恥ずかしさを通り越して量産へ

すっかり「ゆるキャラ」の代表格となった平城遷都1300年記念事業の公式マスコットキャラクター「せんとくん」。「彼」が注目されたもともとの理由はその風貌に「気持ち悪い」と批判の声が上がったからです。美醜は主観に左右されるので論評は避けますが、見慣れてしまえば気にならないことの真実を端的に述べれば、「美人は三日で飽き、ブスは三日で慣れる」となります。

ほかにも、国宝・彦根城築城400年祭の「ひこにゃん」、中日ドラゴンズのマスコット「ドアラ」など、日本全国で「ゆるキャラ」が大量繁殖しています。

ゆるキャラとは「ゆるいキャラクター(マスコット)」の略称で、イラストレーターのみうらじゅんさんが広めたと言われています。造形のいい加減さ、奇抜さ、詰めの甘い背景設定などを「ゆるい」と一言でまとめ、作り込まれた「キャラクター」と一線を画すものとして面白がっていたのが始まりです。

それは決して誉められたベクトルではなく、当時みうらじゅんさんが出演していたラジオ番組で紹介されるたびにスタジオから失笑が漏れていたことと重ねれば、恥ずかしげもなく量産されるゆるキャラに、「水は低きに流れる」という言葉を思い出してしまいます。

強弁するなら「ジャパニーズカルチャー」

ゆるキャラが増えるのは日本特有の現象です。ミッキーマウスやスヌーピーのような「物語(作品)」から生まれたものやバーガーキングの「ミールトイ」といった子供向けのおまけ、あるいは中国の石景山遊園地に代表される「リスペクト」されたキャラクターなら、世界中にありますが、ストーリーや背景を持たないキャラクターが量産されているのは日本だけです。

さらに、自治体や官公庁が独自のマスコットキャラクター(そのほとんどがゆるキャラ)を持っているのは、類を見ないジャパンオリジナルです。ところが、そこは「0.2」の巣窟です。

「日本人のゆるキャラ好きは文化に根ざすもの」というのが私の見立てです。まず、万物すべてに魂が宿ると考える「アニミズム」が一般的な日本人の宗教観としてあります。また、長期間使い続けた道具に神が宿る「九十九神(つくもがみ)」もあれば、かまどからトイレまで担当する神様もいることから、非実在創造物の人格を認め、感情移入することなど造作もありません。

冒頭、私が「せんとくん」を「彼」と表現したのもその表れです。これを伝統文化とすれば、ニューカルチャーの代表は漫画やアニメです。犬やネズミが会話をするならともかく、二足歩行のロボットが感情を持ち、ライターがロボットに変身し、最近では消しゴムが飛ばすギャグを見て育てば、突然現れた不気味なゆるキャラを素直に受け入れることに抵抗はないでしょう。

1つの市でなんと17種29体の乱立

地方自治体が「ゆるキャラ」を採用する背景には、「お堅い」イメージの払拭があります。「市民に親近感を持ってもらうために」という志が暴走したのが、都心から少し外れた片田舎的な地方自治体Aです。

公式ホームページで「公認」として掲載されているだけでも、ゆるキャラは17種29体。選挙の投票を呼びかける犬に市民祭り専用のカエル、さらにネコ、若葉、人間と多岐にわたります。親近感どころか、市民が知らないキャラクターが目白押しの「ゆるキャラ0.2」です。キャラクターが乱立したため、市民は親近感どころか、大半のキャラクターの存在を知りません。

自治体がキャラクターに求める「親近感」は表向きの理由です。ゆるキャラは、彼らにとって実用的な便利ツールなのです。まず、ゆるキャラは「紙面を埋める」ことができますが、それは広報誌やポスターだけに限りません。啓蒙活動や広報における実績は結果を持って評価すべきですが、ゆるキャラを用意しておけば、数的実績を掲載すべき報告書に着ぐるみや関連グッズの現物や写真を添えて「誌面を埋める」ことができるのです。

血税が流れるTheお役所仕事

さらに、着ぐるみやグッズは確実に予算を「消化」できる安全パイです。公募にすれば、募集の告知や審査員の招聘、賞金、表彰、その発表と、もっともっと予算を消化できるうえに、市民の声を取り上げたと自己満足にも浸れます。また、公募やプロのデザイナーに発注する予算が足りなければ、自作できるのもゆるキャラの魅力です。それが証拠に、このA市のリサイクル推進のゆるキャラは職員が描いた落書きを図案化したものです。

A市の「ゆるキャラ0.2」は止まりません。「新ビジネス創出」を目的としたコンテストを開催したところ、優秀賞に輝いたのは「ゆるキャラのFlashアニメを用いたA市の広報活動」でした。Flashアニメは2007年に『秘密結社鷹の爪 THE MOVIE~総統は二度死ぬ~』が劇場公開されており、新ビジネスと呼ぶのは恥ずかしすぎる技術です。そして何より、このゆるキャラはA市に縁もゆかりもない動物がモチーフで、公式ホームページにも掲載されていますが市民の認知度はほぼゼロです。

しかし、この「新ビジネス」にも公金が投入されるわけです。とどめはお役所的発想で、A市のゆるキャラ増産には、他部署が作ればうちも作るという「横並び意識」が色濃く影を落としています。

キャラがゆるいからと予算の使い方まで緩くなられては困ります。なぜなら、自治体のゆるキャラ制作費の原資は「血税」なのですから。ちなみに、せんとくんが公式キャラクターを務める「平城遷都1300年記念事業」の公式ホームページに掲載されていた「収支計画」の収入の「公的負担金(奈良県・奈良市)」には「80億円」と書かれていました。

エンタープライズ1.0への箴言


「税金の無駄遣いのために作られている『ゆるキャラ』は多い」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi