【コラム】

窪田真之の「時事深層」

17 3月の貿易収支、なぜ「貿易黒字」に転換できたのか!?--黒字額は徐々に拡大へ

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輸入が原油価格急落で減少、輸出が自動車・半導体・金属加工機械などで増加

財務省が発表した2015年3月の貿易収支(速報、通関ベース)は2,293億円の黒字に転換した。(1)輸入が原油価格急落の恩恵で前年比14.5%減少したこと、(2)輸出が自動車・半導体・金属加工機械などの増加で同8.5%増えたことが貢献した。

原油急落が、日本経済に強い追い風となっている。昨年7月に1バレル100ドルを越えていたニューヨークのWTI原油先物(期近)は、足元55ドルまで下がっている。原油は世界的に供給過剰で、価格低迷は長期化しそうだ。

日本のエネルギー輸入価格は、今後時間をかけて少しずつ低下していくことになる。原油の輸入契約は長期契約主体で、スポット価格が急落してもすぐに輸入価格に反映されるわけでないからだ。日本の貿易黒字額は、原発再稼動がなくても、これから徐々に拡大に向かうだろう。

日本が2011年に31年ぶりの貿易赤字に転落したのは、東日本大震災で原子力発電所が停止し、火力発電の燃料輸入が増えたことが最大の原因であった。原発が停止して電力需給が逼迫する中、中東からあわててLNG(液化天然ガス)を緊急輸入したために、世界一割高なガスを買う破目になった。

日本が緊急輸入したLNGは100万BTU(熱量単位)当たり16~18ドルである。アメリカのシェールガスが100万BTU当たり3-5ドルであることを考えると、日本は非常に高価なLNGを買わされ続けてきたことになる。

長崎駅前から見た東京電力のLNG船(2014年撮影、(C)石井清)

原油急落を受け、これから輸入LNG価格は低下していくことに

LNGは長期契約で、2018年くらいまで高値で契約したLNGの輸入が続く可能性があった。ところが、原油急落を受けて情勢が変わった。日本が輸入するLNGには、原油に連動して価格を調整する契約が多い。原油急落を受けて、これから輸入LNG価格は低下していくことになる。

日本は、アメリカから安価なシェ-ルガスの輸入を計画しており、実現すれば日本のガス輸入価格の低下に寄与する。ただし、LNGに転換するコストや日本まで運搬するコストがかかるので、日本に持って来るとコストは100万BTUあたり10ドルを越える可能性もある。

実現はむずかしいかもしれないが、サハリン(ロシア)からパイプラインを敷設して天然ガスをそのまま(LNGに転換しないで)輸入すれば、日本のガス輸入コストはさらに低下する。欧州へのエネルギー輸出が減少して苦境に立つロシアから、パイプライン敷設の提案があるが、今のところ日本がそれを拒否しているままだ。

資源価格の下落は原油やガスだけでない--技術革新によって一斉に増産が可能に

資源価格の下落は、原油やガスだけでない。昨年は、石炭・鉄鉱石・銅・ニッケルなど、天然資源が全面安になった。これまで天然資源は、供給に制約があって増産がなかなかできない中で価格が上昇してきたが、技術革新によって一斉に増産が可能になった。原油生産は特に技術革新が著しい。深海やシェール層など、かつては採掘が不可能だった場所から原油が採掘できるようになった。

日本は、2010年まで30年連続で貿易黒字を計上していた「伝統の黒字国」である。「失われた10年」といわれた1990年代でも貿易収支は黒字であった。日本は、今年の後半から来年にかけて、再び貿易黒字国の地位を回復することになるだろう。

円安によって日本の輸出企業が競争力を取り戻し、日本の輸出が伸び始めたことも、貿易収支改善に効果を発揮する。自動車・機械・電子部品など日本が技術面で優位を保つ分野の回復が目立つ。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

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