安全と安心のために停止した浜岡原発

菅直人首相が浜岡原発の停止を要請し、中部電力がこれを受け入れました。活断層の上にある浜岡原発は以前より危険性が指摘されておりましたが、首相は今後30年以内にマグニチュード8程度の地震が発生する可能性が87%あるという数字を引用しつつ、国民の安全と安心のためと理解を求めます。そして、これは浜岡特有のことで、他の原発には及ばないと繰り返します。

「英断」と評価する声も少なくありません。しかし、日本列島は4つの大陸プレートの上にあり、どこの地域でも地震のリスクから逃れることはできません。そもそも、地震の発生確率87%とした地震調査研究推進本部の資料で、事故が起きた福島の地震確率は0%です。また、停止要請の理由に「津波対策」の不備を挙げていましたが、日本の原発はすべて「沿岸」にあり「浜岡以外」は安全安心ということなのでしょうか。ちなみに福島を襲った津波は「想定外」です。

ともあれ、「原子力に詳しい」菅直人首相の判断。大丈夫なのでしょう、たぶん。

ホームページ刷新で相次ぐ注文

機械製造のQ社のK社長は今さらながらインターネットの力を知りました。震災時のTwitterやFacebookなどの「ソーシャルメディア」ではなく「ホームページ」の魅力です。サイトをリニューアルしてから、注文や問い合わせ、見積り依頼が相次いでいるのです。

Q社は製造用機械の設計から製造、取り付けまで行っています。かつてはこうした「機械屋」は街中にたくさんあったのですが、時代の波と不景気の風で淘汰されて減りました。しかし、独自機械の需要は今でもあり、機械屋を求める時にインターネットが使われるのです。インターネットは需給のミスマッチを解決する力があります。

プロにリニューアルさせてから、Q社のホームページに客が訪れるようになりました。実は、一般的に「SEO」とよばれるアプローチを適切に施すだけでホームページに客は来ます。ところが、10年ほど前にK社長が知人に依頼して開設したホームページは「社名」で検索しても見つからない粗末な仕上がりだったのです。もちろん、知人の腕を見込んでのことではありません。知り合いだから「安心」という理由にならない理由によります。

「安全」を目視できるから有線で接続

Q社は3階建ての自社ビルにあり、工作機械が並ぶ作業場の1階、事務所の2階、K社長の自宅が3階となっています。それまでインターネットができる環境は2階の事務所にある1台のPCだけでした。電子メールすらめったに届かないためそれで十分だったのですが、ホームページから相次ぐ「見積り依頼」に舞い上がり、作業場でも自宅でもインターネットを見られるようにと社内LANを構築しました。

これぐらいの規模の建物で、使用目的がネットの閲覧ぐらいなら「無線」がオススメです。セキュリティも向上しており、無線LAN内蔵のPCも増えていますし、装置も安くなりました。また、スマートフォンからも接続できます。何より「配線」の手間が不要です。特に上下階への配線は床か壁に穴をあけなければなりません。

しかし、K社長は「有線」を選びました。理由は「安全安心のため」。有線なら目視で確認ができるが、無線は故障してもわからないという理由です。機械メーカーの社長として「機械」には詳しいと胸を張ります。

しかし、目視で確認できるのは「ケーブル」が繋がっているかどうかだけのこと。ケーブル内部の断線は目視で確認できません。また「配線」は目につかないところを通すもので、隠れたところの異常に気づくのは困難であり、ネズミにかじられて断線することは珍しくありません。また、こうした機器の「接続部」はホコリや汚れ、着脱時の損傷などからトラブルを起こしやすく、ルーターやハブなどを介して接続部が増えればそれだけ故障リスクが高まります。

根拠のないリスク回避

一方、無線は親機(ルーター)と子機(PCなど)は物理的に繋がっておらず、トラブル発生時もすべての「子機」から接続できなければ「親機」に問題があり、特定の子機からだけならそこにトラブルが起きていると特定が容易です。また、有線では上下階の各部屋に届く長さのLANケーブルがPCの台数分必要となり、配線費用も加わり割高となります。つまり、K社長の下した有線という決断は、高い金を払って故障リスクを高めた「安全安心0.2」です。近視眼的な「安全と安心」はコストの増加を招きます。

今、多くの原発が「自主停止」しています。原発は13ヵ月に1度停止して点検することになっており、もちろん異常がなければ「再稼働」できるのですが、福島の事故を受けて、電力各社が再稼働を見合わせているのです。このままいけば、1年後にはすべての原発が定期点検に入り「自主停止」するかもしれません。すべては安全と安心のため。

しかし、それによって生じる「電力不足」が安全と安心を損なうことは、この春の「計画停電」で私は経験しました。灯りの消えた都会は、月明かりすらビルに遮られ闇は深く、幹線道路では信号が止まり、横断できずに途方に暮れた高齢者の姿に「安全安心」を見つけることはできません。

浜岡原発を「政治」が停止させました。ならば、「安全と安心」であるはずの「浜岡以外」の自主停止している原発に再稼働を「要請」をするのもまた「政治」の仕事であり、「安全と安心」を提供する政府の仕事ではないでしょうか。

エンタープライズ1.0への箴言


「安全と安心にとらわれて思考停止しない」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi