前回の本コラムで、単3形電池を使用したモバイル充電器では、うまく充電できない機器があると書いた。充電できない機器があることは確かなのだが、その理由は、筆者が前回示したものとは異なっていた。

使用したモバイル充電器は、日立マクセルが「ecoful(エコフル)」ブランドで販売している「MEC-3C」。単3形のアルカリ乾電池、またはNi-MH(ニッケル水素)充電池を2本使用してモバイル機器に充電を行う製品だ。製品本体とUSBケーブル、携帯電話用充電アダプタが本体とセットになっている。電池は別売だ。

日立マクセルが「ecoful」ブランドで販売しているモバイルバッテリー「MEC-3C」

日立マクセルのモバイルバッテリー「MEC-3C」には問題はなかった!

前回のコラムでは、MEC-3Cと充電対象の機器には相性のようなものがあるのではと考えたのだが、これは完全に筆者の勘違いだったことが判明した。判明させたのは筆者ではなく日立マクセルの方々なのだが、同社および読者の皆さまに大変なご迷惑をおかけしてしまったと反省している。

さて、充電できなかった理由なのだが、どうやら使用した乾電池が劣化していたことが原因だったようだ。以前にこのコラムでも取り上げたことがあるように、乾電池には使用期限がある。ご存じの方も多いだろうが、電池に使用できる期限が記されており、家に保管していた乾電池が、まだ使えるのかどうかを知る目安として使える。店頭で乾電池を購入する際に、使用期限を気にすることはあまりないが、ごく稀に期限の切れた乾電池が流通している場合もないわけではないようで、筆者は今回、それに遭遇してしまった。

そんなわけで、日立マクセルが用意してくれた同社のアルカリ乾電池「ボルテージ」をMEC-3Cに入れてスマートフォンを接続してみると、何事もなかったかのように充電が開始された。本来こうでなくてはいけない。これで安心して、スマートフォンを充電し忘れることができるわけだ。

電池を日立マクセルののアルカリ乾電池「ボルテージ」に変えたところ、何事もなかったかのように充電

充電できる電池とできない電池とでどのくらい差があるのか?

「電池が古くて劣化している」というのが充電できなかった理由となると、気になるのが、どのくらい劣化していたら充電に使用できなくなるものなのかという点だ。

というわけで、電池の性能をチェックしてみたいと思う。乾電池に負荷として1.5Ωの抵抗をつないで、データロガーで電圧の変化を測定してみた。なお、筆者の使用しているデータロガーは、それほど精度の高いものではないため、示される数値は"絶対値"としてはあまり信用できない。しかし、同じ条件で測定した"相対値"としてならばある程度信用できる。また、負荷が1.5Ωだと低いように感じられるかもしれないが、電池ボックスや接続しているコード、接点などにもわずかながら抵抗値があり、それらの分がプラスされるので、回路全体としてはもう少し高い抵抗値になっているはずだ。

ボルテージ・単3形を使用した場合の電圧変化

上の図は、ボルテージ・単3形を使用した場合の電圧変化をグラフにしたものだ。スタートしてから4時間くらいまで徐々に電圧が降下していき、4時間を越えたあたりで、急激に低下している。電池として使えるのはこのくらいまでということだろう。

続いて、MEC-3Cではスマートフォンに充電できなかったアルカリ乾電池で同じように測定したグラフを重ねてみよう。青の線がボルテージで、赤の線が充電できなかったほうのアルカリ乾電池だ。ボルテージの電圧は、スタート時で約200mV。このアルカリ乾電池よりも上回っている。2つの電池の電圧は、約3時間後にはほぼ横並びになる。ここまでの電圧の差が、充電できるかできないかの差になっているのではないだろうか。

ボルテージ単3形とスマートフォンに充電できなかったアルカリ乾電池の電圧変化の比較

前回のコラムで書いたように、このアルカリ乾電池でスマートフォンの充電を行ったところ、充電開始後にすぐ充電がストップしてしまっていた。下の写真はこのアルカリ乾電池で充電可能な機器を充電してみた際の電圧だ。日立マクセルによると、MEC-3Cは「単純に昇圧しているだけ」とのことだった。そのため、電池の電圧の差は、出力されるUSBポートにそのまま引き継がれるようだ。つまり充電できない機器では、機器側がその低い電圧は充電に適さないと判断し、充電をストップさせたということなのだろう。

USBの5Vに比べるとかなり低い電圧が示されている

MEC-3Cは、アルカリ乾電池だけでなく、NI-MH(ニッケル水素)充電池でも利用できるとされている。しかし、Ni-MH充電池はアルカリ乾電池に比べると電圧が低い。

下の図は、パナソニックのNi-MH充電池「eneloop(エネループ) lite」を、先ほどと同じ条件で放電させたものを重ねたグラフだ。黄色の線がeneloop liteだ。放電時間が約1/2と短いのは、eneloop liteの容量が通常のeneloopの1/2だからだ。

Ni-MH充電池「eneloop lite」も比較してみた

スタート時の電圧は、ボルテージに比べて400mVほど低い。また、安定して放電している1.5時間後の状態でも、100mVほど低い。スマートフォンに充電できなかったアルカリ乾電池より、電圧が上回ったことは一度もない。しかし、このeneloop liteは、スマートフォンに普通に充電できる。USBポートから出力されている電圧は4.5V前後だ。Ni-MH充電池はアルカリ乾電池に比べて単位時間当たりで流せる電流の量が多い。そのあたりが関係しているのではないだろうか。

電圧は低いがスマートフォンに充電できる「eneloop lite」

さて、このeneloop liteではスマートフォンを普通に充電できたが、筆者の手元にあったNi-MH充電池の中には、先ほどのアルカリ乾電池と同じように充電できなかったものもあった。それらは、かなり前からデジタルカメラ用の電源として筆者が使用してので、おそらく劣化が進んでいると考えられる。Ni-MH充電池が劣化していくと、特性がどのように変化するのかも気になるところだが、それはまた別の機会にしたい。

充電に使用した電池を調べてみると……

下のグラフは、MEC-3Cでスマートフォンに充電を行った後のボルテージを、先ほどと同じように放電させてみたときのものだ。青い線が未使用のボルテージで、赤い線が充電に使用した後のボルテージだ。

どうやら、スマートフォンの充電に使用したあとでも、まだ半分ぐらい容量は残っているようだ。このグラフで赤の線をそのまま2時間分右にずらすと、青の線にほぼ重なる。つまり、入力される電圧をチェックしている機器を充電する場合、アルカリ電池の電圧が高い領域のみが使用されるようなのだ。おそらくこれが、劣化した電池を使用できない理由なのではないだろうか。

このような機器の充電に使用した電池は、大電力が必要な電子機器などには使いにくいが、リモコンやラジオなど、消費電力の少ない機器にならばまだまだ十分使うことができるだろう。

用途によっては、まだ十分に使える