【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

人間とは不思議なもので、性格が細かいからといって、その人が必ずしもマメな働き者だとは限らない。どちらかというと怠け者の部類に入り、家の中ではいつもグータラグータラしているくせに、いざ動き出すと今までの怠け者ぶりが嘘のように、やたらと神経質で几帳面な性格を発揮してしまう人もいる。

我が妻・チーもそういう‘細かいけど怠け者な女性’である。たとえば洗濯物の取り込みがわかりやすい。我が家のベランダはリビングに面しており、チーはいつもそのベランダに干していた洗濯物を取り込むと、いったんリビングのソファーや食卓の上にバサッと置く。そこで洗濯物を丁寧にたたんでから、各引き出しに収納しようというわけだ。

その考えはわかる。家庭によって多少の差異はあるかもしれないが、それでも一般的な洗濯物取り込み‘計画’の部類に入るだろう。

しかしチーの場合、それはあくまで脳内の計画であって、そこから実際に行動に移す段になると、たちまち生来の怠け者ぶりが発揮されてしまうから厄介だ。これはどういうことかというと、いったんソファーや食卓の上に置いた洗濯物の山を、数日間そのまま放置することが非常に多いということ。要するに、たたむのが面倒くさくなったのだ。

かくして我が家では、食卓の隅のほうに洗濯物が豪快に放置されたままの状態で、お茶を飲んだり食事をしたりといった現象がしばしば起こる。衣類やタオル類だけならまだしも、当然のように靴下や下着類もあるわけで、僕としては不快でしょうがない。また、ソファーに洗濯物の山がしばらく置かれたままになっているのもつらい。必然的にその放置期間は、ソファーでくつろぐことができなくなるからだ。

だからといって、もし僕が「早く洗濯物をたたみなよ」なんて言葉を発したら、間違いなくチーの機嫌を損ねてしまう。「今やろうと思ってたんだから、そういう気分を壊すようなこと言わないで!」と、真っ赤な顔で憤慨する姿が目に浮かぶ。チーは自分が怠け者であることを自覚しているだけに、痛いところをつかれたような気持ちになるのだろう。

そこで、ある日の僕は自分で率先して洗濯物をたたむことにした。チーがソファーや食卓の上に放置したままの洗濯物を、見るに見かねて僕が黙って片付ける。別に何か文句や愚痴をこぼすわけではないので、これならまったく問題ないだろう。

ところが、である。

あろうことか、良かれと思ったこの行動がチーの逆鱗に触れてしまったのだ。

「ちょっと、わたしがやるから勝手にたたまないで!」

曰く、チーは僕のたたみ方が気に入らないという。大雑把な僕の性格をよく知っているだけに、どうせ適当に収納する気だろうと、まったく信用していないのだ。

「わかったよ。だったらチーがたたんでくれるの?」僕がそう訊ねると、チーは平然とした顔で言った。「うん、あとでやるからそこに置いておいて」

しかしチーの場合、その「あとで」という時間感覚が非常に曖昧だ。本当にすぐあとでやるときもあれば、それからまた一日経過することもある。自分で洗濯物をたたまないと気が済まないぐらい、たたみ方に細かいこだわりがあるわりに、その作業にとりかかるのは異様に遅い。このへんが‘細かいくせに怠け者’という厄介な性癖の真骨頂である。

「わたしはこだわりだしたら徹底的に細かくなるから、洗濯物をたたむのにもかなりの労力を使うの。だから体力的にも時間的にも余裕のあるときにしか洗濯物をたためない。雑な方法でたたむぐらいなら、そのまま放置しておいたほうが気分的に楽なんだよね」

これがチーの言い分らしい。なんだか、よくわからない理屈である。要するに、チーの中には「徹底的にこだわる」か「徹底的に怠けるか」の二択しかなく、その中間の折衷案が存在しないのだ。時間と体力がないならないなりに、適当でもいいからとりあえず洗濯物を収納するという妥協ができないわけだ。

こうなると、僕は完全に手詰まりになる。リビングに洗濯物が放置された状態が数日間続いても、それを我慢して見過ごしながら、ひたすらチーがやる気になってくれるのを待つしかない。家事を手伝う気持ちは満々なのに、動きようがないとはいかに精神的につらいことか。チーさん、僕に洗濯物をたたませてください!

なお、この細かいくせに怠け者というチーの性格は、以前僕の妹が家に泊まりにきたときにもいかんなく発揮された。妹のためにリビングに敷いた客用布団を、妹が帰宅してすぐに僕が押し入れに収納しようとしたのだが、それにもチーがストップをかけたのだ。 「ちょっと待って。あとでわたしが収納しておくから、そのままにしておいて。布団は髪の毛や糸くずをコロコロでちゃんととってから、さらにカビないようにいったん日干しして、それから真空パックで小さく収納しないと……」

しかし、そんな細かい脳内収納計画をさっさと実行に移すかというと、そうではないから厄介だ。そこは生来の怠け者なため、その後二週間ほどリビングに布団が放置されるという惨状になったのは言うまでもない。まったく、なんとかならないものか。

※9月16日に掲載いたしました「【コラム】奥様はコマガール(11)計画だけは細かいくせに怠け者な女」が前回と内容が同じでしたので、差し替えさせていただきました。読者の皆様と関係者の皆様には心よりお詫び申しあげます。
<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
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