ラ=フォージ少佐になりたい人へ

米国のTVシリーズ「スタートレック」は御存知だろうか? 60年代に開始されたオリジナルシリーズ(邦題は「宇宙大作戦」)は、女性とあらば種族を問わないカーク船長、耳の尖ったバルカン人のスポック副長など、キャラの立ったレギュラー陣と完成度の高い脚本で人気を博した。スポック副長は、まんが「Dr.スランプ」でスコップくんとしてパロられているので、若い層にも比較的知られているのではなかろうか。

だが、筆者はその次の「StarTrek: The Next Generation」(日本では「新宇宙大作戦」)が好み。艦長と副長はさておき、陽電子頭脳を持つアンドロイドのデータ、カブトガニのような額を持つクリンゴン人のウォーフなど、脇を固めるメンバーまで練り込まれたキャラ設定が魅力。なかでも筆者のお気に入りは、全盲というハンデを抱えるジョーディ・ラ=フォージ少佐だ。

この人物、生まれつき視神経に障碍があり目が見えない。視神経に直接映像信号を送ることで視覚として認識させるバイザーが、彼にとっての目なのだ。少佐を演じるレヴァー・バートン氏は、黒人男性が奴隷だった先祖の来歴を知るという米国のTVドラマ「ルーツ」で主役のクンタ・キンテを演じるなど、ラ=フォージ役を演じた時点でそれなりのキャリアを持っていたが、バイザーがあまりに目立つため、正直存在が霞んでしまっている。顔を覚えてもらってナンボの役者さんには、つらいところだろう。

何が言いたいかというと、バイザーとはそれほど視覚的にインパクトのあるものだということ。見慣れないかぎり激しい違和感を相手に与えるので、電車やバスの中でかけていたら、しかも少しニヤけたりしていたら……おそらく半径1m以内には誰も近寄らないだろう。

iPodの映像も楽しめる、美貴本の「iTheaterV」

前置きが長くなったが、今回取り上げる美貴本の「iTheaterV」は、誰でもかけるだけでラ=フォージ少佐を気取れるバイザー型(ヘッドマウント)ディスプレイ。これまでも幾多のメーカーが製品化してきたが、どれも商業的成功を収めたとはいいにくいだけに、再び市場を開拓せんとする心意気は実にあっぱれ。第5世代iPodにも接続できるということもあり、今回取り上げてみる次第。

ディスプレイ部は約70g、見た目の印象ほど重くはない

前面の赤い部分は、ラ=フォージ少佐というより赤レンジャーを彷彿とさせる

コンバータ部はHDMケーブルでディスプレイ部と接続する

コンポジット出力できるAV機器なら接続OK

iTheaterVの特徴は、コンバータ部とディスプレイ部が分離していること。そのためディスプレイ部の重量は約70gと軽く、長時間かけても疲れにくい利点がある。コンバータ部は約50gと軽いうえiPod miniを一回り大きくした程度の大きさ、HMDケーブルでディスプレイ部と接続する仕組み。コンバータ部にはバッテリを内蔵、フル充電(USBで充電可能)すると4~5時間は連続使用できるため、映画を1~2本見るには十分だ。

もう1つの特徴は、VGA 640×480という解像度。iTheaterVには弟分ともいえる製品「iTheater」があり、そちらのピクセル数はQVGA 320×240とiTheaterVの4分の1。人間の目にはどの程度の画面サイズに映るかを意味するバーチャルイメージサイズは、iTheaterが"2.5m先に約50インチのスクリーン"、iTheaterVが"2.5m先に約65インチのスクリーン"。量販店での価格はiTheaterが2万円台後半、iTheaterVが4万円台前半ということをあわせても、後発のiTheaterVが上位機種に位置付けられると解釈していいだろう。

対応する映像機器だが、製品のウリとなっているiPodでなくてもかまわない。片側がステレオミニプラグとなったRCAピン×3のAVケーブルが付属しているので、ビデオでもDVDでもゲーム機でも、コンポジット出力可能なAV機器は原則視聴可能。NTSC / PAL / SECAM自動判別機能を備えているので、日本はもちろん欧州産のコンテンツも再生できる。

コンバータ部の上にAV-INとHMD端子が配置されている

iPodとはこのように接続する

他のAV機器との接続には、片側がRCAピン×3のケーブルを利用する

耳と鼻が気になります

iTheaterVを耳にかけ、コンバータ部のスイッチをON、続けて接続したiPodでビデオの再生を開始すると……見えるのは当たり前として、画面は明るく、画質もなかなかGood。凝視すれば色滲みなどあら探しはできるが、VGAの解像度でもこれだけ鮮明に映るのだな、という印象だ。ハイビジョン慣れした目には4:3というアスペクト比が気になるものの、大型テレビでは味わうことのできない"密室感"というスパイスもある。

実際に目に映るところは写真でお見せできないが、QVGAの製品より映像のシャープさは格段に上

しばらく利用して気になったのが、ディスプレイ部に固定されたヘッドフォン。カナル型というその形状はともかくとして、正直なところ、音がどうにもチープなのだ。わかりやすい例でいうと、iPodに付属のヘッドフォンのほうが音質は確実に上。画面の情報量は従来比4倍に増えただけに、いやが応にもチープさが際だってしまう。この手のデバイスは、画質と音質の両方が揃わなければ没頭することが難しいだけに、惜しまれる点といえる。

付属のカナル型ヘッドフォン。せめて交換可能であれば……

個人差もあるのだろうが、鼻にあたる部分に強い違和感を覚えたことにも触れておきたい。材質は少し固めのゴム製で、しばらくかけていると痛くなってくるのだ。交換用のノーズパッドは1つ付属しているが、サイズも材質も同じ。ぜひ改良をお願いしたいところだ。

ノーズパッドは筆者の鼻にフィットせず、次第に痛くなってきた

○美貴本「iTheaterV」
機能 ★★★
価格 ★★
楽しさ ★★★
怪しさ ★★★★
衝動買い ★★★
TOTAL ★★