安売りの郊外店からスタートして都心に進出する家具店は、果たして成功するのか?

快進撃を続ける家具のニトリが、ついに銀座に出店した。吉と出るか凶と出るか、注目は高い。安売りで高成長した小売企業が、ブランドイメージを高めるために銀座に出店するのは、よくあるパターンである。1992年「洋服の青山」、1999年「マツモトキヨシ」、2004年「ドン・キホーテ」、2005年「ユニクロ」などの例がある。

銀座出店が絶頂期で、そこから業績が停滞する企業もある。洋服の青山などの紳士服量販店がそうであった。一方、銀座出店を契機に、ブランドイメージを高めて、さらに飛躍する企業もある。ユニクロがその代表例だ。

果たして、安売りの郊外店からスタートして都心に進出する家具店は、成功するのか。実は、これには先例がある。同業の大塚家具である。銀座・新宿など都心一等地に店舗を持ち、ていねいな接客で高級家具を売る戦略をとってきたが、郊外で低価格戦略を取るニトリに押されて、業績は低迷が続いている。

ニトリと大塚家具の過去10年の純利益推移

(注)ニトリは2月決算で、大塚家具は12月決算、ニトリの2005年2月期と大塚家具の2005年12月期を始点として10年間の純利益比較。大塚家具の2015年12月期のみ会社計画。それ以外はすべて実績

大塚家具は、最初から都心で高級家具を売る戦略をとっていたわけではなかった。1980年代には低価格戦略で急成長していた。卸を通さないメーカーからの直接買い付けで低価格を実現し、家具販売に価格破壊を起こした。ところが、その大塚家具はその後都心に進出して高級家具を重視する戦略に転換し、ニトリやIKEAの低価格戦略に食われて業績が悪化している。

大塚家具の戦略変化を象徴する出来事が、1999年の新宿出店だ。業績悪化で閉鎖された三越新宿店に代わり、大塚家具が出店した。これは当時、流通戦国時代の下克上を象徴するできごととして話題になった。かつて小売業の王者と見られていた百貨店が没落し、郊外の安売りで急成長してきた大塚家具が本丸を制する時代が始まったと言われた。

ところが、今振り返ると、それが大塚家具の絶頂期であった。都心を制した途端に、今度は、北海道から出て郊外の安売りで急成長するニトリに追われる立場となった。

銀座出店が絶頂というと、「洋服の青山」も思い起こされる。洋服の青山の銀座初出店は、1992年10月だった。当時、バブル崩壊で不況色の強まる日本で、安価な中国製スーツを売る「洋服の青山」人気が沸騰していた。郊外で急成長した青山の銀座出店は時代を象徴する出来事として、当時マスコミに大きく取り上げられた。話題性もあって、銀座店には買い物客が殺到した。「激安青山、激高ボーナス」のように青山の躍進をやっかむ報道も出た。後から振り返ると、そこが紳士服量販店ブームのピークであった。

銀座出店後に飛躍する企業と低迷する企業を分けるのは何か?

銀座出店後に飛躍する企業と低迷する企業を分けるのは何か? 成功事例のユニクロを見るとわかる。ユニクロは当初は、中国製の安価な衣料品を売る店として成長した。その後、ブランドイメージを高めるために銀座へ出店した。同時に進めていたのは、新素材・高級素材の開発である。「フリース」「ヒートテック」など独自の新製品を出し続け、消費者の支持を高めていった。銀座出店と、商品開発の成功がうまくかみ合っていた。

ニトリはどうか? 似鳥社長の経営説明会に私は何回も出席している。似鳥社長は、常に慎重な経営者であった。高成長しても浮かれず、浮き沈みの激しい小売業界で、いつでも足をすくわれることを意識した発言に終始している。今は違うが、かつて「似鳥社長が経営説明会で話しをすると、翌日ニトリの株価が下がる」と言われたことがあった。将来の見通しを聞かれて、あまりに慎重な話をするので、投資家が真に受けてしまうことがあった。

ニトリは当初、中国製の安価な家具を売る小売業として成長した。中国製品は安いけれど品質はいまひとつと思われていた時代もあった。ニトリは、そこから生産管理を徹底し、新商品開発を進め、ブランドイメージを少しずつ高めていった。家具だけでなく、住居製品を幅広く経営するホームセンターを併営し、家具と住居製品をセットにしたトータル・コーディネートで消費者の支持を高めてきた。そして今、満を持しての銀座進出である。

ニトリと大塚家具が「銀座」で激突

先に首都圏に進出した大塚家具は、戦略転換が必要となった。これから大塚久美子社長の元で、高価格帯を重視した戦略を見直し、中価格帯を重視した戦略を打ち出す。一方、ニトリは、銀座出店を契機に、低価格帯を重視した戦略から、中・高価格帯まで取り込む戦略を打ち出す。

両社は同じ銀座で衝突する。今、銀座は、中国などアジアからの観光客の買い物でにぎわっている。中国人観光客の「爆買い」の恩恵をフルに受けている店がたくさんある。銀座ブランドの価値が、外国人観光客によって一段と高まっている。ニトリと大塚家具は、それを生かすことができるのか、今後が注目される。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。