【コラム】

IT資本論

76 コンテンツ流通論(17) メディアの闘い方(2) メディアはフォースである

近勝彦  [2005/06/25]

前回は、新しいコミュニティ放送のビジネスモデルをみた。今回は、さらにこの放送局モデルからいかなる展開が可能かを眺望してみたい。

まず、この局の名前、「ラジオカフェ」というネーミングが面白い(実際に放送スタジオの横にカフェ室を設けており、福井代表とのインタビューはここでおこなった)。ちょっとメディアの歴史を遡ると、そこにはカフェがあった。英国で初めてメディアが成立するとき、それに先立って、市民が誕生していた。ここでいう市民とは、社会的公共的課題を自由で平等な立場で、議論できる人々のことを指す。当時勃興し始めていた市民階級の人々は、夜毎、カフェやパブに集まっては、政治や経済や社会的出来事を話し合っていた。その議論を通じて、市民性も発展していった。まさに、カフェは「公共圏」(public sphere)形成の苗床であったのである。

その後、社会経済的な出来事に関心を持ちつつあった市民のために、もっぱら社会的出来事の情報や知識を集めてくる仕事が生まれ始めた。それが新聞業である。その新聞社は、より広いエリアの情報をより深く収集し評論するために、次第に巨大になっていった。その新聞社に勤務する新聞記者が、もっぱらジャーナリズムの担い手として情報や知識の流通に関して独占力を持つようになった。すると市民は、次第に新聞社が流す記事に情報を依存するようになり、かえって市民の情報力・批判力は衰退していった。その後、電波メディアとしてのラジオ局やTV局が開局をし、マスメディアとして、市民の世論形成の役割を担うようになった。そのマスメディアは、政治権力や経済的巨大勢力に対峙し、彼らを監視し評価する機関としての役割を果たすとともに、市民からも離れた存在へと変貌を遂げるようになった。少なくとも、マスメディア自体が巨大な機関であることから、市民はメディアに関してはもっぱら受動的存在へと位置づけられていったのである。

しかし、今回注目しているラジオカフェは、再び、カフェを設け市民の溜まり場を形成しようと考えている。しかも、かつてとは異なり、狭い範囲とはいえ、ここで議論されたことを多くの人々に放送できる、ラジオの機能をもっているのである。他の言葉で言い換えるのならば、かつてのカフェの親しみやすさとメディアの持つ伝播力を兼ね備えた存在なのである。

京都ラジオカフェ・福井文雄氏

ただし、このラジオ局はあくまでコミュニティ放送であるから、電波のエリアが狭い。そこで、インターネットによって、他の地域の人々に放送を受信できるようにすることが考えられる。それによって、京都の文化伝統や京都の話題を、日本中の人々が聞くことができるのである。京都は、その一部が世界遺産に指定されているし、日本文化の総本山的な存在であることから、世界の人々に大きな意味をもつと考えられる。さらに、インターネットは放送とは異なり、インタラクティブというメリットもある。そこで、放送とインタラクティブ機能を組み合わせた新しいサービスの開発が可能となろう。たとえば、京都にあるさまざまな商品について、放送とネットを融合させて、ネットショッピングを実現することは有効かといえる。EC(電子商取引)の欠点は、商品の説明が文字や写真などに限られるということである。そこで、放送によってその解説をした後に、ネットで商品を買うことは考えられることである。

筆者がもっとも期待したいことは、前回にも述べたように「市民の発信性」である。市民が、自己表現として、自己実現として、自分が考えていることや新しい提案をできる点である。そこで、この市民発信力は、以前に話をさせていただいた「ケイパビリティ・サイト」と結びつくと大きな力を発揮すると考えられる。たとえば、以前紹介した「アークバーク・ネット」では、動物保護のために広く支援者を募っている。そのときに、ネット上のサイトでは、どうしてもリアリティが伝わりにくい。そこで、日本の動物保護の貧困な現状とこのサイトがもっている思いを、職員の方が生で話をすることができれば、彼らの支援はもっと大きなものとなろう。また、「セルプセンター」の方が、ここに来て、施設・作業所と企業のコラボレーションの話をすれば、京都市内のさまざまな歴史と伝統を持つ企業との連携も生まれる可能性が高まるであろう。

つぎに、さまざまなメディアとのコラボレーションも新しい世界を開拓すると思われる。たとえば、この夏には「チェコ・ラジオ」(チェコ・プラハの公営ラジオ局)と交流事業を始めるという。チェコは、かつて旧ソビエト連邦の軍事介入を招いた苦い経験を持つ。そのときに、それに抵抗したのが「地下放送」であった。そのプラハ市と京都市は姉妹都市提携をしていることもあり、この度の交流事業が開催されるのである。ラジオは、東欧だけではなく、多くの第三世界ではきわめて有力なメディアとして機能しているのである。そのような第三世界の放送局の団体に、日本で唯一この局は加盟もしている。このような海外とのネットワーク作りは、京都という「世界都市」(国際観光都市)に多くの海外からの観光客や留学生が訪れることからしても、素晴らしい社会的国際貢献であるといえよう。

すべてのビジネス、すべての社会活動、すべての人々の運動は、色々の動機を含みこみながら、多くの人々の心の共鳴と協力によって実現する。このためには、まずは自身の素晴らしいミッションと活動を多くの人々に知ってもらうことが必要である。この局は、3分・1,500円余りで、放送できる機会を広く市民に開放しているのである。この局は、自身のネットワーク化をどんどん進めているとともに、これに参加する市民および市民団体のネットワーク化も押し進めて欲しいと思う。そのときには、当然、インターネットによるネットワーキングも大きな力を発揮しよう。これからも分るように、ネットワーキングのためには、無線系であれ、有線系であれ、リアル系であれ、どれでもいいといえよう。むしろ、すべての存在を前提として多様に結びつくことで新しい価値が生み出せるといえよう。

そこで大事なことは、やはり「市民の発信力の向上」をどう実現するかである。しかし、さらに踏み込んでいうと、さまざまな「市民の活動の力」になることであろう。これをメディア論の大家であるマクルーハンの有名な言葉に引っ掛けていうのならば、「メディアはメッセージである」ということを超えて、さらには「メディアは、市民のためのフォース(力)」になるべきであるといえよう。21世紀の市民革命は、よりよい社会建設のための平和で冷静な革命であって欲しい。その主役は、明らかに無数の専門性を有する市民である。その市民がゆるやかなネットワーキングを結ぶことによってフォース(力)をもつ。

イマージンしてほしい。このようなNPOラジオ局が日本中に無数にできて、それが緩やかに結びつくならば、これまでの巨大なマスメディアよりも市民の支持を勝ち得るかもしれない。これは、「21世紀のメディアの闘い方」のひとつの形であるかもしれない。

(大阪市立大学 近勝彦)

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