テレビコンテンツはまだ終わったわけではない

先週末に放映された27時間テレビ。そのポスターがネット界隈で、わずかながらに話題になっていました。特撮ヒーロー風の扮装をした、司会を務めるナインティナイン岡村隆史の横に、「テレビの時代はもう終わり?」と、添えられたキャッチコピーに対して「テレビではなくフジテレビがな」とつっこまれていたのです。総力をかける番組に対して「わずかながら」にしか、話題にならないところに、今のフジテレビの置かれた状況が見て取れます。

しかし、このキャッチコピーはある面で的を射ています。その結論は「ネットの普及」にありますが、YouTubeやSNSに視聴者が奪われているというステレオタイプの、「テレビオワコン説(オワコン=終わったコンテンツ)」ではありません。

日本の「テレビコンテンツ」が、そもそも「0.2」だったということです。つまり「1.0」に進化することができれば、まだまだ「テレビの時代」が続く可能性もあると見ています。

ネットを嘆くNHK

明らかに部屋の中から「テレビの音」がしているので、NHKの集金人は、少し強気に視聴料の支払いを迫ります。すると片言の日本語で「ワタシ中国人。それにテレビじゃない。ヨウク、ネット動画ネ」と反論されます。

「ヨウク」とは中国の動画共有サイトで、著作権などがアレな国柄らしく、いまでも「あまちゃん」の全話を中国語字幕付きで視聴することができるなど、日本の地上波放送も数多く無料で配信されています。つまりNHK受信料の要件であるテレビ=受像器がなくても「テレビドラマ」を見ることができるのです。NHKの集金人は溜息をつき扉を閉めたと言います。

テレビの時代の終焉は、こうした無断複製された違法動画のネット拡散が理由ではありません。凋落が叫ばれるフジテレビでさえ256億円もの粗利を計上しているのですから、これによるテレビ局の利益侵害は、それほど深刻なダメージはないでしょう。それよりもはるかに深刻なのが「信用失墜」です。

衆議院を通過した安保法制を巡り、あるニュース番組では「反対する若者の声」を報じていました。ところが「普通の若者」と紹介された幾人かは、いわゆる「活動家」でした。ある女性など、破壊活動も辞さないと断言しています。思想的な偏りがある活動家は「普通の若者」ではありません。彼らの名前を「ネットで検索」するだけで「活動」はすぐに見つかります。

思想的背景を紹介した上で、発言させる分には問題ありませんが、「一般人」としての紹介は、彼らの政治活動を応援する目的か、取材不足のどちらかで、いずれにせよ「ニュース」の名に値しません。

フローからストックへ

とある有名キャスターはNHKの討論番組で、対立する意見を「仮定の話はいかんよ」とたしなめますが、自説を開陳する場面では「仮の話し」を繰り返します。生放送や1回限りのオンエアなら、堂々と大きな声で発言する姿に説得力を見つける視聴者もいることでしょう。しかし、保存されたネット動画により、発言の矛盾は、いつでも確認できるようになりました。

テレビとは、放送と同時に消えていく「フロー」のコンテンツでした。一回限りの上演を前提とし、視聴率獲得を至上命題となるにつれ、論理的整合性よりもインパクトが求められ、証拠集めの「裏とり」もそこそこにニュース番組が作られるようになります。端的に言えば「その場限り」で、やりたい放題していたのが「テレビコンテンツ」です。

ネットの普及は、テレビコンテンツをフローから「ストック」に変えました。そしてお手盛り報道や、自己矛盾だらけの「論客(コメンテーター)」の正体があきらかになりつつあります。

ある場面では白を黒とし、次の瞬間にそれを赤と呼ぶようでは信頼などされるわけがありません。つまり、テレビコンテンツとは「0.2」だったことが明らかとなったことが、「テレビの時代の終わりのはじまり」です。

テラスハウスの数字は

もっと簡単に言えば「嘘まみれ」だったのです。映画化までされた「テラスハウス」ですが、地上波放送時の実際の視聴率はふるわなかったと告白したのは同局の『新週刊フジテレビ批評』です。土曜日早朝の番組で、視聴者の少ない番組ながら、みずからの「お手盛り」を白状していました。

同じくフジテレビ、というより冒頭で紹介した27時間テレビでは、ポスターの主である岡村隆史が「ライザップ」でシェイプアップを目指すという企画が進行しています。

その「ライザップ」のイメージキャラクターを務める、SMAPの香取慎吾が応援に駆けつけ、岡村に食事制限の厳しさを伝えます。穀物類は厳しく制限され、サラダにのった「コーン」まで禁止だと教える姿はライザップの伝道師です。

その放送から1ヶ月もしないフジテレビでは「お米2升を食べ尽くす」という企画で、ライザップ香取に白米と呼ばれる糖質を執拗に摂取させていました。

当事者ではないとはいえ、チグハグ感は否めず、局としての整合性が疑われる「コンテンツ0.2」を体現しているといえるでしょう。

エンタープライズ1.0への箴言


ちゃんと作られたテレビ番組は、いまでも面白い

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」