飛行機が着陸して最初にすること

9月に出張で沖縄県の久米島に行ってきました。近頃は駅や空港、そして多くのホテルにインターネット環境が用意されているので、日本全国どこにいても仕事ができて便利です。久米島は7・8月の観光シーズン以外、羽田からの直行便が飛んでいないので那覇空港で乗り継ぎをします。

所定のスポットに機体を移動させると「ベルト着用」のランプが消え、機内では「常時使用禁止」のはずの携帯電話の電源を入れる音があちこちで聞こえます。前の席に座っていた学生らしき若者も電源を入れました。降りるため通路に並んでいると目の端に彼の携帯電話の画面が映り、プライバシーの侵害だと自省する声を好奇心が凌駕します。

自己弁護をするなら、若者は降りる準備をせず、着席したまま携帯電話を操作していたので、視線を下に落としたらそこに画面があったのですが。

「沖縄なう」

彼はツイッターの携帯電話向けソフト「モバツイ」を使って投稿していました。さて、今回は3泊4日の旅空で見つけた「0.2」特別編をお届けしましょう。

つぶやきの次は何をする!?

「○○なう」とは、自分が今いる場所を表すツイッター内の慣用句で、観光地にある「顔出し看板」に顔をはめ「はい、チーズ」と記念撮影をするような「お約束」なのかもしれません。「これも時代だなぁ」とひとりごちていると、カチカチと携帯を操作する音にまた目がいってしまいました。

今度は「ミクシィ(携帯版)」に接続しています。隣の席には友人らしき人が座っているのですが、言葉を交わすことなく携帯電話を経由した「ネットの向こう側」に話しかける姿に0.2の萌芽を見つけます。

グループ旅行のようでしたので、同席した人間とたまたま相性が悪かったのかもしれません。しかし「着いたね」や「(飛行機が)揺れたよね」と当たり障りのない言葉を交わすところから、20世紀の若者は「社交辞令」を学んだのですが、ネットの向こう側とのコミュニケーションが、リアルのコミュニケーションの「学習機会」を逃しています。

飾られたネットの裏にあるみっともないリアル

乗り継ぎ便までの時間があるので、空港内の食堂に入ります。隣に座った20代らしき女性が「沖縄そば」を注文し供されると、だしの香りを楽しむ前に携帯電話を取り出し「撮影」を始めました。会話から察するところ「ブログ」にアップするようです。

撮影が終わると箸を割り「犬食い」を始めました。左手は重力に逆らわず肩から手の甲までが一直線になるほど見事に垂直にたらし、器に手を添えることなく、丼に顔を近づけてそばをすすります。

「食事は美味しく食べれば良い」という意見に賛成です。しかし「食事のマナー」とは本人の満足のためにあるものではなく、周囲の人間を不快にさせないためのもので、食堂は公共の場です。「みっともない」とは「みとうもない(見たくもない)」が転じた言葉とされ、日本人のマナーとして犬食いは積極的に見たいものではありません。

「どんぶりが重い」と好意的な解釈を試みたのですが、スープを飲む時はどんぶりを左手に載せ、箸を持つ右手は添えただけで流し込んでいました。「ブログ」に掲載された写真がどんなに綺麗でも、リアルで見せる食べ方は「0.2」です。

久米島に着きました。海岸でもホテルのプールサイドでも携帯電話を片手に握り締めている人を見かけます。そして、彼らは青い空、白い砂浜、透明な海水に目をやることなくひたすら親指を動かしています。その光景を切り取れば、東京渋谷のセンター街と何ら変わりません。

ツイート、ブログ、メールによって失われているモノ

出発前夜にこんな光景もありました。羽田空港に近い居酒屋で夕食を取っていると、1歳ぐらいの幼児を連れた親子三人組が来店しました。パパとママはメニュー選びに必死で、その間、子どもに「iPhone」が渡されゲームに熱中しています。飽きるとパパに語りかけるのですが、パパはiPhoneを「別のアプリ」に切り替えて幼児に渡します。目先が変わるので、しばらくは夢中になり静かにしているのですが、すぐに飽きるのは幼児ですから仕方がありません。すると、また父親はアプリを切り替えて幼児に与え、これがずっと繰り返されました。

その間、ママは食事と携帯メールに大わらわで、親子の会話も夫婦の会話も聞こえてきません。かつて、テレビやゲーム漬けにして子供を放置する育児が社会問題となりましたが、「iPhone育児 0.2」が生まれつつあるのでしょうか?

ツイッターもミクシィもiPhoneも存在を否定するものではありませんし、日常生活からインターネットを切り離すことはもはや現実的ではありません。しかし、インターネットに「隷属」する生活を送ってはいないでしょうか? 時間と空間を共有している友人より、ネットの向こう側に安らぎを覚えるのなら「コミュニケーション 0.2」です。あるいは、ツイッターやブログで人生の「つめあと(記録)」を残すことに追われている「ライフログ 0.2」。残念ながら、「ネタはないか」という視点でしか、物事を見られなくなっている人は増殖しています。

そこで、秋の行楽シーズンに1つ提案します。家族や友人、何より恋人との旅行では「禁ツイッター」「禁ブログ」「禁メール」をしてください。「思い出」が増えることをお約束しましょう。もし、間が持たなくて喧嘩したとしても、それも「思い出」です。ちなみに私は旅行中に一切「ツイート」をしませんでしたが、実生活において困ったことは何1つありませんでした。

エンタープライズ1.0への箴言


「ITによる"0.2"が日常に溶けている」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi