【コラム】

窪田真之の「時事深層」

47 ガス小売り自由化で何がどう変わる?

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2017年4月から、都市ガス小売りが完全自由化される。個人もどこからガスを買うか選べる時代になる。既に2016年4月に、電力小売りが完全自由化されているが、1年遅れで、ガスも自由化される。電力に加えて、ガスもどこから買うか、自由に選べるようになる。

ちなみに、プロパンガスの販売は既に自由化されており、何も変わらない。また、都市ガスでも、工場など大口向けは、既に自由化されている。4月から変わるのは、一般家庭向けの都市ガス販売である。

何がどう変わるか、多くの人が感じる3つの「素朴な疑問」にここで答える。

(1)我が家は、これまで東京ガスから都市ガスを購入してきた。我が家へは東京ガスのガス管を通じて都市ガスが送られてきている。どうやって、他の会社からガスを買うの?

<回答>これまで、一般家庭向けの都市ガス供給は、地域のガス会社が独占していた。一般家庭では、ガス管を所有している地域のガス会社から、ガスを購入する以外に選択肢がなかった。

自由化後は、多数のガス会社が、地域のガス会社が所有するガス菅を共同利用するようになる。たとえば、東京23区内の一般家庭が、ガスの購入先を地域のガス会社(東京ガス)から、新規参入するA社に変更すると、A社は、東京ガスに「託送料金」を払って、ガスの託送を依頼することになる。

とは言っても、ガスに色はついていない。A社が地域ガス会社に引き渡すガスがそのまま届けられるわけではない。地域ガス会社が届けるガスは、必ずしも同じガスではないが、規格が定められているので、どちらのガスでも問題ない。

ガス漏れなど緊急対応が必要な場合には、A社からガスを購入していても、これまで通り地域のガス会社が駆けつけて対応する。そこは変わらない。

変わるのは、ガスの販売会社が、地域ガス会社から、A社に変わることだけである。一般家庭は、自分が選んだA社からガスを購入したことになり、A社に料金を支払うことになる。

ガス自由化の基本的な仕組みは、電力の自由化と同じである。電力では、地域の電力会社が所有する送配電ネットワークを、共同利用できる仕組みに変えた。新規に参入する電力小売り会社は、既存の電力会社に電力の託送を依頼することになる。

送配電網を開放し、誰でも利用できるようにしたことが、電力小売りの自由化を実現する鍵であった。ガスでも、ガス菅を解放し、誰でも利用できるようにすることが、小売り自由化を実現する鍵となる。

電力・ガスの自由化より早く、通信の世界でも、自由化が進められた。NTTが所有する通信ネットワークを開放し、誰でも利用できるようになったことで、さまざまな通信業者がケータイ電話やインターネット接続サービスに参入して競争するようになった。

(2)ガス小売りが自由化されると、ガス料金は安くなるの?

<回答>安くなる可能性が高い。ガス小売りの自由化は、競争を促進し、料金引き下げや多様な料金メニューが広がることを、目的としている。

地域のガス会社が割高なガス料金を設定している場合は、他の割安なガス会社からの購入に切り替えれば、料金が低下する。地域のガス会社が、顧客流出を避けるために、対抗して料金を引き下げる可能性もある。

購入先を変えても、ガス管工事は必要ない。これまで通り、地域のガス会社からガスが届けられる。購入先と料金が変わるだけである。

(3)ガス・電気・携帯電話などをセットで契約すると、料金が安くなるの?

<回答>セット割引はいまや携帯電話・ケーブルテレビ・インターネット接続など、あらゆる分野に広がっている。消費者にとっては、セット販売を申し込むと、ばらばらに分かれている料金支払いが一本化される上に、割引料金を受けられるので、メリットになる。ガスの小売りが自由化された後は、さまざまなセット販売が、さらに増えると考えられる。セットで購入することで、料金が割引になる可能性が高まる。

通信や放送会社から見て、電気やガス料金とのセット販売は魅力的である。携帯電話会社にとって、解約(他社への乗り換え)率を低下させることは、経営上の重要課題だ。携帯電話を、ケーブルテレビやインターネット接続とセットで契約する顧客は、携帯電話だけを単独で契約している顧客より、解約率が低いことがわかっている。携帯電話会社は、解約率を下げるのに効果があるセット販売に積極的だ。

電力会社やガス会社にとってもセット販売は魅力的だ。セット販売で顧客を囲い込むことができれば、自由化で他社に顧客を奪われるリスクが低下するからだ。

東京ガスなど大手ガス会社は、昨年4月、電力小売りが自由化された際、相次いで、電力小売りに新規参入した。ガスと電気のセット販売で、積極的に割引料金を仕掛けていた。1年後にガス小売りが自由化されることが決まっていたので、早くから電気・ガスのセット販売で利用者を囲い込みを狙っていた。

利用者は、いろいろなセット販売を幅広く比較して、自分にとって最もメリットが大きいと思うセット販売を慎重に選択すべきだ。最初に聞いた話に飛びついたら、後から、もっと有利な提案がたくさん出てくるということもあり得る。電気やガスとのセット販売をやりたい企業は、日本中にたくさんある。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

※写真と本文は関係ありません

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連載目次
第47回 ガス小売り自由化で何がどう変わる?
第46回 米景気回復の勢い増す - イエレン議長が利上げ予告
第45回 トランプ演説、議会の熱気伝わり株高
第44回 トランプノミクスで恩恵を受ける株とは?
第43回 2017年の日本株はリスクとチャンスが共存
第42回 追い詰められるサウジアラビア
第41回 "中国GDPが6.8%増"発表の意味--中国政府が景気悪化を認めざるを得なくなった
第40回 日銀の緩和補完策、市場の失望招く--原油価格の下落も不安を増殖
第39回 米FRBが9年半ぶりに利上げ実施、日銀はどうする?--追加緩和の可能性も
第38回 "株主優待目当て"の株購入は個人投資家にとって問題はないのか?
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第12回 電力小売り自由化、何がどう変わる? 電気料金は安くなる?
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第2回 スイス・フランが歴史的急騰 - 「為替を自然体に任せる」
第1回 2015年、なぜ「中国経済」が懸念されている?

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