【コラム】

IT資本論

69 コンテンツ流通論(10) ケイパビリティ・サイトの評価基準

    近勝彦  [2005/04/25]

    コンテンツ流通のためのメディアとして、インターネットは大きな地位を占めつつある。音楽配信に続き、今後は映像配信も本格化するであろう。そのインターネット上には無数のサイトがあり、いまだ増加を続けている。そのさまざまなサイトの開設目的は実に多様である。もちろん、ブログのような新しいネットワーキング・ツールの進展も著しい。

    ところで、サイトはどのように評価されてきたのだろうか。いかなる基準で評価されてきたのだろうか。それぞれの利用者は何らかの理由によってサイトを選別してきたであろうが、改めて考えてみると、その理由や選別基準は不分明である。そこで今回は、その基準について考えてみたい。

    ただ、その評価基準自体も人によってさまざまであろう。ここで網羅的に取り上げることはできないし、その必要もないと思われるので、今回は、これまでにあまり取り上げられなかったと思われるサイト評価基準を考案してみたい。といっても、これまでの評価基準もちょっと考えてみたい。なぜなら、通常考えられている評価基準との対比によって、新しい評価基準の輪郭がはっきりすると考えるからである。筆者の考えでは、サイトは図表1のように4層に分けて捉えることができると考える。

    図表1 サイト評価のための4層構造
    コンテンツ層 4層 コンテンツの豊富さ、質、鮮度、ユニークさ
    「コンテンツの本質に関する評価」
    3層 サイトのビジョン、アイデンティティ、多様便益支援
    「サイトの目的とミッションに関する評価」
    システム層 2層 サイトの信頼性、安全性、ユニバーサル妥当性
    「サイトの応用的条件に関する評価」
    1層 サイトの基本動作、基本的要件の具備性
    「サイトの基礎的条件に関する評価」

    サイトの評価は、図表1でいえば、「システム層」レベルで議論されることが多いと思われる。これは別の言葉で言えば、サイトの基盤的な条件適合性といえるかもしれない。サイトが一般化するにしたがって、基本的な作り方が暗黙の内に定まり、各種の認証も完備されつつあるからである。

    これに対してここで議論したい基準は、「コンテンツ層」である。ただし、この中の第4層は、いろいろな面でこれまでも評価を受けている。サイトを訪れる理由は、サイト内のさまざまなコンテンツを閲覧するためであるからである。そこで、これまであまり明確に取り上げられることがなかった評価にフォーカスしてみると、やはり「第3層」となろう。この層は、サイトの使命や目的性と関わっているといえよう。ではどのような内容をその層は持つのだろうか。この捉え方もまた論者によっていくつもあろうが、筆者は、ふたつの理論に依拠してこの評価基準を構築してみたい。

    その第1は、経営学の中のブランド理論である。とくに、D・アーカーの「ブランド・アイデンティティ論」を援用したい(『ブランド・リーダシップ』阿久津聡訳、ダイヤモンド社)。彼の理論は、ブランド理論の主流派を形成しているが、その中核にある「ブランドには強いアイデンティティが必要である」という見方をここでも採用したい。商品やサービスに対する顧客ロイヤリティを高め、顧客との強い絆を創るためにはブランドの果たす役割はきわめて大きいが、サイトもそのような関係構築が目指されているのであるから、この理論が適用できると考えられる(また大抵の企業はサイトを作りECを実践しつつあるので、ブランド形成はその目的でもあるといえよう)。第二としては、A・センの「ケイパビリティ論」を導入してみたい。彼によると、「ケイパビリティ」(capability: 潜在能力)とは、「人が自ら価値を認める生き方をすることができる自由」(『自由と経済開発』石塚雅彦訳、日本経済新聞社)であるという。彼の専攻は厚生経済学であるが、とくに恵まれない発展途上国の開発理論に多大な貢献をしたことによりノーベル経済学賞を受賞している。そして、経済社会の進歩は、「人々のもつ自由が強化」されることによってもたらされるという。

    翻って、インターネットの普及と利用を考えてみると、当初は利用状況による格差によって、いわゆる「デジタル・ディバイド論」が盛んに議論されたが、実は、さまざまな人々の情報アクセスの可能性を飛躍的に広げたという面では、むしろ脱ディバイドの働きに注目すべきであろう。たとえば、大規模図書館が近くになくても、日本のどこででも情報や知識を入手できる。所得の格差によって図書の購入に制約があっても、インターネット上には無数の無料の情報・知識が存在している。さらには、身体に障害を負っている人でも、ネット検索によって自由に情報を獲得できるのである。このように、インターネットは、これまでは情報弱者(実は経済弱者と大半は重なる)であった人に、さまざまな幸福追求の基礎となる情報や知識の獲得を容易する働きがあることが分かる。これはまさに、先のA・センのいう「自由の拡大」に他ならないであろう。同じ考えや立場の人々とネットワーキングすることによって相互支援が可能となる。ネットワークを利用したコミュニティは、より広い範囲の人々をつなぎ合わせ、強い共感と共鳴を作り出すのである。都会の片隅で、過疎の地で、孤立していた人々を孤独な世界から飛躍させる力を付与するのである。

    図表2 ケイパビリティ・サイトの評価基準
    1. 明快なアイデンティティの確立
      ブランド・エッセンス、ブライド・アイデンティティ
    2. 十分な情報ベースの構築
      情報の量と質、利用者サイドの利用可能性
    3. ケイパビリティへの志向性
      ミッション、開発への強い意志
    4. エージェント(力)のための開発
      支援制度、助言機能

    ここで、さまざまな人々の自由選択を可能にし、個々人の幸福追求を支援するためのサイトを、「ケイパビリティ・サイト」と呼ぶことにしよう。このようなサイトは、図表2のような4つの視点をもっていると考える。その第一は、サイトのアイデンティティである。利用者から見て、はっきりした強いメッセージをもっていることが望まれる。第二は、やはり価値のある十分なコンテンツが必要である。人々の困難な意思決定を支援するためにはそれなりの情報の質と量は必要であろう。第三は、サイトが、人々の潜在能力をいかんなく開花させるために設計されているかである。最後が、その設計を現実のものにするために、いかなるコミュニケーション機能を使い、どのように支援を実現しているかである。上記4つの視点を明確に分けることは実際にはなかなか困難であろうが、理念的にはこのような視点を提示することができると考える。

    ちょっと注意を要する点は、この評価基準は、主に、非営利活動や非営利組織の中で創られるサイトのものといえる。それゆえに、今後数回にわたって取り上げる現実のサイトもまさにそのようなものである。しかし、営利企業のサイトもそのような機能や性格をもちつつあると考えられる。なぜなら、営利企業でも現代経済社会では、「企業の社会的責任」(CSR:Corporate Social Responsibility)や「フィランソロピー」(社会的貢献)なども地域社会から要請されているからである。営利企業といえども、地域社会の中に存在しそこに住む消費者から利益を得ている以上、その帰属社会へのそれなりの利益還元は当然の責務と考えられるからである。

    (大阪市立大学 近勝彦)

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