「どうする俺?」は成功したのか?

テレビCMの中で「続きはWebで」とホームページへ誘導する手法が、かつて大ブームになりました。オダギリジョーさんが演じる主人公が人生の決断を迫られるシーンでテレビCMは終わり、その続きはWebでしか見られないことから多くの訪問者を得た「ライフカード」のCMのような成功例もありますが、下火になったことがこの手法の行き詰まりを表しています。

CMをみて気になったからと、PCの電源を入れて起動するのを待ってまでWebにアクセスする人は少ないのです。それは、iPadなどのタブレット端末でも同じです。テレビとは「受け身メディア」で、ソファーに寝そべりポテトチップスを頬張りながら、怠惰を楽しむ娯楽であり、行動を起こさせるには相応の魅力が必要なのです。

また、「ライフカード」のCMは話題を呼んで訪問者を増やした点では成功と言えますが、収支に結び付いたかどうかは不明です。わざわざWeb専用のドラマを制作し、巨費を投じてテレビCMを流しても、実益に結び付かなければ後に続くスポンサーは現れません。テレビCMからWebへ誘導する手法が悪いというのではなく、誘導する目的は何かを明確にしておかなければ、時にはマイナス効果となることすらあるということです。

葬儀社ビジネスの実態

あまり知られていないことですが、葬儀社は多くの広告を出稿しています。チラシはもちろん、バス広告、駅のホームの看板、電柱看板とありとあらゆるところに広告を出しており、ラジオやテレビCMまで出稿している企業もあります。それは身内に不幸があった時にいち早く思い出してもらうためで、病院で息を引き取った時点で「指名」されなければならないからです。

各病院には複数の葬儀社が待機しています。多くは輪番制で「仕事」を分け合います。もちろん、ご遺族が葬儀社を指名すれば、そちらが優先されるのですが、たまたま「当番」だった葬儀社が、ご遺体を自宅や葬儀場に搬送してから業者の変更を申し出ることは困難です。それは、搬送した業者が10万円単位(筆者取材による平均)の「搬送料」を請求するからです。

一方、葬儀を発注すると「搬送料」は基本料金に組み込まれ「無料」同然となることから、一度ご遺体を搬送されてしまうと、他社に乗り換えにくい仕組みになっているのです。だから「指名」を得るために広告を打ちます。

O社長の葬儀社でも広告を大量に出稿しています。駅看板、バス広告、なかでもチラシには力を入れており、自社を中心とした営業エリアを4ブロックに分け、そのうちの2ブロックずつに対し2週間おきに新聞折込チラシを配布しています。

チラシと情報が異なるホームページ

チラシには「保存版」と書かれ、所狭しと情報が詰め込まれ、料金プランはもちろん「お客様との10の約束」と題したミッションステートメントに葬儀の豆知識、有名テレビ番組への出演歴が掲載されています。そしてここにもありました。

「続きはWebで」

チラシには葬儀社の名前が入った「検索窓」が描かれ、検索ボタンにカーソルが重なります。

チラシを見てWebサイトを訪問する人は少なくありません。携帯向けサイトを持っているなら、QRコードを用意することで検索する手間が省けますし、チラシを見る層はよりお得な情報を得るために積極的に行動します。ところが、O社長のホームページにアクセスした人はラビリンスに迷い込みます。チラシに掲載された内容とホームページに掲載されているサービスが異なるからです。

チラシに目玉として掲載された「家族葬」は40万円。ホームページのイチオシプランは同じプラン名を冠していて42万円。両者の違いは葬儀会場と火葬場を往復するマイクロバスの差ですが、両者を並べて、ひとつひとつを見比べなければ気づきません。というより、大抵の訪問者はこう思うでしょう。

「2万円値上げされている」

これこそ、わざわざアクセスさせておいて不信感を与える「続きはWebで0.2」です。

囲い込みで失敗する理由

10の約束もサイトにはありません。かわりに「10の安心」がありますが、まったく違う内容になっており、約束を信じた訪問者の安心を損ないます。ほかにもチラシとホームページの違いは多く、何よりチラシのほうが情報量が多いのです。理論上、「無限大」の情報掲載スペースを持つホームページの長所が生かされていません。

チラシの情報量が充実しているのは、毎月のように作り替えるなかでブラッシュアップされたからで、料金の違いも隣接するライバル葬儀社の料金改定への対抗措置でした。約束が安心に変わった理由も同じです。それらの変更がホームページに反映されていないのです。

にもかかわらず、「続きはWebで」と誘導するのは「ライフカード」のCMの影響です。チラシからホームページへ誘導すれば、身内の不幸に混乱するなか、葬儀の準備に追われる遺族が他の葬儀社を検討する時間がなくなるだろうという目論見です。Webへの誘導は「囲い込み」。客の不幸につけ込むようなやり方という批判はともかく、囲い込んだ先で不信感を与えているのですから、すべては台無しです。

しかし、O社長だけを笑うことはできません。「続きはWebで」と広告代理店の口車に乗った企業の大半が「0.2」だったのですから。

エンタープライズ1.0への箴言


「目的なくWebへ誘導するとマイナスプロモーションになることがある」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi