スイス国立銀行(中央銀行)が16日、2011年以来続けてきた無制限の為替介入を突然やめると発表し、スイスフランが1日で一時30%もの急騰(対ユーロ)を演じたことが、世界中に波紋を広げている。

「中央銀行は嘘をついていいのか?」。スイスフラン急騰で大きな損失をこうむった投資家からは恨み節が聞こえる。スイス中央銀行が1ユーロ=1.2スイスフランを上限として無制限のスイスフラン売り介入をすると宣言していたことを信じて、スイスフランを売り建てていた投資家は一瞬にして大きな損失をこうむることとなった。

中央銀行の介入は、為替市場に大きな影響を及ぼすが、それにも限度はある。スイスは、国土面積では日本の九州とほぼ同じ面積の小さな国だが、経常収支で黒字を稼ぎ続ける「高信用国」である。

(注:2014年はIMF予想、出所:IMF)

放っておけばスイスフランは対ユーロで上昇を続けることになる。スイスは国内の輸出産業の競争力を維持するため、無制限のスイスフラン売り介入を宣言してスイスフラン上昇を抑えてきた。

ところが、欧州中央銀行(ECB)が追加金融緩和に踏み込む公算が高まり、ユーロ売り・スイスフラン買いの市場エネルギーが増大してきたために、スイス国立銀行は介入でスイスフランの上昇を抑えることを断念せざるを得なくなった。

かつて日本円は、スイスフランと同じ「高信用通貨」とみなされ、絶え間ない買い圧力に悩まされていた。為替介入だけでは円高を止められないという、スイスと同じ経験をしている。

ところが、最近、日本円はスイスフランのように上昇はしなくなってきた。日銀が異次元緩和によって通貨供給量を大幅に増やしていることにもよるが、それだけではない。日本の経常収支の黒字が、東日本大震災後に火力発電用の燃料輸入が増えて、大幅に減少したことも影響している。

(注:2014年はIMF予想、出所:IMF)

ドイツも高水準の経常黒字を稼ぎ続けている。今は存在しないドイツの通貨「マルク」は、かつてスイスフランと連動する「高信用通貨」であった。

(注:2014年はIMF予想、出所:IMF)

ドイツマルクも、もし今存在していれば、絶え間ない買い圧力にさらされてスイスフランのように上昇を続けていただろう。ところが、ドイツは2002年に他のユーロ諸国と通貨統合を行い、共通通貨「ユーロ」を使うようになった。通貨統合には、ギリシャ・スペイン・イタリアなど信用の低い国が多数含まれるので、通貨「ユーロ」には、売り圧力が働く。ドイツは、通貨統合という仕組みに入ることで、自国通貨高に苦しまないで済んでいる。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。