ケータイネイティブの友情

今時の中高生は「ケータイ」がないと友達ができないといいます。遊ぶ約束などの連絡手段がケータイであり、持っていなければ誘われないというのです。Benesse教育研究開発センターが2009年に発表した「子どものICT利用実態調査」によると、高校生で9割、中学生でも5割がケータイを持っているという調査結果からも、中高生の日常生活にケータイが組み込まれているといってよいでしょう。確かにケータイは便利です。

インターネットネイティブとは、物心ついた時にインターネットを活用していた世代を指し、さしづめ、今時の中高生は「ケータイネイティブ」といったところでしょうか。しかし、それが友達の有無に直結するというのは論理のすり替えです。

ケータイを持っていても、嘘つき、自分勝手、思いやりがない、話しがつまらないなど、本人由来の嫌われる理由があれば着信音が鳴ることはないからです。ケータイは連絡手段であり、友達を作ってくれる機械ではありません。iPhoneを駆使して24時間ネットに接続し、TwitterにFacebook、スカイプにミクシィと、連絡ツールを数多く持っていても、「ともだち」がいるとは限らないようにです。

仕事ができない理由

地方の株式市場に上場している企業がアミューズメント事業を店舗と従業員を引き受ける条件で、非上場の中小企業A社に売却しました。10店舗を運営するA社が20店舗を買い取る小が大を飲み込む形での買収劇でしたので、店舗運営になれたスタッフが増えることは歓迎すべきことと受諾します。

事業統合にあたり、「上場企業」が使っていたグループウェアの利用を停止しました。すると飲み込まれる側の「上場企業社員」はこう言いました。

「それでは仕事ができない」

社内のコミュニケーションが滞ることで業務に支障をきたすというのが主張です。

グループウェアは情報を共有することで作業効率を高めるためのツールです。主にPCで利用しますが、外出先からでも携帯電話やスマホを利用して情報にアクセスできます。どこにいても上司や同僚のスケジュールを見ることができるので、出先にいる営業マンでも「同行営業」の予定を組めます。また、進捗状況の「見える化」により、個々人が次の作業に備えることができ、社内のリソースを最大限に活用可能です。ただし、これは「活用」されればの話。

高コスト体質をもたらすグループウェアの戯れ

買収したA社でも以前にグループウェアの導入を検討していましたが、店舗にいるスタッフは接客や陳列棚の整理、清掃などに追われ、PCに向かう時間を確保することは難しく、ともすれば届いた電子メールすら「見ない」こともあります。ならば、「電話」の呼び鈴で着信を知らせ、FAXにより「紙」という現物を送りつけるほうが、確実に情報共有できるという結論となり見送られたのです。

そもそも、上場企業の社員が主張する「コミュニケーション」とはグループウェア上にある「会議室」に集まり行われるチャットを指すのですが、多くは「業務連絡の確認」です。内容をシンプルに述べれば、「見ましたか?」「はい。見ました」ぐらいのやりとりを「コミュニケーション」と強弁し、なければ仕事ができないとする「グループウェア0.2」。ケータイがないから友達ができないと主張する中高生のようです。

グループウェア廃止に異を唱えたのは、売却前に事業部単位では黒字だったことへの自負から、今までの仕事のやり方をかえられることへの抵抗もあったのでしょう。しかし、月々の利用料を支払っているグループウェアで、「見た?」「見た」と戯れる仕事のやり方は高コスト体質へとつながります。

ツールはツールにすぎない

株式公開している企業は、絶えず株主の利益を求める声にこたえなければなりません。そのため、資本効率の悪い事業は見直しが迫られ、10億円投じて1億円の利益が出る事業と、1億円で8,000万円の利益が出る事業があれば、後者に経営資源を集中します。ちなみに、こうした考えをROIと呼び、百分率で表します。

利益÷投下資本×100=ROI(%)

前者のROIが10%、後者のROIが80%と、8倍の開きがあることがわかります。

電話で述べれば数秒で伝わる業務連絡も、グループウェアにログインして「作文」が行われていました。業務連絡ですから、私的なメールと同じ文章は書けないと気取ります。短くても1回に4~5分を投じ、積み重ねが「残業」を生み出して人件費が利益を食い潰します。自慢の黒字は「薄利」に過ぎず、事業売却はROIの悪さからだったのです。

また、グループウェアに向かう時間が増えたことで、客と接する時間が減り、客の嗜好の変化に鈍くなったことが、仕入れ間違いの遠因となり、積み上げた「不良在庫」もROIを悪化させていました。

道具の進化は一般的に「便利」を伴い、グループウェアも正しく活用すれば「良い」結果をもたらしてくれます。しかし、「便利」と「良い」は同義ではありません。ケータイの普及は生活を「便利」にしました。

中高生の間では「携帯メールの返信は15分以内」という不文律があるといいます。実際、高校生の姪にメールを送ると2~3分、時には十数秒で返ってくることもありました。すぐに連絡が取れる「便利」さに感謝しながらも、あまりに早い返信から彼女がケータイの付属品のような錯覚にとらわれ、携帯の便利が「良い」ことなのかと考えてしまいます。

エンタープライズ1.0への箴言


「便利な道具が"良い"とはかぎらない」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi