今年の漢字は「爆」では?

日本漢字能力検定協会による「今年の漢字」に「安」が選ばれました。選定は公募とされますが、揮毫した清水寺の森清範貫主は、その理由に「不安」を挙げています。これについて、小説家の仙川 環氏は

「不」で「安」を否定してるのに、「不安だから安」って……。それ、漢字という存在を否定してますわ。

とTwitterで指摘しています。まったくもってその通りです。

私にとっての「今年の漢字」は2位の「爆」。

選考理由の「爆買い」もそうですが、なによりネット上では数多の「自爆」が繰り返されていたからです。連載でもとりあげた「ぱよぱよちーん」はその代表例といっていいでしょう。

セキュリティ会社の人脈や経験を誇示しつつ、個人情報をネット上に晒していたが為に、すべてが特定された自爆。同じく立場を利用して他人を恫喝していたら、個人情報とともに悪行が晒された新潟日報の元支局長。東京五輪のエンブレムの剽窃疑惑を否定しようと提示した「展開例」が、即座にネット画像の無断利用と特定されたあの件も自爆でした。

自らの評価を下げるために、熱心に活動しているように見えて仕方がありません。

自爆にふるルビとは?

「安保法制」を巡る騒動でも自爆が目立ちました。

まずは、自民党。衆院憲法審査会で、自民党が参考人として指名した憲法学者が「憲法違反」と断じます。本来なら致命的な指名でしたが、"憲法学者"の半数以上が「自衛隊は違憲」と考えている調査結果が出て"浮世離れ"が鮮明となり、こちらも自爆しています。

マスコミもこれに続きましたが、その代表格はTBSの岸井 成格氏。アンカーを務める番組内で、視聴者に廃案を呼びかけました。個人の思想信条は自由ですが、番組を利用した政治活動はテレビ報道に課せられた「報道の中立性」を捨て去った自爆です。

自爆に「ブーメラン」とのルビをふるならば、民主党の出番です。

「暴力を振るっていない」とツイートした参院議員の小西 洋之氏は、国会内で「ボディプレス」を披露し、同党の福山 哲郎氏が「こんな暴力的なものはあり得ない」と嘆いていました。また、同じ騒動の中で、無関係なところに立っていた自民党の大沼 みずほ氏を、背後から忍び寄って羽交い締めにして引きずり倒したのも、民主党の参院議員である津田 弥太郎氏です。

弁護士の職業倫理

まるでコントのような自爆の連鎖。もっとも安保法制についての自爆ショーは、「それぞれの立場と思想に殉じた上で」と言えなくもありません。しかし、こちらの自爆は、社会システムへの重大な挑戦で、絶対に見過ごすことはできません。

12月の中旬、たった4ページの漫画にネット界隈が騒然としました。公園のベンチで、「どうしよう」と頭を抱える主人公の独白ではじまり、次のコマで衝撃の告白をします。

「強姦事件を起こして警察に呼び出されてしまった……」

主人公は、まさかのレイプ犯。社会的制裁を想像して怯えている、つまりは我が身の心配だけをする犯人に、「弁護士」が唐突に現れて救いの手をさしのべ、八面六臂の活躍で不起訴に持ち込みます。エピローグで感謝する主人公に、笑顔でこうアドバイスをします。

「次からは気をつけてくださいね」

次から何に気をつけろというのでしょうか。

底が割れる

これは、強姦事件の弁護を得意と掲げる「A法律事務所」がサイトに掲載していた漫画です。騒動発覚直後に、不適切な表現があったと削除し、謝罪コメントを発表しましたが、

「強姦した相手と示談し、前科が付かないようにしてくれ」という強姦事件のお悩みを、何でも私たちに相談ください。あなたが事件前の生活を取り戻せるよう、全力で弁護します

と代表弁護士が笑顔で語るコンテンツは残されたままです。

弁護士法の第一章、第一条にはこうあります。

弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。

依頼者の利益を守ることが弁護士の仕事であっても、被害者の基本的人権を踏みにじる重大犯罪である「強姦」を行ったという自覚がある犯人まで、全力で弁護するとの宣言はそのまま残されています。

利益のためなら社会正義もスルーする「弁護士0.2」ではありませんか。騒動を受けてもなお、日弁連はもちろん、彼らの所属する弁護士会はなんらメッセージを発信せずにいる一方で、安保法制を「憲法違反」として、その廃止を求める署名活動を展開しています。

政治活動には熱心でも、人間の尊厳への関心は薄いようで、これも一種の「自爆」でしょう。

時を同じくして、その安保法制がらみで自爆発生。安保法制への抗議活動で、一部マスコミが持てはやした抗議団体「SEALDs」の代表である奥田 愛基氏が、新たに政策提言集団を立ち上げました。

そのサイトには「立憲民主主義を実現させる」と掲げ、現政権を

多数派が立憲主義を蹂躙し、民主主義を無視した議会運営

と批判します。しかし、「多数派」とは民意であり、少なくとも民主主義は機能しています。また、立憲主義と民主主義の関係性について、憲法学の泰斗である東京大学名誉教授の樋口 陽一氏が、ジャーナリスト 江川 紹子氏との対談でこのように指摘しています。

憲法そのものが純粋なデモクラシーには反する、とも言えるわけです。(略)「民主」と「立憲」は、純粋論理的に考えると緊張関係にあって、決して予定調和ではないのです。

過去のある時点で成文化された憲法は、必ずしも現在の民意を意味しないということです。

「民主主義ってなんだ、コレだ」と、「抗議活動」を民主主義としていたことも含め、声をあげる度に「民主主義」を理解していないことが明らかになるのは、自爆というべきか馬脚をあらわすというべきか、どちらでしょうか。

エンタープライズ1.0への箴言


労多くして功少ない「自爆」。
来たるべき新年は、くれぐれも「自爆」にご注意ください。

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」