オリコンの意義はなにか

日本人のランキング好きは筋金入りで、江戸時代にはすでに「うまいもの」「料理屋」「商人売上」が、相撲の番付表を模して発表され、八百八町の話題を集めていました。物騒なところでは「仇討ち番付」というものまでありました。そして現代のランキングが、ネット界隈で話題となっています。

"2014年上半期のCD売り上げがヤバ過ぎると話題に!18位までがAKBとジャニーズ関連で独占"

ニュースサイト「ガジェット通信」が2014年6月19日に報じたニュースで、内容はタイトル通りで、トップ3は、いずれもAKB48で、ミリオンセラーが並ぶのですが、「知らない曲ばかりじゃない?」と揶揄します。特に3位の

"鈴懸の木の道で「君の微笑みを夢に見る」と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの"

という曲は、108.6万枚売り上げているのに、メロディーがまったく浮かんできません。すでにオリコンのランキングは「流行歌」を意味しなくなっているということです。ちなみに今年の上半期、私の市場調査による「流行歌ベストワン」は『アナと雪の女王』…ではなく『妖怪ウォッチ体操』です。

ランキングの裏技

もっとも、日経MJが発表する「ヒット商品番付」のように、「ランキング」に大人の事情が垣間見えるのはよくあること。ネット上ならなおさらです。ランキング1位に輝けば売上が加速するからです。「Winner take all(勝者の総取り)」と呼ばれる、集中と偏在がおこるのがネットの世界で、楽天市場などで「ランキング」が乱立する理由です。ランクインした店の売り上げが伸びるなら、ランキングの数を増やせば、モール全体の売上が伸びるという発想です。それが証拠に同じジャンルなのに「月間」と「年間」で受賞者が異なることは珍しくありません。

あるショッピングモールにはこんな裏技があります。注文を予約で処理し、ストックしておきます。モールが集計するタイミングで、一気に注文に変換することで「ランクイン」させることができるのです。集計期間が異なるいわば「ズル」ですが、黙認されているどころか、モールの関係者に勧められた事例も耳にします。ネット上で喧伝されているランキングは、こうした「裏技」ばかりといっても過言ではありません。

限界に達してアウト

X社は、夫婦とパート数人で切り盛りする生花店です。かきいれどきは「母の日」。そして「母の日の注文」という切り口でランキング入りすると、翌年の売上が跳ね上がります。そこで毎年、先の「裏技」を用いていたのです。ところがその年は不運が重なります。ショッピングモールのシステムが、サーバ負荷による注文の遅延が発生し、自社のネットワークも原因不明の通信障害に見舞われました。結果的に対応限界ギリギリの注文を受け付けてしまっていたのです。そこにパートの急病や、協力会社の連絡不足が加わり、肝心のカーネーションが「母の日に届かない」という最悪の事態へと至ります。

注文順に処理していれば、許容量の限界に至る以前に「売り切れ」にするなど対応ができたのですが、「ランキング」の操作に目がくらみ、信用を失った「ランキング0.2」です。

総選挙というフィクション

もっと大胆な「裏技」もあります。AKB48グループの「総選挙」では、集計作業は「第三者機関が行う」と強調しています。第三者機関とは、集計を監視する弁護士と、ネット投票の仕組みを構築したシステム会社のことです。しかし、生身の人間が、サーバ(コンピュータ)内の電気信号を監視することはできず、ましてやネット経由での投票です。人力による開票作業ならともかく、この仕組みにおいて、弁護士の立ち会いは、公平性の担保にはなりません。

そもそも、投票目的で同じCDを20枚、30枚購入するファンも多く、「週刊文春」によれば指原莉乃さんに4600票を投じたファンもいます。つまり投票数を操作できるのですから、民主主義的という意味においての「選挙」ではないのです。キャバクラやホストクラブの店内ランキングと同じ「売上集計」に過ぎません。その名前を替えることで、性格の違う集計結果に錯覚させているのです。これは販促においての「裏技」で、勝敗により明らかとなる力士の力量を序列化した「番付」を、「主観」で意見が分かれる「うまいもの」に当てはめた、江戸時代から続く伝統芸とも言えます。そしてオリコンチャートのトップ3を独占するのですから、裏技は成功しているということです。

ただし、その栄華の陰りを伝えるのが「視聴率」というランキングです。「総選挙」を報じたフジテレビの番組の視聴率が、今年は16.2%で、昨年の20.3%はもとより、一昨年、平日の水曜日の夜に放送された18.7%も下回っていたのです。また、豪雨の中、会場となった「味の素スタジアム」に「約7万人」のファンが詰めかけたと報じられましたが、最寄り駅の駅長は「52,000人」と発表しています。「水増し」は裏技ではなく反則技です。

エンタープライズ1.0への箴言


「ランキングは裏技だらけ。信用すると騙される…かも」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」