【コラム】
ネットワークは、パワー獲得のための装置であり、パワーゲームが展開される「場」でもある。そのネットワークが、進化する過程で何が起きるのだろうか。それを「共進化」(co-evolution)という概念を使って考えてみよう。
ネットワーク戦略には、主に2つのものがある。そのひとつは、前回もみた「アライアンス戦略」(alliance strategy)であり、いまひとつは、「集合的戦略」(collective strategy)と呼ばれるものである。この集合的戦略は、多くの企業(とくに中小企業)が同時に、同じ戦略行動を取ることである。たとえば、同業者組合や協会などに属する多くの企業が、同じような行動基準を採用することなどが入ろう。
このネットワーク戦略の意義と変化を、前回出てきた料理店のネットワークをまた使って考えてみよう。前回のコラムでは、3つのポピュラーな料理の店が、共同でサイトを作り、それによってお客を拡大していく可能性をみた。この場合、新しいお客を獲得するというメリットのほかにも、それぞれの店のコストも下がる働きがあったことを確認した。通常語られるネットワークの効果はここまでであろう。そこで、ここではさらに飛躍させて考えてみたい。
前回コラムの図表のAは、食材調達と店のブランド化に優れており、Bは、財務管理とマーケティングに優れているとしよう。さらにCは、人材の育成と出店計画が巧みであるとする。このように、異なるスキルやノウハウを相互に教えあえば、それぞれの店の経営管理能力や企業能力は格段に向上するだろう。互いが他者のいい面を学習しあうことによって、それぞれの企業は自己成長が果たせるであろう。
しかし、このレベルでは、あくまでも個店の成長レベルである。そこで、せっかく、経営者や従業員が互いをよく知りあい、高めあってきたのであるから、いっそうの自己成長を遂げたいという欲求に駆られたとしよう。その段階になると、3店の経営を統合しようとする動きもあるかもしれない。この場合、3店がひとつの企業となることもありうる。そうすると、大幅に間接部門の合理化を進めることが出来るからである。しかし、それぞれの企業のブランド名(店の名前)を維持したとしても、それぞれの店や料理の独自性が失われ、平凡な店に転落する恐れもある。そこで、経営はまったく別に維持したまま、3店が共通したブランド・イメージ(ブランド思想)を展開することが考えられる。
たとえば、Aは、有機野菜を地元の農家と提携して安く仕入れており、健康志向の高いカレー店というイメージや評価を得ているとしよう。このようなブランド・イメージは、すべての料理に違和感なく当てはまるものである。そこで、この3店は、健康と安全をテーマに共通のブランド戦略を採用したとしよう。すると、3店は自分の料理を通じて、いかにしてお客の健康づくりに貢献できるかという顧客価値向上のための競争が始まるだろう。あらゆる面で、健康と安全と環境に配慮した店作りが行われるようになることは十分に考えられる。
この段階にくれば、単なる共通のサイト作りというにとどまらず、新しいネットワーク ビジネスの創造といえるだろう。バラバラなイメージや価値観が統合され、店ごとの矛盾や誤解は解消されるだろう。すると、お客は、これまでの3店の総和以上の大きさで増加すると考えられる。
早晩、このネットワークは、この都市の他の料理店から大いに注目を集めることになる。このまま、この3店の独走を許しておけない状況も生まれよう。なぜなら、収益が大きくなれば、それぞれの店は多店舗化を実施し、さらに大きな市場を奪う恐れがあるからである。他の店がこれを阻止するには、自らも新しいブランド戦略を展開せざるを得ないであろう。一店でできないのであれば、自分たちもネットワーク化を進めるしかない。勿論、大きな都市になれば、外部資本の巨大企業がチェーン展開を進めることも当然ある(これもネットワークの一様式である)。
このような状況を総括すると、3店のネットワークが、他のネットワークの創設を促し、ネットワーク間競争の様相を帯びることになる。そして、新しく出来た複数のネットワークの新しいコンセプトや行動が、またこの3店のネットワークに影響を及ぼすだろう。ようするに、ネットワーク同士が相互に参照しあいながら、創発的な成長がそれぞれに誘発されるのである。そして、これらが相当程度の影響力を市場に生じ始めれば、市場環境全体を揺り動かすことになる。この段階では、当該都市の飲食市場環境自体が進化を遂げることになる。通常は、個別企業にとっては、市場環境は制約要因(条件)であり、ビジネスの前提であるが、ネットワークが大きな力を持ち始めれば、あたかも巨大企業が市場への影響力を与えるような働きをするのである。
このように、ネットワークは、ネットワーク間の競争を通じて、創発的な進化をそれぞれにもたらしながら、市場環境自体の進化も促すのである。その新しく変容され創出された市場環境が、またそのなかにあるネットワークや個別企業に影響を与えるのである。このような進化のあり方を、共進化ということができよう。
では、このような共進化を遂げるにいたった企業およびネットワークは、その後どうなるであろうか。実はその予測は極めて困難である。なぜなら、一端はいわゆる勝ち組の進化を遂げたとしても、他のグループが創造的な学習をし続ければ、この3店のアドバンテージは早晩失われるかもしれないからである。インターネットの普及とここでみるネットワーク化は、これまでよりも何倍もの速さで情報と知識を流通させ、それぞれを進化に導く。また、ここで述べたような共同のブランド・イメージやコンセプトが、時代の推移のなかでお客の好みに合わなくなるかもしれない。にもかかわらず、共同事業であるから、すぐにはブランド・アイデンティティの書き換えができないかもしれない。すると、ポジティブ・フィードバックが一転、ネガティブ・フィードバックに変わり、急速に凋落することもないとはいえないであろう。
企業は、アントレプレナーによって創造され発展させられる。そして、その企業は、内部の様々なパワーが複雑に絡み合って形成され、動かされている。さらには、企業間のパワーゲームとしてのネットワーク化がその複雑性に拍車をかける。そして、企業同士のネットワーク自身も他のネットワークと戦略的競争を繰り広げ、共進化を促す。その共進化は、個別企業の成長のみならず、衰退の原因にもなるのである。
今回のコラムの記述は、実は、アントレパワー・スクールという認識フレームを超えたものであった。このような認識や知見は、本来、「エンバイロメント スクール」(企業環境重視学派)が主に扱っていたり、「コグニティブ・スクール」(認識学派)や「ラーニング スクール」(学習学派)が得意とするものである。
そこで、次回からは、後2者を統合したものに「創造学習・スクール」(creative learning school)という言葉を当てて、新たな認識フレームからe-戦略思考を考えていくことにしよう。それは、まったく新しい世界観の提示であり、新たな戦略的思考の始まりである。
(大阪市立大学 近勝彦)
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