どじょうの不愉快な仲間達

野田首相が適材適所と胸を張る閣僚人事。その内訳は、死刑を「考え中」として執行しない違法状態を続ける法務大臣に、消費者庁所管の全国の消費生活センターに多数の苦情が寄せられるマルチ系企業の勧誘に熱心な消費者担当大臣。まるで「ギャグ」です。ちなみに消費者担当大臣は、警察を取り締まる立場の国家公安委員会委員長も兼務しており、仮にこの企業が「クロ」となった場合、犯罪の片棒を担ぐ人が警察組織のトップという「笑えない話」になります。

そして就任直後に「素人」と告白した防衛大臣は、沖縄駐留の米海兵隊員による少女暴行事件を問われて「正確な中身を詳細には知らない」と答えます。事件の概要はここで繰り返すのもはらわたが煮えくり返るような非道な行いで、「日米地位協定」を見直すきっかけとなったことからも、「国政」を預かる国会議員ならば「常識」に属する事件で、防衛大臣ならいわずもがなです。

それでも野田首相は適材適所と強弁します。本稿執筆時は12月5日。さて、公開時に何人が「残留」しているか楽しみです。

スーパーエースは両刃の剣

トレーディングカード売買のM社はトレカブームを追い風に業務が拡大し、同業者の買収も手伝い、この1年間で店舗数が3倍になりました。事業を統括するのは課長1人で、彼は新作の仕入れや中古カードの買取価格決定といった通常業務にプラスして、社内のITツールの管理も行っていました。

課長はもともとITの素人で、インターネットの普及・浸透から業務での活用を迫られて覚えたにすぎません。しかし、社内でメール、インターネット、配線、パソコンのいずれかにトラブルが発生すると課長が呼び出されます。むろん、M社のM社長も課長を重宝しており、多忙の彼の時間を奪っては、自分の趣味のためのPCの設定もさせています。

課長のような「スーパーエース」の存在は両刃の剣です。課長がいなくなった翌日から事業が止まることは社内の常識でした。特にIT関連は課長を除けば、メールのアドレスの設定すらできる人材は社内に1人いるかいないかという状況です。そこで、人材を社外に求めます。

家電量販店のレスキュー

求人に応募してきた50代の男性の経歴には、大手家電量販店の「パソコンレスキュー(仮称)勤務」とあります。M社長が面接したところ、インターネット全般からPCのセッティングなど、何でもできると胸を張ります。そこで、IT専門家として迎え入れました。

出社初日、スーパーエースの課長の元で、レスキュー自身のメールアドレスを作らせます。独自ドメインをレンタルサーバで運用しており、サーバにアクセスして管理画面にログインし、新規メールアドレス作成のボタンをクリックして表示された画面に、希望するアドレスとパスワードを入力するだけの作業で、ログインまでを課長が行いました。

「腕を見る」というには簡単すぎる作業ですが、1つの目安にはなります。すると、このパソコンレスキューはあちらこちらをクリックした挙句、管理画面へのログインパスワードの変更を始めたのです。慌てて課長が止めます。レスキューは「確認していた」と言い訳をしますが、仮に専門家といえども、入社初日に管理権限を与える組織がなどないことは、ITの専門家なら誰もが知っていることです。

レスキューに出された次の指示は「M社長の自宅で無線LANを使えるようにすること」です。といっても、ケーブルテレビで契約しているインターネット回線と無線 LANルータをつなぐという簡単な話です。数時間後、レスキューは失敗し、課長が自宅に呼び出されます。

素人が素人を評価

失敗した原因は、ケーブルテレビのインターネット回線(ターミナルアダプタ)と無線LANルータをつなぐLANケーブルがクロスケーブルではなかったことです。LANケーブルには大きく分けて、クロスケーブルとストレートケーブルがあり、機器によっては使い分けが必要であるのは常識ですが、これをレスキューは知らなかったのです。

その後、M社長が会社の経費で購入した私用目的のタブレット端末の設定を指示され、社長室に消えていく背中を見たのがレスキューの最後の姿です。結局、タブレット端末の設定は課長に回ってきました。

これは、不適切な任用で現場に更なる負担を強いる「リクルート0.2」です。この人事を詫びることもなく後始末を押しつけられたスーパーエースの課長は、いま水面下で転職活動に取り組んでいます。

家電量販店が提供するPCの設定作業なら「素人」でもできます。なぜなら、主に新品を扱い、定められた条件下の仕事しかしないので「マニュアル」を覚えればできる作業が大半だからです。そんな「素人」を採用したのは、M社長自身が「素人」だからです。

専門的な技能を評価するには、評価する側にも相応の知識や経験が必要なのです。ここで1つの思いが脳裏をかすめます。「素人」の防衛大臣を任命した野田首相もまた「素人」ではないかと。「素人」であるがゆえに、職務・職責に応じた能力が必要であることを知らず、知らないからこそ厚顔にも「適材適所」と断言し、沖縄県民の感情を逆撫で、普天間問題をさらに難しくするなど、素人でもなければ恐ろしくてできませんからね。

もっとも民主党自体が、政権政党としては「素人」なのかもしれませんが。

エンタープライズ1.0への箴言


「適材適所の実現には業務への理解が不可欠」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi