているピンもあります

組み立ては難しくないが、丁寧さは必要

ドライバ1本あれば組み立てられます

「真空管ラジオ Ver.2」は、真空管ラジオの作成に必要な一式がまとめられたキット型製品だ。必要な工具はプラスドライバー1本のみ、これも同梱されているので、基本的には"手ぶら"で取り組める。ただし、9Vの角形電池5本と単2電池1本、油性ペンと絶縁用のセロテープ、それに定規も必要なので、キットとあわせて購入しておきたい。

このキットの目玉は、なんといっても真空管。30年以上前に中国で生産されたが、どういう経緯かデッドストック化したというもの。歴史の荒波に翻弄されたためか、ピンが曲がっているなど難アリな印象もあるが、付属のピンストレーナーに差し込めば問題は解決。正直言って真空管のことはよくわからないが、このようなアバウトさが真空管の温かみなのだろう……と思う。

曲がったピンは、付属のストレーナーで直します

組み立て作業は、付属の説明書を見ながら進めればいい。前述したとおり、半田付けなどの作業は必要ないため、よほど不器用でないかぎり失敗することはないと思うが、個人的に"難所"と思われる箇所を2つほど挙げておこう。

1つは、バリコン(バリアブルコンデンサーの略、容量可変型コンデンサーのこと)の組み立て。付属する2枚のアルミ板の被膜を、1枚は剥がしてもう1枚は剥がさない、ということ。説明書にもシッカリ書かれているのだが、筆者はうっかり両方剥がしてしまった。セロテープを貼れば挽回できるが、バカバカしいので注意しよう。

バリコンの被膜をうっかり両方剥がしてしまいました……

もう1つは、フレームにリッツ線を張る作業。線を合計20周以上させなければならないのだが、5週目あたりからダレてくるのだ。線を常にピンとさせるよう心がけないと、出来上がりが見苦しくなるばかりか受信性能にも影響してくるので、自戒の念を込めて警告しておきたい。

リッツ線をきれいに張るのは難しい。気合いを入れるべし

壊れかけではないレディオ

やはりクライマックスは真空管を挿入する瞬間か?

そんなこんなで完成した真空管ラジオ。途中、リッツ線のたわみに悩まされ、ひょっとすると自分は鶴の恩返しの鶴にもなれないのでは、と諦めたくなる地道な架線作業はあったものの、ようやく完成に漕ぎ着けた。リード線の見栄えなどともかく、ホーンからビター・スイート・サンバを聞きたいものだ。

ところがこの「真空管ラジオ Ver.2」、一筋縄では行かない。電源スイッチをONにしてバリコンの調整を始めたはいいが、ピーヒョローという音が聞こえるばかり。ひょっとして配線を誤ったか?

これで一応は完成。しかし日本放送を安定して聞けなければ……

しかしさにあらず。筆者宅は鉄筋コンクリート造のいわゆるマンションゆえ、窓際でチューニング作業に取り組む仕儀と相成ったが、左肩にラジオを載せつつ窓際まで歩み寄ったところ……聞こえました聞こえましたよ、NHKラジオ第2のスペイン語講座が。

チューニングは、バリコン備え付けのノブを回転させつつ音量を調整することが原則、配線と絶縁処理に誤りさえなければ、ピークチュコチョ……という音を聞きつつ、真空管ラジオが奏でる音を楽しむことができるはずだ。

○学研「大人の科学 真空管ラジオ Ver.2」
機能 ★★
価格 ★★★
楽しさ ★★★★
怪しさ ★★★
衝動買い ★★
TOTAL ★★★