【コラム】
前回は、ジフ構造が生まれる要因のひとつである作品自体の内容とクオリティに関する議論をしたが、今回は経済学的分析を試みてみたい。
まず、映画の供給サイドからの分析をおこなおう。ひとり勝ちとなる作品の大多数は、やはり大作であろう(ここでいう大作とは資本投下が大きい作品とする)。なぜ、大作には大きな資金が必要となるのであろうか。実写による映画の製作には、実に多くの製作関係者がかかわっている。しかも、その撮影と製作には長い年月を有するものも少なくない。または、大規模なセットも必要であろう。それに出演しているキャストの数も極めて多い。大作ともなると、主役級の出演者には、多額の出演料も支払われるであろう。さらには、作品ができても、それを日本中の人々に知ってもらうためには、テレビCMやさまざまなセールスプロモーションが必要であろう。そして、上映段階となれば日本中の劇場での上映費用がかかる。これらすべての費用を見積もると、一本の映画が構想され、製作され、配給されるためには、実に多くの資本投下が必要であることが分かるのである。アニメにおいては、俳優こそ登場しないものの、セル画を原則的には一枚一枚手書きで書き上げていく制作コストはきわめて大きいと考えられる。最近では有名な俳優が、音声で出演していることも多々ある。
しかも、映画を含めてコンテンツはよく"水物"といわれることがある。これは、ヒットを飛ばすかどうかが絶対に分かるというものではないことを意味している。それゆえに大手映画会社は、そのリスクを回避するために、いくつもの映画を製作し、全体として、資金を回収し利益を確保するということが必要となろう。まさに、株の購入やメーカーの商品開発・販売に似ており、ポートフォリオ的に供給することによって、利益を確保していく必要があるのである。それが可能なのは、やはり大きな資本を調達でき、大作をマネジメントでき、全国的に配給できる、大手映画会社だけということになる。
つぎに需要サイドでも、大作に人々が集まる理由がある。映画は、情報財でいうところの「経験財」(前回参照)である。すなわち、映画の主観的便益(観た個人がその映画を面白いと感じる大きさ)は、やはり映画を実際に見ない限りは分からないのである。そのように事前に価値が不明な場合は、消費者はその消費に用心になり、情報収集活動をおこなうことが普通となる。そこで、少しでもCMで流れていて、ある程度ストーリーが分かったものや、友人・知人が勧めたものを観ることとなろう。大作は、やはり巨額の資本を投下されているということもあり、はずれが少ないと考えることが多いかもしれない。すると、それを観にいった人から多くの話を聞く機会があろう。それらが評判を形成し、大作により多くの人々が足を運ぶことになるのである。しかも、映画は多くの余暇活動のひとつであり、他の余暇とは代替的な関係になっているともいえよう。ようするに個々人の映画鑑賞は、特別な人を除いては年に数回が限度ということである。すると、限られた回数のなかでの消費であれば、いきおい大作が選ばれるといえよう。このように需要サイドにおいても、大作が消費されることが多いといえよう。
このような映画を取り巻く需給環境下で、いかにすればより多くの小さい作品が採算ベースに乗ることができるであろうか。それを、図表を使って考えてみよう。
| 図表 ジフ構造型市場と2つの異なるコンテンツ戦略 |
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ここでは、大きな収入を得られない作品の利益確保のための戦略をみてみたい。大きな全国規模の上映のためには採算ラインが高い。そのために、少数の大作しか利益を確保できないとすれば、それ以外の配給方法(チャネル)を探るほかはないと考えられる。実際に、地方などの公民館などで上映しているものも散見される。
新しい低コストのチャネルとして有力なのは、やはりインターネットであろう。コンテンツをデジタル化しネットに流せば、需要の確保は別に考えれば、小作品で低コストで配給できるであろう。それを示しているのが、図表のネット作品のコスト曲線である。コスト曲線が下方にシフトすることによって、採算ラインに乗る作品は確実に増加するのである。これはある意味当たり前なことであるが、少ない収入に見合ったコストで作品ができれば採算は確保できるのである。これによって、大資本を持たない中小企業や個人でも作品作りをすることが可能となるのである。とくに昨今は、ますますコンテンツの集中化現象が進んでいるとも言われている。図表を使えば、まさに需要曲線が、下方にシフトしているのである(赤い線から青い線へ)。
コンテンツ産業がより発展していくためには、世界的なレベルで供給される大作が必要である。しかし他方で、さまざまな関心や興味を満たすような作品も多く生まれてほしいのである。そのいわば登竜門としても、ネット上での配給は大きな可能性をもっているといえよう。しかも、スモール・ペイメント(小額料金)の回収を兼ねた、大手のプロバイダーがコンテンツの供給を始めている。いまはその作品の大半は、これまでに製作されたもののリユースであるが、今後は、新規のネット専用のコンテンツもここで流すことが試みられるであろう。
もっといえば、現在、電子出版のサイトが少しずつではあるが拡大している。これは既存のテキストを電子化したものもあるが、新規のデジタル書籍もある。これが成り立つとすれば、ネット専用のデジタル映画ないしはデジタル画像を専門に扱う企業やサイトも出てこよう(すでにあるかもしれないが)。
我々は確かに、多くの人が消費しているから自分もそれに乗り遅れないために同じように消費するという、いわゆる「バンドワゴン型」のコンテンツ消費が多いであろうが、他方で、それぞれの人は特殊な趣味や嗜好性を持ち合わせている。人とは違うものをこそ選ぶという「スノッブ型」のコンテンツ消費も十分に考えられるのである。我々はそのバランスをモノ財の消費でもコンテンツ財の消費でもとっていると考えるならば、コストが劇的に安くなれば、マニアックなコンテンツの市場が広がるともいえよう。インターネットは、そのような市場を切り開くツールとして機能する時代が来ることを期待したい。
このような新しいコンテンツの消費は、ひとり映画に限らずさまざまものでもみられよう。たとえば、現在プロ野球が大きな転換期に差しかかっていると言われているが、米国には大リーグ機構とは別の独立リーグが存在している。日本でもその可能性が模索され始めているが、考えてみればこれも、球団運営費用がもっと安くなればもっと多くの野球団が存在できる可能性を示唆しているのである。このように、これまでの大資本によるメディアの寡占に対して、インターネットはいわば「オルタナティブなメディア」となり、新しいコンテンツの供給基盤ともなりうると考えるのである。
そのためには、「ひとり勝ちのコンテンツ戦略」とは異なる、いわば「ひとり勝手なコンテンツ戦略」が描かれる必要がある。そこで次回は、まさに「ファナティック・コンテンツ」(少数の熱狂的な人々に支持されるコンテンツ)の消費を考えてみたい。
(大阪市立大学 近勝彦)
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