【コラム】

IT資本論

78 コンテンツ流通論(19) メディアの闘い方(4) パーソナル・メディアの進化

近勝彦  [2005/07/15]

未来学者A・トフラーは、今から25年前にブームを起こした名著『第三の波』の中で、将来の人々は、「エレクトロニック・コテージ」に住み、「プロシューマー」(自分でモノを作り消費する人)になると述べた。確かに、家庭内での情報機器の種類は日々増加し、徐々にではあるが「ホーム・オートメーション」(HA)を導入する家庭も増えている。何よりも、PCとインターネットがしっかりと家庭の中に普及している。他方、余暇時間の増大を背景として、さまざまな趣味や文化活動に参加する人も増えている。それを支えるDIYビジネスも拡大を続けている。既存の商品やサービスに飽き足らなくなった「趣味人間」がプロシューマーとして存在感を増している。

これはメディアにも当てはまろう。メディアを自分で開設し、運営する人々が目下急増中である。これは先の概念になぞらえて言えば、「メディシューマー」といえるかもしれない。大マスコミの流すコンテンツを楽しみながらも、もっと自分にあったメディアやコンテンツが欲しいと感じている。自分が企画し、自分が書き、自分が撮影したコンテンツを同じメディア消費者に伝えたいという人々が増えている。たとえば、テキスト(文字)中心の個人的なメディアとしては、ブログが大増殖中である。その動機は多様である。単純に、日々の個人的出来事を記録に留めておきたいというものから、自分のフォーカスしたテーマにあったニュースに評論を付して掲載していくようなものもある。企業では、トップが自社の社員に向けて自分のミッションと思想を共有するためのツールとして使う例も増えている。社員同士では、情報共有のためのイントラネット的に利用する場合もあろう。このように、いろいろな理由がありながらも、多くの人々がパーソナル・メディアを保有しつつあるといえよう。

このパーソナル・メディアもブログのほかにも有力なものがたくさんある。たとえば、インターネット・ラジオやインターネット・テレビというものもある。さらには、ホームページやソーシャルネットワーキング・ツールも広い意味ではこのなかに入ろう。そこで、ここではテキスト中心メディアとしてのブログと、音声中心メディアとしてのインターネット・ラジオを例に取り、パーソナル・メディアの進化の形を考えてみたい。

メディアには、その普及範囲や媒体の違いによる様式区分もあるが、ここではメディアの記号性に注目して議論したい。すなわち、テキスト性と音声性によるメディアの振る舞いの違いを記述してみたいのである。

図表 テキストと音声からみるメディア空間

まず、上記の図表は、横軸に、現在と過去をとっている。これは、「ライブ」(生または速報性の高いもの)であるか、「記録され保存されたもの」であるかということである。それに対して、縦軸は、上に音声によるものをとり、下にはテキスト(文章)をとっている(ただし、インターネットの特徴はマルチメディアであるので配置は厳密ではないことに注意)。

これから特徴的なことは、音声系メディアは、主に第一象限に属していることが多いことである。もちろん、映画やコンサートや観劇などは、ビデオやDVD化されて販売されているが、これは一次的にはすでに上映されたものであるから、二次利用に当たる。これからすると、音声系メディアの特徴は、まさに「ライブ」であるといえよう。それは、音声や動画像が本来持つ記号特性に依拠している。音や映像は、本来的に連続的である。それゆえ、きわめて冗長的で時間消費的である。だからこそ、視聴者の理解のために、TV番組などは、原則的に編集を行い、解説(ナレーション)をつけるのである。まさに、これらのメディアは、情緒的特徴を強く持っているといえよう。

それに対して、文字メディアの特徴はいかなるものだろうか。文字表現は実に冷静で分析的である(もちろん詩文のように非分析的なものもある)。その分、文字は真実をかえって伝えていないことも多い。なぜなら、冷静に読み返されることを前提にしているので、書き手としても、それなりに分析的に表現しているからである。そのために、文章を書くことにはさまざまな配慮が必要なので、やはりしんどい仕事になる。

この関係をF・ソシュールの「ラングとパロール」という概念でさらに考えたい。ラングとは、コミュニティ(民族や共同体など)の中の言語において規範を与えるものである。もっといえば、言語の中の文法と辞書のような働きである。それを基盤として、人々は現実的な発話をおこなっている。その発話活動がパロールである。このパロールは個々人の自由な利用に任されているから、往々にして辞書から逸脱をしようとする。とくに、新しいメディアの出現のときには、ラングから逃れようとすることが多い。たとえば、携帯電話による「絵文字」の利用や新しい表現は、メディアの制約下での遊びとしての要素もある。それに対して、新聞や書物は文法や文字利用の制限が強い。それはまさにここにいうラング的機能の体現されたものであるからである。

翻って、図表のそれぞれのメディアをみると、それなりの存在根拠をもっていることが分かる。パーソナル・メディアにしぼって議論すると、インターネット・ラジオは、文字も表現できるが音声が中心である。その場合、音声というメディアから、聴取者にはインパクトが強いものといえよう。なぜなら、聞き手の情緒に強く訴えかけることができるからである。しかも、文字よりもむしろ事物の微妙な感覚的な様子を伝えやすい。それに対して、ブログは文字が中心なので論理的であるが、表現能力に依存する面もある。しかし、文字や数値という表現手段は、別のよい面もある。たとえば、自商品をネットによって販売しようと考えたときに、商品の種類や規格や連絡先などを詳細に記述することができる。これを言葉で聞くだけでは、正確に理解することはできないであろう。

これから分かることは、パーソナル・メディアとしてのブログとインターネット・ラジオは別の機能をもった表現手段であることが分かる。すると、パーソナル・メディアを利用して、たとえば、電子商取引を行いたいと考える中小企業や個人においては、両方があったほうがいいであろう。ホームページ上に、ブログが載っていることは常識化しているが、さらにはインターネット・ラジオがあればどうだろうか。ラジオ機能によって、商店主や個人のパーソナリティが表現できるし、商品の感覚的なよさも伝わろう。それを聞いて、今度は文字や画像で商品を分析・評価するのである。電子商取引の大きな欠点である冷たさやライブ感のなさをラジオによって補うことができるだろう。

ただ、より多くのメディアを融合させ、再構成することは、リアル・ワールドの状況に人々を戻すことになろうが、その分、発信に時間とコストがかかるだろう。しかし、情報資本主義の世の中、すぐに、「マルチ・パーソナル・メディア」構築のためのサービス支援業者が現れるだろう。かくして、メディアの闘いは、これからも際限なく繰り返されていくことになる。

(大阪市立大学 近勝彦)

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