必ずくる未来

衆議院選挙の結果を知らずに執筆しておりますが、自民党が300議席を越えるのではないかと報じられています。日頃、論調や支持政党が異なる新聞社が、同じ結果であることから自民党の有利は間違いないことでしょう。ただし、有利な情報は候補者や支持者に気の緩みをもたらし、判官贔屓も相まって中間派を離反させることもある……と、結果の出た選挙に語ることではありませんね。

いずれの結果にせよ「インフレ」が到来するのは間違いありません。日銀は2%のインフレ目標を掲げ、自公政権は「デフレ脱却」を目指しています。仮に他の政党が政権を握ったとしても、当面は政策を踏襲すると考える理由は、彼らに代替となる具体的な経済政策がないからです。

また、万が一「日本共産党」が政権を握ったとすれば「消費税は廃止」され、弱者救済にお金がばらまかれることでしょう。インフレとは相対的にお金の価値が下がる状態を意味します。市中にお金がだぶつけば、お金の価値が下がるのは自明。やはり「インフレ」になるのです。

その「インフレ」において、「デフレ」でのやり方は「0.2」となります。

デフレの販促

デフレの始まりを3%から5%へ消費増税が上がった1997年とすれば、すでに17年も続いたことになります。現在30才の人にとっては、中学生に上がった頃からモノの値段が下がり続けてきたのです。「デフレ」しか知らない社会人も増えています。

デフレ経済を体現していたのが「牛丼」です。20世紀において「牛丼」といえば「吉野家」でした。BSE騒動で牛丼が発売中止になると店には長い行列ができて、通販用レトルトの牛丼の具はプレミアム価格で転売されたものです。

牛丼市場に「低価格」で殴り込みをかけたのが「松屋」であり「すき家」です。並盛りは300円以下が当たり前の時代に突入しますが、その「300円市場」に「290円」の中華そばで参戦したラーメンチェーン「幸楽苑」があります。

同等の商品なら「価格差」に適う差別化はありません。「価格政策」はデフレ化における最重要戦術なのです。

期間限定の罠

健康食品通販のS社長。公式ツイッターフォロワー向けに期間限定で「7割引きセール」を開催しました。健康食品の多くは粗利率がとても高く、S社長の商品は7割引きでも多少の利益が確保できます。この企画がスマッシュヒットを飛ばしたため、セールを継続。

2回目のセールは、初回に及びませんでしたが、期間を月末まで延長し、売上を確保するころには翌月がやってきて、セールの再延長を繰り返していれば、いつしか半年が過ぎていました。

そして以前の価格に戻したところ、売上がゼロに近づき……。もはや7割引きが「定価」になってしまった「期間限定0.2」です。

期間限定と銘打っていても、セールが続けば「定価」になります。牛丼の値下げ競争も、松屋が300店舗出店記念に並盛りを390円から290円に値下げしたことが始まりで、評判が良かったとして「定価」になりました。

しかし、冷静に考えれば、「値下げ」の「評判が良い」のは当たり前です。

最悪の失敗例は「マクドナルド」です。松屋が値下げしたのと同じ時期、「平日半額」と銘打ち、130円のハンバーガーを65円にすることにより、客層の拡大を目指す狙いは当たりました。

しかし、月曜日から金曜日までが「平日」であれば1週間の大半は「半額」となり、それはすなわち「定価」です。

すると本来の定価は倍の値段となります。つまり限定する期間を間違えたため、「休日倍額」というネガティブキャンペーンになっていたのです。

借金を減らすのは簡単

S社長の「期間限定価格」も「デフレ」であれば間違いではありませんでした。

インフレの最中では、原材料費とともに人件費も高騰します。この流れの中で「値下げ」は経営悪化を招くだけだからです。

すでに外食産業は「インフレ」に舵を切っています。「吉野家」は2年前から特売を止めており、「すき家」も並盛りを値上げ。

幸楽苑は来春を目処に最低価格500円台を目指すと報じられ、苦戦が続くマクドナルドも、高級化路線にチャレンジしています。

時代は確実に変化しており、デフレ時代の常識は通用しなくなりつつあります。それは国家経営においても同じです。

繰り返しになりますが、インフレとは相対的にお金の価値が下がる状態を意味します。つまり年率2%のインフレが実現すれば、毎年「借入額」という「負のお金」の価値も2%減ります。つまり「借金が減る」ということです。

国の借金を1000兆円とすれば、この2%は20兆円です。為政者にとって、インフレは何かと都合が良いのです。実績はともかく、歴代政権が「脱デフレ」を目指した理由です。

そして個人にも「住宅ローン」が目減りするという恩恵が待っています。実は「借金も財産のうち」という俗諺は、インフレだった昭和時代に生まれたものです。

余談ながら、いまだ「デフレ」のまっただ中にいるのが「ミスタードーナツ」。隔週ぐらいの割合で提供される「100円ドーナッツ」が定価になりつつあります。

エンタープライズ1.0への箴言


インフレ時代にデフレの方法は通じない

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」