足元を見られた国会議員

次回総選挙で国政に進出する「日本維新の会」に逆風が吹き始めています。潮目が変わったのは、既存政党を離党して合流する予定だった国会議員との「公開討論会」。維新の会側の発言に、お説ごもっともと従うだけの国会議員の姿に「茶番」を見たからでしょう。しかも、その国会議員は入党が認められると手のひらを返し「橋下独裁にはしない」といきがってみせ、橋下党首に「有権者の支持が得られるなら、維新の会にいなくても良い(筆者要約)」と叱られて「しゅん」となります。党首の指摘は「選挙目当て」の入党ということ。事実だから反論できないのでしょうが、侮辱と受けとってもおかしくない言葉にも、それでも従うしかない状況を選択した国会議員団をみて思い出したOさんが今回の主役です。

少し前に橋本党首を「平成型独裁者」とした記事を書きました。受け入れて間もない人間への批判は、受け入れた党と党首に跳ね返ります。だから、事実であっても、口にしてはならない言葉を発した橋下徹党首を「たしなめる」ものの不在がそこから透けて見えます。

CIO登場

ベッドタウンにある不動産屋。駅から徒歩3分ではありますが、雑居ビルの二階では好立地とは言えません。この店のCIOの名刺を持っていたのがOさんです。CIOとは「最高情報責任者(Chief Information Officer)」を指し、立地の不利をインターネットの情報発信力で補い、あらたな「不動産業」を目指すためにOさんが設置した役職です。Oさんはいわゆる「社長」ではなく、社長は中学時代の同級生が務めています。同郷のふたりは、2年前に道ばたで偶然再会したことをきっかけに、一緒にビジネスを始めることになったのです。

あまり知られていませんが「不動産業界」は、インターネットの活用が遅れています。大手住宅情報サイトをみても「情報量」は増えていますが、掲載されている情報の中身は「雑誌」の時代からあまり代わり映えはしないのです。

来店しなくても商談ができる仕組み

Twitterでの情報発信はもちろん、自社サイトにSNSの要素を組み込み、顧客同士が繋がる仕組みを構築し、希望者にはスタッフが現地に出向き、物件をUstreamで中継するサービスを始めました。また将来的にはSkypeなどを利用して、来店しなくても商談から契約までできるようにと野望は大きいのですが、しばらくもせずに「解雇」を言い渡されます。

売上はほぼゼロと結果が伴わなかったからです。そのくせ、Ustreamの中継用にと最新式のデジカメと通信モジュールの購入を求め、Skypeのためにと高機能パソコンを追加導入します。他にもハードディスクに無線マウスと細々とした出費は続き、社内ネットワークの構築のためとグループウェアの購入を求められ、社長の堪忍袋の緒が切れます。なぜならわずか5坪ほどの店内で、社長とOさんを含めて4人の職場での連絡に、パソコンを使う理由が見つからなかったからです。

もっともこれは理由の1つに過ぎません。会社設立までは低姿勢だったOさんは、CIOを名乗りだしてから横暴な態度が目立ちはじめ、上がらぬ成果に途中報告を社長が求めると、「そんなにすぐに結果が出るものではない」と逆ギレするありさまです。さらに、狭い店頭の一角を使い、無断で「ITコンサルティング事業部」を始めていました。それは会社を設立する前からOさんが個人で営んでいた事業です。つまり、Oさんは同級生の金で駅前オフィスを用意しようと企んだ「寄生0.2」だったのです。ちなみに購入を拒否されたグループウェアは、Oさんが勝手に設立した事業部の取扱品目として、これまたOさんが勝手に作ったホームページに掲載されていました。

アニサキスのプライド

寄生とは、宿主から一方的に搾取することを意味し、片方だけに利益がある状態です。しかし、Oさんは「0.2」。寄生の及第点にすら達していません。Oさんは創業への「出資」を「金はない」と拒否していました。これで自動的に同級生が社長となります。またかつての同級生の部下になることをプライドが邪魔したのでしょうか、社員になることも拒みます。そのため会社とOさんのあいだをつなぐ契約はなに1つ存在せず、「お引き取り」を願うだけでOさんの立場はなくなってしまったのです。

維新の会に合流した国会議員を見てOさんを思い出したのは選挙目当てと、金目当てが重なったのではありません。社長がOさんに求めた出資はわずか10万円で、ほぼ形式的な出資です。仮にこれを払い込んでいればOさんは株主となり、「お引き取り」という次元での解決は不可能でした。わずかな金を惜しんで立場をなくしたのです。維新の会の国会議員団は党に対して自分の政治信条、信念という「出資」をしていません。その結果、維新の会=橋下徹党首に従うことだけが彼らのレーゾンデートルとなりました。つまり橋下徹党首と意見の相違が起こったときには「お引き取りを」のひとことで、彼らの居場所はなくなります。

もっとも橋下徹党首の言動のすべては「選挙目当て」です。維新の会が国政を目指すには「政党要件」を満たすことが絶対条件でした。「政党」として認められれば、選挙時の報道は大政党と等しく扱われますし、来年になれば「政党交付金」も受けとれ選挙資金に回せます。その政党要件を満たすためには5人以上の国会議員が必要。だから「選挙目当て」とはお互い様。わたしが国会議員ならば「おまえに言われたくない」と反論したことでしょう。

エンタープライズ1.0への箴言


「寄生体質は逆ギレするので要注意」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」