【コラム】

IT資本論

84 コンテンツ流通論(25) コンテンツのビジネスモデル(1) 5つのモデル

近勝彦  [2005/09/02]

ちょっと前に、「ビジネスモデル」という言葉が流行っていた。日本の近代的な産業が興っておよそ130年が経った。もちろん、江戸時代から続く伝統企業もあるが、西洋近代化された企業システムはやはり明治期以後である(ただし、江戸時代の商業経済システムは実はかなり進んでいて、同時代の西洋社会と比較してもむしろ先をいっていた面もあったことを近年の日本経済史は教えてくれる)。ただし、今の産業制度や企業システムの多くは、やはり戦後60年の間に形作られたといえよう。しかし、世紀が変わるあたりから日本も本格的な情報社会となり、それへの不適応や制度疲労が目立つようになったのも事実である。そこで、新しい企業モデルを模索する必要から、ビジネスモデルという考えが注目されるようになったと考えられる。

もちろん、ITを中心とした新しいビジネススタイルをもった企業が、ITバブルが進行する中で過剰に評価され、それらの株価が高騰していったことは記憶に新しい。しかし、日米ともにITバブルが2000年に崩壊し、狂騒的なビジネスモデル漁りは終息していった。しかし、その中のいくつかは立派にビジネスを成功に導き、改めてITを活用した新しいビジネスモデルが注目を集めるようになった。とくに、「BtoC」型EC(企業対消費者の電子商取引)でも、その市場規模が5兆円を超える(2004年)ようになり、ますますこの市場は拡大を続けている。そこで、新しいECモデルが新たな飛躍の種であると考えられているのである。

コンテンツビジネス、とくにデジタルコンテンツ関連のビジネスは、広い意味ではITビジネスの中に入る。そこで、デジタルコンテンツビジネスのモデルを考察することにも意義があると思えるので、ここ何回はこの課題を議論してみたい。しかし、このコンテンツビジネスに関するモデルにも、実に多くの検討課題が存在している。そのすべてを扱うことは無理なので、ここではコンテンツの電子商取引に関するモデル論とその収益モデルに限って議論することにしよう。その第一回目として、コンテンツに関する「BtoC」モデルを扱う。

これに関しても、一日の長がある米国の事例が参考になる。そこで、米国のマーケティング論の権威、P・コトラーが『コトラー新・マーケティング原論』(コトラー他著、有賀裕子訳、翔泳社)の中で紹介している5つのビジネスモデルを援用してコンテンツビジネスのさまざまな形を考えてみたい。

その第1は、「インフォメディアリー」型モデルと呼ぶものである。情報の仲介業者のようなものであるという。その代表が、ポータルサイトであるという。確かに、ポータルサイトは、情報カテゴリーと情報量をますます増やし、まさに、コンテンツの供給者と需要者の間に立つ存在になっているといえよう。または、買い手と売り手が双方とも増加するようなものである。たとえば、コンテンツの売り手がたくさん集まったとする。すると、購入者は、さまざまなコンテンツにアクセスすることができる。コンテンツの価値のひとつには、その選択の多様性もあるので、多くのコンテンツの集積には意味がある。また、購入者が増えれば、販売可能性が高まるのでさらなる新規参入者が増えることが考えられるのである。

その第2は、「ファシリテーター」型モデルである。これも情報の仲介活動ではあるが、もっと売り手と買い手を結びつける働きをするものである。特定の条件を満たしている買い手に対して、有益な情報やサービスを提供するなどである。ファシリテーターという言葉は、もともとは促進者という意味であり、ここでは取引に関してよりマッチングを高めようとするサービス提供者のことである。たとえば、特定のコンテンツを持っている人とそれを欲している人を結び付けるサービスが考えられる。

第3は、「アグリゲーター」と呼ぶビジネスモデルである。これは、情報を収集し選別するモデルである。この世の中には、あらゆるジャンルにおいて無数の製品と価格が存在している。そこで、まずは製品情報を集めるとともに、その価格情報も分かれば、買い手は購買の時に、その情報を持つサイトにアクセスすることは十分に考えられる。現にこのタイプのビジネスモデルは、利益を上げるまでに成長している。このモデルでの成功は、いかに多くの、かつレアなコンテンツを収集できるかにかかっているといえよう。

第4は、「トラスト・インターメディアリー」とコトラーが呼ぶものである。ネットにおける取引でもっとも大きな課題のひとつは、なんといっても、売り手と買い手の双方に信頼性がなかなか確保されない点である。そのために、さまざまな犯罪やトラブルが生まれている。ビジネスは、人々が困っていることを解消することである、という言い方があるが、ここではまさに信頼性の確保をいかにして実現するかである。そのためには、法社会制度の整備が考えられる。その上で、第三者がなんらかの認証をすることによって、信頼性を確保しようということがある。そのような認証ビジネスも拡大を続けている。この場合、システム上の信頼を確保するものもあれば、取引上のリスクを下げるものもある。取引者自体を保証するようなものもある。コンテンツに関して言えば、これは情報財であるから、その特性上、内容が不分明である。そこで、あらゆるコンテンツに関するさまざまな評論やコメントが花盛りとなる。これを有料のビジネスとしておこなう企業も今後は多数現れると考えられる。

現実的なビジネスでは、以上のような4つのタイプはそれぞれ別々のものというより、いくつかが複合した形であることが普通であろう。これらのビジネスに対して、より一層、特定の企業や人々に対するコミットメントを高めたものもある。それが、「eビジネス・イネブラー」とコトラーが呼ぶものである。イネブラーとは、なにかを可能にする人という意味である。ここでは、情報通信システムとそのノウハウを使って、特定のビジネス活動をサポートし、顧客に対して一層の価値を生み出すような存在といえよう。

これはコンテンツビジネスを一層拡大するためには、大きな力を発揮すると思われる。前にも述べたように、コンテンツ産業の中でも、デジタルコンテンツ分野が急成長を遂げている。さらには、ネットワーク化に対応することによって、コンテンツの販売可能性は一層高まると考えられる。しかし、コンテンツを供給する人々の大半は、芸術家や作家や各種アーティストである。日本には古典芸能や古典的な芸術家が多数おられる。または、自治体やさまざまな組織の中にも多くのお宝的なコンテンツが眠っている。それらの芸術性や本来の価値を損ねることなく、デジタルコンテンツ化することは、潜在的な価値の顕在化になろう(これは必ずしも商業的な価値のみではないといえよう)。

今後は、すばらしいコンテンツを再発見し、再構成し、多くの人々にコンテンツの価値に触れられるようにする人が望まれていよう。彼らは、コンテンツプロデューサーやコンテンツマネージャーと呼ぶことができるが、ここでの言葉を使えば、「コンテンツ・イネブラー」と呼ぶことができるかもしれない。

(大阪市立大学 近勝彦)

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