ロンブー淳、出演自粛の理由

秋も深まった昼下がり、展開の早い昼ドラに停止していた思考回路が動き始めたころ、フジテレビの「知りたがり!」ではMCの2人が神妙な顔で語り始めます。もう1人のMC、「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんが、自身の行動を反省するためと、その週いっぱい出演を自粛するというのです。もっとも、すでに何日も前からネットの中では「炎上」しており、遅きに失していたのですが。

事件というより「騒動」は出演自粛を発表した前週の金曜日の夜のできごと。田村淳さんが率いるバンド「jealkb(ジュアルケービー)」のライブチケットを路上販売する様子を、動画配信サイトで「生配信」する企画中、ロケの移動車が駐車禁止を取られ、職務を遂行した2人組の警察官に田村さんが抗議します。そのやり取り中もカメラを廻し続け、撮影許可を取ったのかと問う婦警に「撮影はしてない、生配信はしている」と反論し、さらに生配信は違法なのか教えてくれと絡みます。そして現場を離れたあと、婦警さんを「ば」から始まる侮蔑的表現で呼んでいました。

すでにだされた反省コメントにもありましたが、都の条例として、路上販売も路上撮影も警察署への届け出が必要です。それを知らずに「法は犯してない」と食い下がったこともネットの住民の反感を買ったのでしょう。ネットの住民はなぜか遵法精神に溢れています。そもそも「配信」されているのは「撮影」された映像なんですが。

ソーシャルメディアを想定していない

田村淳さんのケースは他人事ではありません。ソーシャルメディア時代となり、発信者になることで、いつどこで違法行為を指摘されるか分からないからです。例えば小洒落たレストランに展示されていた可愛いイラストを、スマホで撮影しブログで紹介しました。他愛のない行為ですが、イラストレーターから「著作権違反」と主張されるかも知れません。また観光地での記念撮影をネットで公開したら、背景に映り込んだ見知らぬ他人がブログのコメント欄で「肖像権の侵害」だと抗議されたとしたら。そんなバカなと思われるかも知れませんが、現行法は「誰もが情報を発信できる世界」を前提に作られていないからです。ちなみに偶然被写体となってしまった、いわゆる「写り込み」については2013年の1月1日から違法ではないと法改正されていますのでご安心を。

首都圏を少し外れたところに事務所を構える運送業のE社長。彼はTwitter信者といっても過言ではないほどつぶやいています。それはトラック野郎時代の「無線」の名残かも知れません。一対多数の会話のやり取りは、懐かしのトラック無線そのままだからです。一声かければ近くにいる仲間からの返事が聞こえるよろこびが再現されます。

平均時速は越えている

常時ツイート状態です。友達との交流はもちろん、取引先との打ち合わせの前後に、会社に戻ってからは事務職員の食べていたおやつまでツイートするはまりようです。そしてある日、タイムラインに狼狽します。

「自ら違法行為を励行されるのでしょうか」

リプライが問うのは知人を羽田空港まで送った前後のツイートです。まず、両者の投稿時間の差分からスピード違反を指摘します。会社所在地から空港までをルート検索すると約50km、これを約40分で移動するには時速75kmは出していたということで、首都高速の大半は最高速度が時速60キロに制限されているのでこれを越えているという指摘です。

高速道路だけではなく、空いている道路状況で制限速度どおりに走っている自動車は希です。違法状態ではありますが、自動車交通の円滑な流れを優先するために見逃されています。とはいえ、職業柄からも違法と認める訳にもいかず、「羽田に送ったのは実は昨日で、ツイートの時間は適当でした」と嘘をついてやり過ごそうとすると、二の矢が飛んできました。

こまかくチェックされる時代

「無許可で旅客を運んで報酬を得ることは違法ではないでしょうか」

送り届けた友人から謝礼を受けとっていたこともツイートしており、それへの突っ込みの「違法0.2」です。

法律はすべて杓子定規に運用されてはいません。法律はあくまで「常識」と「良識」を前提としているからです。その範囲内の謝礼に、旅客法や貨物自動車運送事業法を持ち出すことはなく、確定申告で記載し忘れていても追徴されることはないでしょう(給与所得者の場合、年間20万円を越える謝礼を受けとった場合、申告が必要です)。交通違反にしても悪質性のない、軽微なもののすべてを取り締まっていれば、お巡りさんは激務で過労死するかもしれません。これについては社会的コストとの兼ね合いから見逃されているのであって、罪がないわけではない「違法0.2」ということです。

しかし、E社長はそれをツイートにより、違法行為をネット社会に拡散したのです。冒頭のロンブー田村さんのケースと同じです。これぐらいで警察や行政が動くことはありませんが、わざわざ火の粉をまき散らした「0.2」です。

ネットの中の暇人は、現実生活への不満の反動なのか、なぜか正義の味方になりたがります。そして、これは先に指摘したように、他人事ではありません。自転車の右側通行や片手運転、往来のない通りでの信号無視など、軽微な違法行為…を奨励するものではありません。あしからず。

エンタープライズ1.0への箴言


「投稿する前に法令遵守の視点でチェックする」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」