市立の"ロリータ小学校"が誕生か!?

先日、山形県東根市が2011年4月に新設を予定している小学校の名称にまつわる騒動がありました。同市は特産品の「佐藤錦」を筆頭に、さくらんぼの生産量日本一であることから、新設小学校の名称を「さくらんぼ小学校」としたのです。市民からの公募で、最多得票数を得たものでしたが、公表するとこれに待ったがかかりました。

なぜなら、「アダルトサイトと同じ名前」だったからです。しかも、そのサイトは俗に言う「ロリコンもの」を扱っているのですから洒落になりません。これは匿名の通報でわかったのですが、土田正剛東根市長は当初「校名を変えれば、かえってアダルトの世界を正当化することになる」として、校名を変更しないと発表したのでひと騒動……特にネットにおいてネタにされました。

結局、「大森小学校」という名称に変更することが決まったのですが、件のサイトを見れば当然でしょう。愛娘の小学校を名称で「ネット検索」して、「いたずラブ ひと気のない公園で少女と愛を育もう」というコピーと共に、あられもない姿の少女のイラストが出てくることを喜ぶ親などいません。毅然とした市長の態度は素晴らしくとも、ネットの中で起きていることを知れば「変更」はやむなしでしょう。

住宅メーカーの裏事情

今回の主人公もネットの世界を知らずに迷走します。建築業界は丸投げの世界……というと語弊がありますが、もともと大工に鳶、左官や表具師など、職能が細分化されており、それぞれのエキスパート、いわゆる職人に発注する業界なのです。これは街角の工務店も大手のハウスメーカーも同じで、実際に現場で家を建てるのはこうした「職人」たちです。

ところが、お客さんは「大手」の名前に安心し、街角の工務店はその下請けに甘んじることが少なくありません。こうした仕組みに憤りを感じていたのが、地域密着型ハウスメーカーのH社長です。

特殊な工法や建材を持っているからと大手が選ばれるのなら仕方がありません。しかし、普通の木造住宅ならH社長の会社と大手とは差がなく、また、販売専門のようなハウスメーカーの中には、建築現場に足を運ばず、H社長の会社のような地場の工務店に行程管理から職人の手配まで「丸投げ」することもあるのです。こうした会社よりも地域密着のハウスメーカーを選んでほしいというのがH社長の願いです。

余談ですが、「10年経てばどんな家でも必ず壊れる」 とは、ある不動産営業マンから聞いた話です。その時、地場の工務店で家を建てていれば修理や補修も気軽に頼めるのですが、大手は人の出入りも激しく、10年後に担当者が在籍しているかも怪しいと言います。

住宅の総合専門家だから「ハウスコンシェルジェ」

そこで、H社長は地場の工務店の利点をホームページに掲載することにしました。

「ハウスコンシェルジェ」と称する自分に似せたイラストが、職人の役割、束ねる工務店の仕事、ご近所にあるメリットを語ります。工務店、建築業、不動産――どれもちょっとピントがずれている気がしました。また、立て替えからトイレの修繕、犬小屋のメンテナンスまで、住宅に関することならすべて請け負うという意気込みを表す言葉を探していた時に、ホテルには宿泊客のあらゆる要望に「ノーとは言わない」という俗説がある「コンシェルジュ」という総合世話係がいることを発見し、それに「ハウス」を冠したのです。

お気付きでしょうか? H社長は「ハウスコンシェルジェ」で、筆者の解説は「コンシェルジュ」です。社員が違いを指摘すると、H社長は「ジェ」だと主張します。語源であるフランス語の発音に近いのは「ジュ」なのですが、日本語の世界では「ジェ」も流通しており、絶対的な間違いとは言えないのですが、残念ながら「ネーミング0.2」です。「ジェ」については「concierge」の末尾「e」のローマ字的発音から定着したのではないかと見ています。

ネット検索が目的ならネットのマジョリティに従うべき

Gogoleで検索すると10月04日現在、「コンシェルジュ」と検索した場合は約1,280万件ヒットし、「コンシェルジェ」の場合は約102万件と10倍以上の開きがあります(ブラウザによって結果が違うようです)。ネットの世界では「コンシェルジュ」が主流派なのです。「ネットで検索」されることが目的ならば、流通量の多い言葉を採用するのが正解です。ついでに言えば、住宅や建築業界で「コンシェルジュ」を名乗る企業は多く、差別化に繋がっていないところも0.2です。「ネットで検索」すればすぐにわかることなのですが。

冒頭の「さくらんぼ小学校」もネーミング0.2です。市民からの公募とはいえ、選考段階において「ネットで検索」すれば、すぐに却下されたことでしょう。また地域の特産品を校名に入れるところ、さらに「ひらがな」で表記するところにも0.2感が漂います。りんご、みかん、すいか、なし、ぶどう、もも――まるで幼稚園や保育園の名称です。

ユニークな校名を採用することでアピール効果を狙ったのでしょうが、その名称が「ロリコンサイト」で使われていたとしたらマイナスプロモーションです。さらに、昭和に育った人間は「さくらんぼ」と聞けば、スリーキャッツの「黄色いさくらんぼ」を思い出します。結局は「悩ましい」問題になったわけです、「若い娘がウッフン」と。

エンタープライズ1.0への箴言


「ネットで検索は最低限のリサーチ」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi