モテ期を引き寄せる方法

以前、中学生だった甥に「モテ」の方法を訊ねられたことがあります。「モテ」とは異性(あるいは同性)に人気のある状態で、いわゆる「モテる」ことです。思春期男子にとっては大きな問題で、私が甥に伝えた結論はこれです。

「さらけだせる人になれ」

言い換えれば「積極性」です。モテる人は「好き」という感情はもちろん「弱み」までさらけだします。豪華キャストで映画化される久保ミツロウ原作の『モテキ』では、うだつのあがらない主人公が突然「モテ期」に突入するも、ハッピーエンドに辿り着かない恋愛模様に読者はやきもきするのですが、うまく行かない理由は「さらけだせない」主人公にあります。「好き」という言葉やさらけだせない心の傷が、すれ違いというドラマを演出するのです。

裏を返せば当たり前の話です。好きと言わずに心を伝えるのはエスパーでもなければ困難ですし、弱さを語らずに母性を刺激するには時間がかかりすぎます。つまり、確率論からもさらけだすほうがモテるということです。

ビジネスと恋愛は似ています。同じくホームページと恋愛も。黙っていれば通り過ぎ、価値あるものの価値は伝わりません。

ホームページは必ず結果の出る世界

刺繍製品はここ数年、加工賃の安い中国に流れていましたが、今はベトナムなど東南アジア諸国にシフトしつつあります。品質の高い日本メーカーでも、極端な価格差に太刀打ちできるものではありません。また、IT機器の発展も追い打ちをかけました。PCでデザインしたものをプリントして熱転写する技術の発展が、仕上がりよりもコストというデフレ下の企業ニーズと相まって、刺繍が得意とした多品種少量生産の市場を食い荒らしていったのです。

刺繍加工業を営むY社長は数年前にホームページを開設しました。その製作は、このことを相談した経営コンサルタントに紹介された業者に発注しました。しかし、公開してから今まで注文どころか問い合わせもありません。

そんな時、Y社長は異業種交流会の飲み会の席で偶然同席した別の制作業者にホームページの愚痴をこぼしました。すると、「一度ホームページを見せてもらいたい」と翌日業者が来社します。ホームページは正しい方法で制作し、運営を行っていれば反響が「ゼロ」ということはあり得ないからです。そして、店内で見つけた「東海道五十三次」を見つけ、もったいないと声を上げます。

コンテンツがあれば勝つ

需要の激減と職人の高齢化により、日々、日本の工芸品の技術が失われており、伝統工芸品に限らず、手打ちのヤスリや普段履きの草履の修理にも困るようになっているのです。Y社長はこれを嘆き、私費を投じて歌川広重の代表作『東海道五十三次』を刺繍で再現し、店内に展示していたのです。

ホームページの魅力とは「コンテンツ」です。他社が持っていない魅力的な情報を掲載していれば、特別なことをしなくても客は増えるものです。刺繍の実需は減っていても、愛好家を日本全国から募れば、立派なマーケットとなります。ならば、「東海道五十三次」のようなオリジナルコンテンツは公開すべきです。30年以上苦楽を共にした刺繍職人の傑作で、これを企画したY社長の自慢でもあります。

新しい業者が調べたところ、ホームページへのアクセスは1日当たり1人か2人、ゼロの日もあります。ダメな理由を挙げればホームページの解説書ができるほどあったのですが、コンテンツ不足が最たる理由で、「東海道五十三次」がそれを埋めてくれるという業者の説明に、Y社長もその時はなるほどと頷いたのですが。

チラ見で客を呼ぶ難しさ

設計から作り替える大規模なリニューアルの前に「東海道五十三次」だけ公開することにしました。1秒でも早く検索エンジンにコンテンツの存在を認識させる狙いです。制作業者は土日の休みを返上して、江戸出発から京都到着、そして53次に目次ページ、豆知識と合計60ページを超えるコンテンツを制作し公開を迫ります。

数日後、制作業者に返ってきた返事は「公開は3枚まで」でした。「安物のプリントじゃない伝統工芸品だから、ネットで全部見せる必要はない」とは、役立たずなホームページ制作業者を紹介した経営コンサルタントのアドバイスです。Y社長はそれに従ってしまった「モテ期0.2」です。

経営コンサルタントは続けます。「全部見せたら、来店してまで見に来ない。少しだけ見せることで客はじらされて来店する」という囁きにY社長は頷いたのです。これは「非モテ」のタワゴトです。思春期を思い出すと懐かしい光景です。モテない人は、もっとモテない仲間の意見を参考にします。それはこんなアドバイスです。

「いきなり告白せずに、少しずつ仲良くなってからコクれ」

コクれとは告白のこと。そもそも少しずつ仲良くなるノウハウをもっていれば、モテに悩むことはないでしょう。ホームページでモテたことのないコンサルの話を鵜呑みにする限り「モテ期0.2」から脱出することはできません。

「東海道五十三次」の「写真」を見るだけで満足する人は客になりません。実際の「仕上がり」が気になる人が「客」になり、技術を確認するために現物を見るために来店することでしょう。

そして、足を運んでも後悔しないと決断させるための情報を提供することがホームページの役割なのです。逆に3枚しか見せないと、技術的な不安の表れと深読みされることさえあるのです。ホームページの成功法と「モテ」の極意は同じ「さらけだすこと」です。

冒頭の甥は好きな気持ちをさらけだすことができず、彼もまた「モテ期0.2」のまま高校生になりました。

エンタープライズ1.0への箴言


「インターネットの世界では隠した情報だけ客が減る」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi