バイラルメディアとはなんだ

学ぶという言葉は「真似る」が変化したものといいます。「パクリ」とは似て非なるもの。修行により身につけた技術で、師匠と同じ味を再現するのが「真似る」で、師匠の料理そのものを自分が作ったかのように振る舞うことが「パクリ」です。学識の証明である「卒論」や「博士論文」で「コピペ」が許されない理由です。

この夏、パクリを巡りホットな議論がネット界隈でありました。「バイラルメディアはパクリだらけ」と指摘するものです。バイラルメディアのサイト同士が罵り合いをはじめ、ネット周辺の論客らが嘲笑と共に参戦しました。バイラルメディアとは、クチコミによる情報拡散を期待するサイトの総称です。掲載される内容は、ネット上に転がる記事や動画に、刺激的な見出しと解説を加えたもので、「そもそもメディア」かという疑問が残ります。「引用だ」という主張もありますが、元記事を削除しても、趣旨が伝わるなら「引用」ですが、そうでないなら「パクリ」の誹りは免れません。仮に「週刊文春」が「週刊新潮」の記事を、解説を加えたにせよ、趣旨を変えずにそのまま紹介していたら、批判どころか訴訟は避けられません。

そしてバイラルにネット業界の超著名人、佐々木俊尚氏が参戦しました。

御大監修でパクリ

佐々木俊尚氏といえば、グーグルが既存のビジネスを破壊すると警鐘を鳴らし、キュレーションの時代がやってくると啓蒙するエヴァンジェリスト(伝道師)です。元毎日新聞記者という肩書きも手伝ってか、今世紀初め、日本社会へのWeb布教に大きな役割を果たしました。その佐々木氏が編集長を務めるバイラルメディアで、海外サイトの情報の無断掲載、さらに記事の水増し疑惑が発覚したのです。指摘を受けて、謝罪と釈明をしましたが、釈明はパクリを正当化するとも受けとれ、さらに炎上しました。

無名のネット民ならともかく、名があるのはもちろん、著作権で保護された「著作」をもつ佐々木俊尚氏が、無断利用にあたるパクリを批判されるのは致し方ありません。ところがこれを別の角度から「擁護」したのが、関西学院大准教授 鈴木謙介氏です。Web業界を語る有識者の一人とされ、2014年9月29日の読売新聞「Web空間」において、問題の背景を

"ネットメディア全体の収益性の低さがある"

と指摘するのです。

泥棒擁護のへ理屈

佐々木氏が編集長を務めるサイトが、海外の記事をパクッたのは、独自記事を書くために必要な費用を捻出できないからと擁護します。貧乏人は泥棒をしても仕方がないという理屈です。そもそもバイラルメディアが、キャッチーな画像を用意し、刺激的な見出しをつけるのは、訪問者を増やして広告収入を得るためです。つまり「金銭目的」です。鈴木謙介氏は「社会学」の専攻のようですが、ビジネスの仕組みを知らないようです。必要な費用を捻出できないのなら、やめれば良いだけの話し。経営とはそういうものです。また、鈴木氏は同記事を

"ネットメディア低収益性の弊害"

と題しますが、パクリは弊害ではなく確信犯です。低収益がパクリを誘発するとは、ネットメディアで執筆を続ける私への侮辱です。低収益は事実ですが、引用やリスペクト、インスパイアはしても、あからさまな「パクリ」はしないのが物書きとしての矜持であり、パクリと気づかせない論理構成は「テクニック」のひとつです。

バイラルに限らず、Webサービスの最大の課題は収益化=マネタイズです。これに失敗して消えていったサービスは数限りなく、一方で、グーグルやFacebookのように高収益を実現している企業もあります。つまり低収益であるなら、それは経営の失敗という「マネタイズ0.2」に過ぎません。

すでに破綻しているバイラル

本稿執筆をはじめた10月初旬。情報整理のためにネットを渉猟すると、2014年9月1日付の日経新聞の記事に既視感を覚えます。それは2014年9月29日の鈴木謙介氏の記事との類似があまりに多いからです。「バイラルメディア」という現象の説明ゆえに、紹介する事例が重なることは不思議ではなく、これをパクリだとはいいませんが、日本におけるバイラルメディアにも通じ、似通った「記事」とは「ありふれた」と訳せ、価値が低いのは自明です。しかし、Web空間にはもっと現実的な事例が落ちていました。

ホスティングサービスの会社を上場させた後に会社を手放し、昨年末の都知事選挙に出馬した家入一真氏。その選挙戦はFacebookやTwitterを駆使し、立候補ための供託金もクラウドファンディングで集めるなど、ネット界隈ではまぎれもない有名人の一人です。その彼の携わったバイラルメディアの更新が停止したのは今年の5月です。停止の理由は明らかにされていませんが、低収益が理由なら経営経験者として賢明な判断です。赤字が続くのはもちろん、クオリティを維持できる収益が望めないなら撤退すべきで、違法に走る理由にはなりません。つまり、低収益とパクリに相関関係はなく、サイト運営者の「心根」の違いに過ぎません。

自分の希望が実現しないと、すぐに「社会問題化」するのは、Webで名を挙げた有識者にありがちな悪いクセ。鈴木謙介氏はご存じないようなので、かつて日本にあった価値を一筆啓上。

"貧しさと卑しさは別物"

エンタープライズ1.0への箴言


「パクリはパクリ。収益の低さは言い訳にならない」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」