【コラム】

IT資本論

140 ポストモダン・エコノミー(3)ポストモダンにおける情報の非対称性問題

近勝彦  [2007/03/23]

これまで十数回にわたって、ポストモダンのエコノミーという新しい経済の可能性を眺めてきた。その中のひとつの領域に、ポストモダンのマーケティングがある。

社会全体が豊かになり、売り手も買い手も多様なメディアやチャネルが利用できるようになると、これまでの売り手優位の状況は一変する。

買い手は、なぜモノを他者(売り手)から買うのだろうか。それは、自身で作れるものは限られているし、ひとつの職業に専念することによって、「分業の利益」(分業の経済)が得られるからである。

その分、商品やサービスに関する様々な情報や知識は、かつては圧倒的に売り手(メーカーや流通業者)が持っていた。そこで、もっと安いモノやもっと適切なモノがあったとしても、その情報格差によって、買い手は売り手の販売条件を飲んでいたのである(または業者が得ていた法外な利益すら知らないでいた)。

しかし、あらゆる商品情報や販売に関する情報がICTを基盤にして、買い手も入手できるようになると、これまで営々と築き上げてきた業者の立場や状況も変わらざるを得なくなる。これまで積み上げてきた産業秩序や定型化(慣習化)された経済構造は、まさにモダンエコノミーなのである。それが限界に来ている産業や企業は多数にのぼる。これからの脱却や飛躍は、モダンエコノミーのロジックを乗り越えることである。

そこで、マーケティングの領域に次世代の考え方を持ち込んだのが、ポストモダンのマーケティングなのである。

モダンエコノミーのベースにあるのは、コスト削減のロジックである(よって、ミクロ経済学もコスト分析を中心に展開する)。一定の商品が出来るようになるという前提(財の同質性)が満たされれば、次は、果てしのないコスト削減競争である。これによって、中国をはじめとする新興工業国は飛躍的な躍進を続けているのである。そのあおりを受ける形で、日本の国内メーカーは、海外からの安価な代替商品にとって代わられることになる。

このような新興工業国の挑戦を跳ね返すためには、メーカーにおいてはコスト削減活動を絶えず試みるとともに、やはり、新規参入者や模倣者が模倣できないモノを作るか、キャッチアップされるその先を創造し続けるしかない。特許をはじめとした知的財産戦略が必要な理由はここにある。他方、流通業者においては、新しい販売方法や店舗の設計が欠かせない。商品の構成自体も常に変化させ、新しい商品販売を試みることが必要となる。

しかし、このような積極的で戦略的な行動をとる企業は、実はそんなに多くない。大抵の企業は、現状の商品群やチャネルを維持することに汲々としている状況であろう。その理由は、このようなイノベーションを持続的に行うには強い意志とかなりの費用がかかるからである。

ではどうすればいいのか。縮小均衡を容認して、ゆっくりとした死を容認するのか。人であれ、企業であれ、誕生があれば死もまた必定ではあるが(企業は理論的には法人なので永遠の命も可能であるが、事実は吸収合併などによって統廃合されている)。

そこで、再生のための手法としてポストモダンのマーケティングが注目されることとなる。

先にモダンマーケティングにおいて、売り手と買い手の情報の格差(非対称性)がなくなり、それにもとづいて利益を上げられにくくなったと述べたが、その格差を今一度回復させるのが、ポストモダンのマーケティングといってもいいだろう。

前回も登場したS・ブラウンのTEASE理論を、今一度使って情報の「非対称性問題」として読み解いてみたい。

まず、第一番目のT(Trickery)は、色々の「トリック」や仕掛けを変えることである。日本では、顧客を欺くような印象を受けるが、大道芸人のパフォーマンスを見ても楽しいように、いろいろなプロモーション(販促)は、行き過ぎない限り決して悪くない。

二番目のE(Exclusivity)は、「限定」という発想である。初回限定、先着何人様限定、初回のみ特別ギフトの設定などいろいろとある。より本質的には、より高い付加価値物を少量作っていくということである。限られたモノであるというメッセージは、人を妙に購入に走らせる力を持っている。

