進化する詐欺

数年前に「SEO詐欺」がブームになりました。SEOとは特定のキーワードの検索結果において、特定のコンテンツを上位に表示させるアプローチの総称。以前のSEO詐欺とはカネだけ受け取り何も作業をしないというシンプルなもの。この詐欺がまかり通った理由は、順位決定のアルゴリズムは検索エンジンのトップシークレットで、まじめに研究し、作業に取り組んでいる業者でも、「100%」の結果を保証することが困難で、それを逆手にとったものです。しかし「なにもしない」のに効果を謳い料金を請求するのはあきらかに「詐欺」で、この方法は下火になりました。

詐欺をブームというと不謹慎に映るかも知れませんが、詐欺にもトレンドがあり、当初の「オレオレ詐欺」は息子を演じるひとり芝居でしたが、次第に警察官、弁護士など出演者が増えた「劇団型」へと変化し、最近は情報収集とネタ振りだけで一旦電話を切り、しばらくしてから本題(詐欺)に移る「時間差型」が現れています。お金の受け渡しも、振り込みからゆうパック、手渡しと変遷し、遠くない将来に使われると睨んでいるのが電子マネーの「ビットコイン」。ビットコインについては、近日触れる予定です。

そして新手のSEO詐欺が現れます。しかもこちらは「合法」であるから厄介です。

完全無欠の合法詐欺

「詐欺」とは立証が難しい犯罪です。「なにもしない」ことをもって「詐欺」とするなら、「なにかして」、すなわち作業した形跡があれば「詐欺ではない」と主張することが可能です。つまり、作業の形跡さえ残しておけば、「詐欺」に問うことが困難となります。合法とはいえませんが違法と問えない「脱法SEO」です。

そんな脱法SEOを生業とするC社。Cyberの頭文字から、連想するIT企業もあるでしょうが、いつものように実在の人物・団体とは微妙にずらしております。と、あらためて明記するのは、このC社の顧問弁護士は、消費者保護の弁護団に名を連ね、消費者保護を訴えながら、法律を武器に脱法業者を支援しているということは、詐欺師と被害者=カモの双方の裏と表を知り尽くす法律のスペシャリスト。うっかり噛みつかれたら面倒です。

C社はこんな看板を掲げています。

「特定のキーワードで90日以内に一度もトップ20にランクインしなければ代金は全額返金します」

ランクインを保証するカラクリ

ウサン臭い詐欺師はいません。身ぎれいにし、悪意のそぶりを隠します。「全額返金」など最たるもの。C社の詐欺のカラクリは、契約時に10以上の「複合キーワード」を提出させ、そのランクインを保証するものです。複合キーワードとは「てぶくろレディース」のような組み合わせで、これらのなかから、どれかひとつだけでもトップ20入りすれば、約束が果たされるというものです。

しかし契約書には「(検索の)結果責任を負わない」と明記されています。ランクイン保証は契約に盛り込まれていないのです。「口約束」も法的には有効ですが「言った、いわない」の水掛け論となれば立証は困難で、一方の契約書はあきらかな「証拠」となります。つまり、はじめから返金する気持ちなどないのです。

脱法的ですが合法です。特に契約書にあるこの一文により、違法から合法へと逃れることに成功しています。

「本契約は事業者のみを対象とし、一般消費者は契約できません」

墓穴を掘る

この一文の意味は、消費者保護の各種法律の対象外という宣言です。虚偽記載、優良誤認、不実告知など、消費者を保護する法律は充実し、判例もその流れに沿っていますが、「商取引」は自己責任が優先されます。それはSEOに疎い、消費者に毛の生えたような事業者にも適用され、C社の詐欺同然のビジネスを取り締まることができなくなります。ちなみに契約直後に、見に見えるような簡単な作業を行い、「何もしない」という契約不履行を回避しています。

定額月払いの年間契約で、お客都合による解約時は、契約期間の残り分を全額請求するとあります。対応への不満から支払いを拒否すると、C社は対応改善を検討することなく契約を理由に裁判を匂わせます。60万円を下回る料金設定により、一日で審理を終える「少額訴訟」を利用できるからです。法律が詐欺の片棒を担いでいるのです。

ただし、C社は「0.2」。お客が契約解除を申し出たり、作業内容に疑義を申しでたりしたときの対応が「恫喝」だからです。電話口で大声で怒鳴りつけ、個人事業主の自宅に押しかけ、家の前で大騒ぎしたという報告もあります。これらは「脅迫」や「営業妨害」に触れる可能性があります。つまり「契約」の前提となる信頼関係を毀損する行為。商取引において「契約」は重要ですが、覆せない神の言葉ではありません。「恫喝」は善意を建前とする法律を裏切る行為です。弁護士と結託しているのですから「粛々」と請求するだけで「完全犯罪」なのですが、みずから墓穴を掘っています。

彼らの手口は詐欺と同じですが合法。残念ながら、IT系の法律は不備ばかりです。

エンタープライズ1.0への箴言


「BtoB(商取引)を前面に出す業者は怪しい」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」