DQNネームか、キラキラネームか

親がよかれと名付けたものの、役所が出生届の受け取りを拒否した「悪魔ちゃん騒動」を覚えているでしょうか。受け取り拒否の根拠は以下です。

「子供の福祉を害する可能性がある親権の濫用」

名前が人生に及ぼす影響を鑑みてのことだそう。騒動から来年で20年となりますが、「光宙」と書いて「ピカチュウ」、「桃胡姫」で「みるき」、さらに「苺苺苺」と書く名もあるそうです。「キラキラネーム」という呼び方もありますが、ネット的には侮蔑の意味を込めた「DQNネーム」が一般的。かつての役所の懸念が表面化した記事が、ネットで話題となっています。

『人事担当者が真実を明かす「DQNネームのせいで就職できない」』

女性を応援する情報サイト「Gow! Magazine」の記事で、取材を受けた人事担当者は「知性と名前が関係しているように思える」と告白しています。コメントを補足すれば名前が知性を支配するのではなく、DQNネームを是とする家庭環境が知性に反映されているとの指摘です。周囲を見渡してほぼ正しい……とすると、筆者のリアルでの人間関係に影響を与えるので結論は保留しておきます。ちなみに「苺×3」は「まりなる」と呼ぶそうです。

新規ビジネス着手を機に社名変更

個人はもちろん、企業においても名前は大切。和製SNSの雄「ミクシィ」は株式会社ミクシィが運営していますが、元は「Find-Job」という求人サイトがメイン事業で「イー・マーキュリー」という商号を使っていました。上場直前に商号変更したのは、投資家の耳目を集めるのに、話題となっているサービス名のほうが良かったからでしょう。ちなみにミクシィとは「mix」で交流を、「i」で人を表すそうです。

スポーツ用品卸しを営むJ社長は、テニスの専門店に乗り出しました。「スポーツ用品店を相手にする商売では将来は先細るだけ」というのが理由です。街中にあるスポーツ用品店のドル箱は、地域の小中学校に販売する「体操着」や「上履き」で、少子化と売上が連動しているからです。そこで、卸しから直販への業態転換を目指します。

人気がピークを迎えた昭和後期ほどではありませんが、テニス人気は根強く、最近では錦織圭選手や、クルム伊達選手の活躍も手伝い復調の兆しを見せています。集客の要はネットです。これにより、日本全国から客を集める狙いです。そこで心機一転、社内公募した「新社名」へと切り替えます。

すでに同名の中古ラケット買い取り店が存在

いつものことですが、これから登場する名前は仮名です。公募により決定した名前は「Eleutheria」で、「自由」を意味するギリシャ語です。そしてデザイナーにロゴを発注し、ドメインを取得しサイトを制作、実店舗の看板はもちろん、買い物袋やPOPカードも発注しました。

意気揚々と開店するも聞こえてくるのは閑古鳥の鳴き声です。ネット経由の問い合わせもあるにはありましたが、「中古のラケットはいくらで買ってくれるのでしょうか」という筋違いなものです。J社長の「Eleutheria」では新品しか扱っていません。理由がわかったのは、戯れに「Eleutheria」でネット検索した時のことです。

同じ名前の中古ラケット買い取り店があったのです。ネットは有名無名、規模の大小を問わずに同じ土俵で戦う戦場です。そこで「同名」の先行者がいれば不利な競争となるのは自明です。ネットを戦場にするなら「検索」のひと手間を惜しむべきではありません。

そもそも「Eleutheria」が「DQNネーム0.2」です。日本語では「エレフセリア」と読むようですが、客が読めない名前はつまり、客が覚えにくい名前であることを意味するうえ、J社長はギリシャに所縁のない生粋の日本人であり、テニスと「自由」の関連性も深くありません。よほどの思い入れでもない限り、屋号や商号は覚えやすいのが一番です。

社名が簡単すぎてもトラブルに……

とはいえ、覚えやすい名前でもトラブルになることがあります。「くいだおれ」といえば、京都の「着倒れ」とならぶ大阪の代名詞です。焼き肉の聖地でもある大阪で修行し、故郷の沖縄県に戻り、コンテナを改造した小さな焼き肉店を開業したTさんは、修業の地の代名詞である「くいだおれ」を屋号とします。しばらくすると、チンドン屋を模した人形だけが今も活躍を続ける大阪の企業から「商標権侵害」だとクレームが入ります。さすが商人の街と言うべきでしょうか。地域の代名詞すら商標登録していたのです。そして「屋号として使うな」と電子メールで「通告」してきました。

商標権の侵害は「不正競争」に当たるかが争点となります。沖縄県の大動脈である国道58号線から自動車で20分以上も外れた、サトウキビ畑の中にあるコンテナ作りの焼き肉屋が、浪速のちんどん屋人形を侵害するとは考えにくいものです。しかし、突然の通告に質問を返しても返事はありません。個人商店が法廷闘争をすることは現実的ではなく、Tさんは屋号を「Tちゃんのみせ」に変えました。全国の「くいだおれ」を商号にしている企業の皆さん、ご注意ください。

以下は俵万智さん。

「読みやすく 覚えやすくて 感じよく 平凡すぎず 非凡すぎぬ名」

ちなみに週刊新潮の6年前の報道によれば「悪魔ちゃん」の、名付け親は事件を起こし一時服役し、出所後も経済的事情から引き取れず、彼は児童養護施設で育っているとありました。名前は人を表す……というか、名付けた人の人格と品格、ついでに教養も表します。

エンタープライズ1.0への箴言


「屋号はわかりやすいのがベスト」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi