きっかけはフジテレビ

「テレビがつまらなくなった」と気がついた、きっかけはフジテレビ。タイアップと自己宣伝、アナウンサーという社員同士の馴れ合いなどなど。すべての民放に通じますが、とりわけ「目に余る」のがフジテレビだったのです。

ファンクラブである「フジテレビ倶楽部」に入会して、夏冬のイベントはお台場に駆けつけ、株主だった時期もあります。熱心に応援していたからこそ私は気付いたのかも知れません。今、フジテレビにチャンネルを合わせるのは「今日のワンコ」ぐらいです。

「振り向けばテレ東」とは、在京キー局でいつも視聴率最下位だった「テレビ東京」に近づいたという、低視聴率を揶揄する言葉ですが、この年末年始にいたってはテレ東の背中を見つめていたフジテレビです。「週刊文春」が「歴史的大敗」と報じたほどの低視聴率で、見なくなったのは私だけではないようです。

出演する側の千原ジュニアさんはNHKの番組で「フジテレビが元気が無いのは本当にダメです!」と激励し、同じくタレントの土田晃之さんも、「『ダウンタウン』や『とんねるず』が世に出たのは、若くして冠番組をフジテレビで持てたからだ」とエールを贈ります。

高視聴率神話の背景

確かにお笑いタレントの出世作が多く、「THE MANZAI」の「ツービート(ビートたけし)」、「オレたちひょうきん族」から「明石家さんま」、本人曰く現在の「江頭2:50」ぐらいのタレントだった「タモリ」をお茶の間のスターに引き上げたのは「笑っていいとも!」です。ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、野沢直子、清水ミチコの「夢で逢えたら」もありました。また、萩本欽一さんのテレビ人気は「お昼のゴールデンショー」が始まったから……という点はWikipediaの情報ですが。

しかし、フジテレビが彼らを面白くしたのではありません。「ゴマすり」と「浮気男」のキャラだった明石家さんまのブレイクと、侮蔑用語だった「軽薄」に良い意味が付加された、1980年代におけるトレンドの変化はリンクします。

つまり、時代が求める才能をもったタレントを起用したということであり、高視聴率を誇っていた時代のフジテレビは敏感に「トレンディ」を見つけ、紹介していたということです。

時代は俺たちが創り出す

昨年の大晦日、フジテレビが「深海魚ブーム」と題して、深海魚を食べる「超深海魚丼」を紹介していました。「ネットで検索」すると「深海魚ブーム」でヒットするのは、一昨年のNHKスペシャルで注目を集めた「ダイオウイカ」や「ダイオウグソクムシ」ばかりで「食」ではありません。しかも、深海魚ブームを報じる記事の日付も、大晦日から数えて半年以上も前の古いネタばかりです。

この4月からほぼ新番組になるお昼のバラエティ『バイキング』では「Yahoo!検索急上昇バイキング」と題して、ネットで話題のトピックを紹介するコーナーがありましたが、実際のネット情報と一致しないとニュースサイト「ガジェット通信」が早々に指摘していました。

しばらくすると開き直ったのか、1週間前の急上昇ワード迄を含めて紹介しはじめます。移り変わりの早いネットにおいて、1週間前に急上昇した検索ワードは「トレンド」ではありません。まるで「フジテレビが報じるからトレンディ」と強弁するかの如き「トレンディ0.2」です。かつての「高視聴率」という成功神話が、現状認識を誤らせているのでしょう。

今、フジテレビが提供するトレンディな話題とは「打ち切り」と「低視聴率」です。

フジテレビへの処方箋

フジテレビが「トレンディ0.2」となった理由を、私は3つの「素人」に求めます。

ネットで検索すればすぐにバレるありもしない「深海魚ブーム」や、「急上昇ワード」はもちろん、昨年の「27時間テレビ」において番組内で紹介されたツイートに「やらせ疑惑」が浮かぶなど、あまりの「ネット素人」ぶりが視聴者の信用を損ねているという点がひとつ。

もうひとつは、栄華を誇った時代のフジテレビには、数々の素人参加番組やコーナーがあったことです。

私がフジテレビを選択的に視聴した最初の番組は、一般の子供を集めて遊ぶ「ママとあそぼう!ピンポンパン」です。「欽ドン!」は素人からの葉書で番組が作られ、「オールナイトフジ」は素人の女子大生を集め、「ねるとん」は素人の合コン、「めちゃイケ」では抗議してきた素人の中学生を取り上げ、「いいとも」でタレント人生を歩み始めた外国人の素人は数知れません。

「素人」とは一般視聴者であり、トレンドを支える人々です。こうした「素人」との接点が、「トレンド」に敏感でいられた理由ではないかという見立てです。

そして最後は「才能ある素人」です。彼らはいつの時代にも必ず登場します。「とんねるず」など、ブレイクしてからもしばらく「素人芸」と揶揄されていました。そんな「才能ある素人」は今、「ユーチューバー」を目指します。

これは「テレビに発表する場所がないから」という要因も一つにあるでしょう。つまり、世に出るチャンス与えてくれないテレビに、未知の才能が集まることはありません。これはテレビ業界全体に言えることですが、その「トレンド」の最先端を逆に走ってしまっているテレビ局がフジテレビというわけです。

エンタープライズ1.0への箴言


成功神話は勘違いされて記憶されていることが多い

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」