第三番目はA(Amplification)で、「増幅作用」である。ICTを使った口コミなどもこれにあたるが、ここでは商品の価値自体をより高めるための様々な表現を考えることもできる。最近しゃれた店を巡って感じることは、店先に情報端末が急に増えていることである。これは、大抵、商品の機能や意味を延々と語っているのである。

第四番目はS(Secrecy)で、「秘密」である。顧客に隠されたすぐれた秘密が、この商品にはあるのではないか。特殊製法で出来ているなどの文字を見ると、なんとなく納得してしまうことがある。

最後がE(Entertainment)で、「娯楽性」とでもいうものである。いろいろなイベントやお客様への感謝フェアーや各種の集いなどがこれにあたる。

以上のことを情報の格差創造という面から考えるとどうなるだろうか。

まず、第一番目のトリックは、まさに、顧客の予想を覆すことである。期待をはるかに超えた仕掛けを施すことである。モダンのマーケティングのように予想の範囲を忠実に実現することを目指すのではなく、予想すらはぐらかすことなのである。

第二番目の限定は、価値の変遷を変えることである。大量販売モノでは、買った瞬間から価値はまっすぐに低下する。それに対して、限定品は、プレミアムを生み出す余地を残しているのである。

第三番目の増幅もまさに購入者の購入の喜びを増しさらなるロイヤリティを高めることに役立とう。第四番目は、秘密であるが、これこそは顧客の興味や関心を持続させる手法である。秘密があるから、それをもっと知りたくなるのである。実際は、枯れ尾花であっても、それが分かるまでは楽しめるのである。これは、あえて特許をとらずに、先も述べたように特殊製法として守っていく戦略にも通じる働きがある。

最後が、エンターテイメントである。モダンマーケティングでは、もっとも安くもっとも早くもっとも正確にお届けすることが求められているが、それが社会経済の仕組みとして当たり前になると、かえって顧客の魅力を失わせることにもなる。もっと、企業や商品にも遊びや面白みがあってもいいのではないか。エンターテイメントこそが、もっとも情報の格差を生み出す元なのである。製品が、サービスと融合したり、人々が自分にあった形に商品をカスタマイズするのは、まさに商品を通して遊びたいからなのである。

定型的で杓子定規で平凡な生活を多くの人は送っているからこそ、それを覆すような仕掛けやエンターテイメントの提案は、顧客に強い印象と感動を生むと考えられる。モダンエコノミーが機能と性能を売ることを目指したとすれば、ポストモダンなエコノミーは、それをベースにして、それに強い個性と愛着を生むことを目指す経済なのである。

さて、このコラムも今回で終了となる。しかし、世の中には終わりはない。つねに技術は進歩するとともに、人の心も常に変わり続けていくのである。

次にあるものは何かを皆様もいろいろと思い描いてください。そのときに、「古きを訪ねて新しきを知る」のことわざは、役に立ちます。そこで、筆者は、プレモダン(レトロ・マーケティング)を、モダンの力を借りて、さらに先へ進めようと考えているのです。

またどこかでお会いすることを楽しみにしたいと思います。これまで長きにわたってありがとうございました。

    新着記事

    特設サイトの情報

    求人情報

    人気記事

    一覧

    イチオシ記事

    新着記事

    特別企画

    一覧

    転職ノウハウ

    あなたの仕事適性診断
    あなたの仕事適性診断

    4つの診断で、自分の適性を見つめなおそう!

    Heroes File ~挑戦者たち~
    Heroes File ~挑戦者たち~

    働くこと・挑戦し続けることへの思いを綴ったインタビュー

    はじめての転職診断
    はじめての転職診断

    あなたにピッタリのアドバイスを読むことができます。

    転職Q&A
    転職Q&A

    転職に必要な情報が収集できます

    スカウト転職する
    スカウト転職する

    企業からアプローチのメッセージが届きます。