いつもの騒動に嘆息

特定秘密保護法を巡り永田町周辺が荒れております。新聞各社は、問題点を指摘しながらも必要性は認めるところと、言語道断と切り捨てるものに分かれる影にイデオロギーがちらつきます。反対派の主張の代表的なものは「恣意的な運用」と「知る権利」です。権力側が情報統制することを警戒する気持ちは分かります。物書きの端くれとして「知る権利」の重要性も理解しています。しかし、反対派の主張に頷けない理由を彼らの言動に見つけます。

市民団体や労組による実行委員会が主催し、日本弁護士連合会が後援する大規模な反対集会が、2013年11月21日に日比谷の野外音楽堂で開かれました。日経新聞には作家の落合恵子さんのスピーチが掲載され、主催者発表で1万人が集まったと報じられます。しかし、当日の21時26分の時刻で公開されたNHKのネットニュースの動画では、アナウンサーは同じく主催者発表として7000人と伝えています。そもそも野音のホームページに掲載される座席数は3,114名です。倍以上の人数を詰め込んだとすれば消防法違反。法律家の弁護士が後援すべき集いではありません。

落合恵子さんといえば「脱原発」でも立ち上がっていましたが、このときもデモに20万人が集まったと吹聴します。数字が本当なら、首相官邸から伸びたデモの列は、全長10キロほどとなり世田谷警察署まで達し、もっと大ニュースになっていたことでしょう。ちなみに警察発表は12,500人です。ウソと見まがう数字を、臆面もなく発表する彼らには、「知る権利」を与えないほうが良いとまで思うのです。

知る権利の暴走

本法案についてタレントの藤原紀香さんが疑問を呈したのを皮切りに批判が相次ぎ、同じくタレントの伊勢谷友介氏は

"特定秘密保護法案を可決しようとしている現政権。知らなければ、問題を考えられない人が増えて行く。そして、国民は馬鹿になってゆく。馬鹿になれば、問題は為政者に任せるだけになる。参加型民主主義に逆行中の日本。 9万件のパブリックコメントの約9割は反対。それを反故にしてる現政権。"

とツイートします。彼は特定秘密保護法により、すべての情報が遮断されるとでも考えているのでしょうか。保護法のない現時点において「知る権利」を活用し、審議されている法案の中身を知って欲しいと切に願います。 むしろ「知る権利」は暴走気味です。とある都内の電気工事会社のサイトに見積もり依頼が届きます。依頼主は中国地方の飲食店で、現地調査が必要な案件だから費用がかかると告げると、概算で良いからだしてくれと粘ります。よくよく話を聞くと、地元の業者に発注するまえの「たたき台」にするというのです。発注する気などありません。だから縁もゆかりもない遠くの業者に声を掛けたのです。知る権利とは、他人に迷惑を掛けてまで行使して良いものではありません。

案外、つまんないヤツだね

さらに「LED照明の種類を教えろ」という依頼もありました。サイトで紹介していた、某コンビニのLEDの交換作業を見てのことです。工事契約の内容は守秘義務に触れるもの。見ず知らずの他人に教えられるものではありません。ネットの手軽さが「常識」を忘れさせ「知る権利」の暴走を招いています。

続いてはミクシィの「友だち」を「マイミク」と読んでいた頃のわたしの経験。上梓した拙著について、あるマイミクが本の内容について質問してきます。いくつか質問に答えましたが、本のメインテーマに関することに質問が及んだので、やんわりと断り、詳しくは本をご覧くださいと回答すると、すぐさまこう返信がありました。

「(本に)興味が無いけど、面白そうなら読んでやろうかと思っていた。案外、つまんないヤツだね。マイミクももうやめる(要約)」

開いた口が塞がりませんでしたが、いまではTwitterで散見する光景です。タレントや著者、ミュージシャンに「知る権利」を盾に、わがままな要望をぶつける「知る権利0.2」です。

知る権利と反日の影

いま議論されている法案に、問題が多いのも事実ですが、特定秘密保護法の狙いは「日本版NSC」にあります。簡単に言えば国防に関する統括機関で、機密漏洩に対する処罰を用意する最大の理由は同盟国である米国との情報共有です。その米国には「情報公開法」があり、期限が来れば自動的に公開することになっており、反対派はこれを例に挙げ法の不備を指摘します。ただし、情報公開法には特例があり、すべてがかならず公開されるものではありません。また国家機密の漏洩に関しては、スパイ防止法や軍法会議が米国にはありますが、我が国にはありません。国防に関する情報に制限が掛けられるのは「世界の常識」。「知る権利」とはあくまで「国」があってのことなので当然です。

先のNHKのニュースコンテンツの動画でアナウンサーは7000人と語りますが、添えられたテキストでは1万人と上方修正されています。権利を声高に主張する人々、そして支援する報道機関に「反日」の影を見つけることも、わたしが「知る権利」の無条件主張にうなずけない理由です。

ちなみに「参加」するから民主主義です。伊勢谷友介氏がいう「参加型民主主義」とは「チゲ鍋」。韓国語でチゲとは鍋を指し、直訳すれば「鍋鍋」。また「現政権」が気に入らなければ、次の選挙で転覆させる力を民衆が持つのが民主主義で、この4年間にわれわれ日本人は2度経験しました。それを「政権交代」と呼びます。「知る権利」を求める伊勢谷氏は忘れてしまったようです。

エンタープライズ1.0への箴言


「知る権利は無制限ではない」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」