本書きました。

いよいよネット選挙が解禁されます。参議院選挙は7月21日の投開票でほぼ決まっており、今年は選挙の夏!ネット選挙の夏!になるということで、一家に一冊『完全!ネット選挙マニュアル』はいかがでしょうか。

すいません。宣伝です。同タイトルを冠した電子書籍を発刊します。アマゾンにてお求めいただける予定…とするのは、本稿執筆時は最終的な詰めの段階ですので。「マニュアル」としましたが、ネット選挙解禁の問題点をするどくえぐる警世の書、と自負しております。

ところで、テレビや新聞が報じる「ネット」に違和感を覚えたことはないでしょうか。良くあるケースでは「ネット=オタク」であったり、「匿名=誹謗中傷」だったり、という括りです。ドラマなどでは演出上の分かりやすさのために、デフォルメすることもありますが、報道においても同じ切り口をよく見かけます。拙著を執筆するなかで、この理由が明らかになりました。それは「リア充0.2」です。

コーヒー屋のオヤジじゃない

"「ツイッターならフォロワー1000人、フェイスブック(FB)は友達500人を目標にしてほしい」。みんなの党は今月10日、都議選の立候補予定者を対象にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の活用に関する講習会を開き、使い方を具体的に指示した。"

2013年5月15日のYOMIURI ONLINE(読売新聞)が報じた、みんなの党の「ネット選挙」への取り組みです。ツイッターをやっていれば分かることですが、フォロワーを1000人集めるのは簡単なことではありません。フォロワーを簡単に増やす裏技については、拙著で紹介しているので是非ご購入いただきたいとは自己宣伝ですが、記者がツイッターに取り組んでいれば、実現可能性について批判しなければ、企業広報と変わらない提灯記事です。

続けて「うまく使えば、少数でも大きな集団に立ち向かうことができる」とコメントを紹介するのは同党の松田公太参院議員。2013年6月7日現在フォロワー12万人を背景に述べたのでしょうが、彼は「タリーズコーヒージャパン」の創業者で、イケメン起業家としてメディアを席巻していた超有名人。これは橋下徹日本維新の会共同代表にも通じるのですが、もともと有名人だった人のフォロワー数は、一般的な立候補者の参考にはまったくならないことを記者は知らないのでしょう。カテゴリーでいえばお笑い芸人の有吉弘行さんや田村淳さんと同じです。ことネットになると、お笑い芸人と政治家を同列に語ります。

紙メディアの厚顔さ

「報道にあたっては常に批判精神を持ち(以下略)」とはテレビ東京の『報道倫理』よりの抜粋です。企業広報番組を垂れ流す放送局であっても、報道の精神とはかくあるべきと言うところでしょう。批判精神のないメディアは、第四の権力として機能しません。ところが「ネット」になった瞬間、批判精神という牙は抜け落ち、飼い慣らされたマルチーズになります。

拙著の執筆に当たり、様々な人脈を通じ、記者や編集者と「ネット選挙」について意見交換しました。総じて多かった意見がこれです。

「ネットには詳しくない」

新聞・雑誌といった紙媒体の業界人はこの台詞を、ソーシャルメディア全盛の2013年になっても恥ずかしげも無く口にします。さすがに、ネット系の編集者は除きますが、Windows 95の発売から間もなく20年も迎えようとしている今になっても、知らないと口にできる厚顔さは、溜息も出ないカルチャーショックです。それどころか電子書籍のページをめくったことすらない記者がいることに失笑が漏れます。

いつものコメンテーターの理由

彼らがネットに触れないまま、企画を立て、記事を書ける理由は「リア充」です。個人の人脈だけではなく、新聞社や出版社がもつネットワークを経由すれば、オーソリティに教えを請うことができます。私のような無名の物書きの取材申し込みは「無視」されることも珍しくありませんが、○○新聞という肩書きは取材のフリーパスとなります。そしてメモした言葉をそのまま記事にすれば仕事が完了するので、いつまでも学習しない「リア充0.2」です。マルチーズになるのは、ネット情報の検証能力を持たないから。動きが遅いと詰られる政治がネット選挙を解禁するご時世になっても、リアルの資産にあぐらをかいているのが紙媒体です。

リア充ネットワークは万能ではありません。ネットはリアルの合わせ鏡。つまり世界は広く、ひとりのオーソリティが、ネットのすべてを語れる訳ではありません。ところが、リア充0.2が頼るネットの達人(笑)は、津田大介氏、佐々木俊尚氏、井上トシユキ氏、中川淳一郎氏などお馴染みのオーソリティに集中します。裏返せば簡単なこと。ネットに疎いリア充0.2のもつ人脈は、紙媒体に接するオーソリティに限定されるからです。つまり狭い世界で訪ね歩けば、同じ人に辿り着くのは自明です。

そんな「ネットに詳しくない」人々がネット選挙を報じます。第4の権力足るマスコミの体たらくもまた、拙著『完全!ネット選挙マニュアル』の執筆動機だと、しつこいようですが宣伝です。すいません。

エンタープライズ1.0への箴言


「つながりの外側にも世界はある」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」