娘検索禁止

エゴサーチとは名前で検索し、自分の評判をチェックするものです。誰もが他人の評価は気になるものですが、一般人にとっては百害あって一利なしです。友人や知人、そして上司に部下が書き込む「悪評」をみて平静ではいられません。

エゴサーチで悪評を見つけて以来、絶えず評判を気にするようになり、わずかな時間を惜しんで「検索」を繰り返す49才男性が週刊ポスト2012年10月26日号で紹介されています。時間を浪費し、みずからストレスを増やしているようなものです。悪評ばかりではないという反論もあるでしょう。しかし、ネットで良い評判を書くタイプは「個人情報」を気にかけ、許可なく一般人の個人名をネットに晒すことはしないものです。そこから必然的に「悪評」の含有率が高くなります。

さらに家族の検索などもってのほかです。わたしの知り合いの話ですが、戯れに娘の名前で検索したところ、夜遊びや交友関係が赤裸々に綴られた「プロフ(学生に流行ったブログ)」を発見しました。しかし娘の名前で検索して、プロフを見つけたと言えば

「キモイ」

と逆ギレされるリスクもあり、知人はプロフの熱心な読者になるしかなかったと安酒をあおります。そしてエゴサーチは社長にもリスクをもたらします。

大名行列で真実は見えない

社長にとって、会社の本当の評判というのは知りたいものです。部下があげてくる報告には、保身とご機嫌取りのバイアスがかかるからです。生の声を知りたいと、大企業になっても現地視察をする社長は少なくないのですが、あれにも疑問が残ります。食品スーパー大手のL社は会長(当時社長)みずからが売り場を廻ることで知られているのですが、その現場では全社員がお客をそっちのけで会長の接待をしています。監視役の社員が無線機で会長の進路を全社員に通達し、進行方向にゴミがあれば客を押しのけ拾い、不都合な真実を会長にだけみせないようにします。売り場で客に不便をかけるような視察など無駄どころかマイナスです。しかし、社員を責めるのは酷です。それが会社員なのですから。本当の現場を知りたいなら、プライベートの休日にお供をつけずに抜き打ちで視察するしかないでしょう。

会社の評判を知るためにエゴサーチを活用しろ…というWeb評論家やソーシャルメディアの啓蒙家は少なくありません。ブログにツイッター、Facebookにあがる評判を見つけられるというのです。しかし、エゴサーチの陥穽(かんせい)にはまったのがラーメン店で全国制覇を目論むM社長です。

味は好みに過ぎない

油そば系の人気店で修行したM社長は、生まれ育った下町に店を出しました。麺もスープも見えないほどに野菜を山盛りに盛るスタイルは、俗に「爆食系」と呼ばれる大盛りブームにのっかり、見る間に数店舗を出店することに成功しました。やたらと「こだわり」を押し出すラーメン屋が増えて久しいのですが、「レシピ」というマニュアルさえ作ってしまえば、アルバイトでも味を簡単に再現できるので、ラーメンは多店舗展開にむいている商売とも言えます。同じことはセントラルキッチンで半調理品を店舗に配送するだけの、ステーキやハンバーグ専門店にも言えますが、店の規模が小さくて済むのがラーメン店のチェーン展開の利点です。

また、昭和時代のラーメン屋に「餃子」はつきもので、店が暇な時間になると、せっせと仕込みをしている光景を見かけたものですが、最近のトレンド系ラーメン屋で「餃子」をみることは希です。そして生まれた「空き時間」をマーケティングに回せることも成長の早さを助けます。グルーポンやポンパレを利用し、ツイッターやFacebookを活用できるのもこの空き時間によるところは大きいでしょう。一通りのネット広報活動を終えた空き時間に、魔が差したのでしょうM社長は「エゴサーチ」に手を出してしまいました。

「油くどくてしょっぱい。はっきりいって食い物じゃない」

よりにもよってM社長を名指しして批判するツイートです。はじめて訪れる店をスマホでチェックしたとき、そこに社長のツイッターを紹介するバナーでもあれば、批判の矢は容易く本社を射程に収めます。

暴言で暴走

その前日、税理士がもってきた資料で、今期は初の減収になるという暗いニュースの報告も、M社長のこころにささくれを作ったのかも知れません。批判の言葉を咀嚼する前に唾を吐きます。

「味の分からん奴は二度と来店するな。バーカ(意訳)」

匿名の闇から攻撃する姿勢を良しとしませんが、それは客の率直な感想でしょう。味は好みに過ぎません。そして全国から客が集まる某有名ラーメン店の店主が常連客に「スープは全部飲まない方が良い」とアドバイスするのは、想像を絶する油と塩分が含まれているからです。わたしがラーメン評論家のすすめる店で、旨いと思ったことがないのは、淡泊な白身魚の甘みを好むからなのかも知れません。このツイートは「拡散」され「炎上」、翌日に謝罪コメントをだし、アカウントが開店休業となった「エゴサーチ0.2」です。

エゴサーチには強烈な「自己顕示欲」が必要です。どんな悪口もそよ風のように受け流し、些細な褒め言葉にも乙女のように飛び上がるふりをしてみせ、根拠の弱い批判を見つければ三代先まで祟るぐらいの強烈なエゴです。

エンタープライズ1.0への箴言


「エゴサーチをするなら人並み外れた自己顕示欲が欠かせない」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」