変わるか!? SNS業界の勢力図

今年発売したシングルCDの5作すべてがミリオンセラーとなり、快進撃が止まらないAKB48が「Google+(グーグルプラス。ネットのスラングとして"ぐーたす"とも呼ばれます)」と手を組みました。Google+とは、検索エンジン世界シェアNo.1のご存じ「Google」が提供するSNSです。墓を暴いて死者に鞭打つ真似はしませんが、この分野で負け続けていながらも、テクノロジーへの信仰厚く人力の介入を極力避けるGoogleが、AKB48の人気にあやかるところからも「Google+」にかける意気込みが見えてきます。

SNSと言えば、日経MJが発表した2011年の「ヒット商品番付」で東の関脇に挙げられた「Facebook」。さんざんこれを持ち上げたWeb業界人や有識者の多くが「Google+」や「LinkedIn(リンクトイン)」に乗り換えています。それぞれが「Facebook」より優れているというわけではありません。新しいものを見つけると脊髄反射で飛びつくのが彼らの習性で、もう1つ理由がありますが、これは本稿の最後に。

ちなみに「LinkedIn」はビジネスに特化したSNSで、「Facebook」よりも前に生まれ、以前から注目をされていました。LinkedInへの乗り換えが増えたのは、10月から始まった「日本語版」提供を受けてのことで、Facebookの喧伝で「世界と繋がる」と大騒ぎしていたのは誰だったのかと首を捻ります。

今回はそんなSNSがやめられなくなったWeb製作会社の社長の話です。

職業柄、SNSでつながるWeb屋たち

本題に入る前に、街角から見た日本の「Facebook」の利用実態には激しい格差があることに触れておきます。これには、SNSの特徴である「つながり」が大きく影響しているようで、私の周辺調査では「大卒」「留学経験」があると利用率が高まります。プロフィールに学歴を記入することで同窓生が見つけやすく、世界中に7億人の利用者がいれば、かつてのホストファミリーや青い眼をしたクラスメイトと再会できるからでしょう。反対に、この2つの条件から外れていると利用率どころか、認知度まで低くなります。

こうした「学歴格差」がないなかでFacebookが利用されているのがWeb業界です。職業柄ネットに常時接続しており、勤務中も気軽にアクセスでき、互いの「つながり」を感じられることが大きな理由でしょう。Webの制作作業は多人数のチームを組んでいても、日々の業務はモニターと向き合う「孤独」なものです。

同じ理由からTwitterの利用者も多いのですが、かつては喧伝された「実名」もすっかり偽名アカウントが一般化して、匿名の影から攻撃する「輩」は激増し、通りすがりで悪態をつく様はまるで通り魔のようです。これに嫌気が差したのがWeb製作会社のK社長でした。

ラーメンがのびるほどFacebookに夢中

とはいえ、Facebookのアカウントも実名ばかりではありません。偽名アカウントは多く、真贋の区別がつかないAKB48のメンバーも多数確認できます。しかし、交流をリアルの知人に限定すれば、信頼できる「つながり」を構築できます。Facebookの「友達」は承認制なので、一方的に「フォロー」されるTwitterと違い、「つながり」をコントロールすることができます。つまり、リアルの人間関係をネットワーク上に築けるということです。

K社長がTwitterで「Facebookを始めた」と告げると、続々と同業者が友達申請します。自身も友達を見つけては申請しました。FacebookにもTwitterと同様のつぶやく機能がありますが、Facebookではつぶやきに「いいね!」とリアクションすることができ、モチベーションが高まります。せっかくのつぶやきもリアクションがなければ、木霊がなく叫ぶ「ヤッホー」のように虚しいものです。そしてお返しとして「友達」のつぶやきにも「いいね!」とクリックします。

K社長はすぐにどこでも「つながる」Facebookでのコミュニケーションにハマっていきました。愛機「iPhone」にも専用アプリをインストールして、通勤の電車内はもちろん、昼食時のラーメン屋では麺がのびるほどFacebookに夢中となりました。

フェードアウトが使えない

これだけハマったFacebookに息苦しさを覚えるようになったのは半年経った頃でしょうか。この現象はリアルでの「つながり」による「つながり0.2」です。

一口に「友達」と言っても、旧友もいれば取引先や部下もおり、競合する同業者もいますが、一度つぶやけば、その全員に知られてしまいます。部下の悪口はもちろん、取引先の話題はタブーとなり、新規事業の取り組みも語ることはできません。

こうしてFacebookに上がるのは自然と「あたりさわり」のないエピソードばかりとなり、結果として「いいね!」も減り、モチベーションが下がります。通常のネットサービスなら徐々に利用しなくなる「フェードアウト」という方法もありますが、リアルの「つながり」が「いいね!」というお付き合いを強制します。

現在、K社長は「Google+」への鞍替えを検討しています。リアルの「つながり」という名の「しがらみ」のリセットを狙ってのことです。Web業界人が新しいものに飛びつくもう1つの理由は「リセット」です。メルマガからブログ、あるいは2ちゃんねるからブログ、ブログからSNSと新しいサービスに乗り換えることで、過去をリセットしていくのです。リセット後、Facebookについて訊ねられたらこう答えます。

「あぁ、いま、"そっち"やってないんだよね」

"そっち"と遠ざけることで、礼賛した過去のリセットを目指すのです。

最後に余談ですが、AKB48とのコラボが「Google+」の利用者増加に繋がるかは微妙です。ミリオンセラーの連発も、彼女たちの熱狂的なファンがCDを複数枚買うことで成立しており、ファンの実数は不透明なのですから。

エンタープライズ1.0への箴言


「リアルのつながりをネットに持ち込むと窮屈になる」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi