【コラム】

IT資本論

44 コンテンツ経済序説(2) コンテンツの定義を巡って

    近勝彦  [2004/09/27]

    コンテンツとは何か。この概念を巡って実はさまざまな考え方がある。そこで、このコラムで議論すべき内容(範疇)を示す意味で少し深く議論をしてみよう。辞書による解説では、コンテンツとは、「書籍の目次」とか「内容」や「中身」のことであるという。この定義自体は、日常用語としてのコンテンツの意味を表しているが、情報経済を議論するための定義としてはかなり一般的で抽象的過ぎるといえよう。そこで、この定義を4つのレベルで定義・分類すると、以下のようになると考える。

    コンテンツの多様な定義

    最広義 すべてのデータ・情報・知識(これは辞書でいう情報内容にあたる)
    広義 知的資産、知的資本、ブランド、ナレッジ体系
    狭義 経済的に取引される情報財
    「文字、映像、音楽などの情報素材を加工して制作され、ユーザーに届けられる情報商品」
    (『マルチメディアの現状と展望'98』日本マルチメディアフォーラム)
    最狭義 PCやインターネットの中で流通可能なデジタルコンテンツ

    最広義の定義では、ほぼすべての情報・知識が入ることになる。最終的には、すべての情報・知識を動員して企業活動・社会活動をするのであるから、これらの量と質全体が重要であることは間違いない。ただ、この定義であると、わざわざコンテンツという用語を使う意味が失われると考えられる。

    つぎに、広義の概念によると、企業や個人の活動にとって有用な情報・知識の体系であると考える。本コラムが対象とする概念は主にこのレベルであると考えられる。これと狭義の概念の違いは、狭義の概念では経済的取引の対象となった情報財をいうと考えるのである。つまり、狭義のコンテンツとは対価を支払って購入した情報財をいうのであり、GDPなどで計測される財のなかで無体の財のことなのである。しかし企業においても、すべての情報・知識が取引されるとは限らないのである。むしろ知識とは、外部との取引によって獲得するものではなく、内部の組織人員が企業に必要な情報や知識を生み出し内部のみに供給するために編成されるものであるといえよう。筆者は、本コラムを通じてコンテンツ経済の重要性を説くのであるが、それは経済取引された情報財だけではなく、組織内で開発される内部資源として活用されるコンテンツに注目をしているのである。

    さらには、最狭義の定義としては、PCやインターネット上に流通するデジタルコンテンツ自体を指すという場合がある。コンテンツの具体的なものとして、映画やテレビ番組、音楽、小説、書籍などを思い浮かべるのが一般的であるが、このような財はかつてからあったものである。しかしこれまでは、コンテンツという言葉はあまり使われなかったのである。やはり、デジタル化され、PCやインターネットの中を自由に流通するようになることによって、このような財の新しい成長可能性が認められ、コンテンツという概念が脚光を浴びるようになったのである。そこで、情報経済においては、デジタルコンテンツをむしろ中心に考えている場合が多い。ただし、筆者の考えでは、すでに議論した「無形で目に見えない資産」(隠れた資産)の大半はコンテンツであると考えるので、これをいかに増やし、いかにそのレベルを上げていくかにフォーカスしたいのである。むしろ、これらをデジタル化することによる意義を議論するのである。さらにIT化とコンテンツ化の進展の関係を示したものを図表に示す。

    図表 情報化とコンテンツ化の進展

    コンテンツ自体がこれまで見てきたように実に多様な「内容」をもっている。それをデジタル化しビジネス化したものを「コンテンツビジネス」というと考えるのである。これには次のふたつの意味がある。

    そのコンテンツビジネスとは、メディア産業のデジタル化であるということもできる。すなわち、さまざまなメディアがデジタル化し新しい財に転化することを意味するのである。書籍をデジタル化して電子書籍となる。アナログ放送をデジタル化して、デジタル放送となり、その番組は放送のみならずインターネット内に流れることになる。映画などのコンテンツも映像データベース化されて、VOD(ビデオオンディマンド)となろう。このようなメディアの進化はきわめて重要であるので、このコラムの対象ではあるが、むしろ本コラムでは次のことを中心に考えたい。

    すなわち、すべての産業の「IT化」と「コンテンツ化」である。これまでIT化が急速に進み、さまざまな産業内での情報資本の賦存量が大きくなっている。それによって、それぞれの企業と個人は速やかに情報や知識を獲得できるようになった。コンテンツ化はそのIT基盤の上に成り立つと考えることができよう。IT産業は、この流れの延長線上から、さらにはコンテンツ化を推進する方向に向かうであろう。情報通信システムを完備した後は、より高度なコンテンツを各企業が生み出せるようにするのである。既存の産業としては、さまざまな知識体系が現存している。その量と質を一層高めるためにコンテンツ化を図るのである。このコンテンツは後述するように実に多様な局面で利用されるであろう。商品の開発ノウハウの確立であったり、内部の知識の共有化であったり、マーケティングのために使われるであろう。

    一例として、サプリメント食品企業のコンテンツ化を考えてみる。自社のサプリメント食品を電子商取引で販売しようと考えたとしよう。そのためにはIT化、すなわち、インターネット上で販売するためのシステムを構築しなければならないだろう。しかし、単に商品をWebサイトの中に並べるだけでは、このモノ余りの時代、差別化は難しい。そこで、健康科学を追求し、自社のサプリメントがいかに優れているのかを顧客に伝えることが必要となろう。もっといえば、自社の商品の購入以前に、顧客のサプリメントの知識を高めるためのコンテンツ提供こそが顧客の間接的な誘引となろう。ここでも分かるように、これからはモノ自体の商品説明というよりも、顧客の本質的で全体的な生活の中での意味づけという視点が重要となろう。そのためには、単にIT化を図ることではなく、商品とそれを支える関係知識自体の水準の向上を目指さなければならないであろう。もっといえば、顧客が真から納得できる知識体系の構築とその提供であるといえよう。これは明らかに、効率化を指向したIT化の原理とは異なるものであろう。

    ただし、これらはIT化と矛盾するというよりも、IT化を基盤としながらその上に構築する知の体系である。ただ単なる知識体系そのものでもない。さらに、顧客の感性をくすぐるもの、感性自体に訴えかける力を持つものになることが必要である。よって、目指すべきデジタルコンテンツとは、以下のようなものであろう。

    最高レベルのデジタルコンテンツ=「ナレッジ」×「フィーリング」×「IT」

    一言で言えば、IT基盤の確立の上に、顧客の感性に対する最高度の配慮がなされ、顧客の課題解決に向けたナレッジの体系が構築されたものを、最高レベルのデジタルコンテンツであるというのである。

    (大阪市立大学 近勝彦)

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