センセーたちの実力はいかに!?

物書きをしていると、ときどき私を「先生」と呼ぶ人に出会います。それを断ると「ご謙遜」と興に乗ってくるので、真顔でこういいます。

「先生と呼ばれるほどの莫迦じゃなし」

江戸時代の川柳だったと記憶しているのですが、営業マン時代に持ち上げられて宙を舞う「オジサン」たちを見て、自分は「あぁなるまい」と誓いました。社長もそうですが、尊称と同様、肩書きで呼ばれているうちに、自分を自分以上の存在と勘違いしてしまうことを避けるためです。

そして年を重ねるごとに、実力が透けて見える「先生」が多くなり、「先生」嫌いに拍車がかかりました。例えば、誰もが名前を知るIT業界の著名人は、FlashとJavaScriptの区別がつかな かったり、カリスマと呼ばれるセミナー講師の発言がすぐに嘘だとわかったりなど。特に自分を飾り立てている「先生」ほど、中身が薄い傾向があります。

ところが日本人はこうした「先生」が好きです。大袈裟に言えば、「先生」とついただけで盲信する傾向があります。今回は、そんな「先生」にまつわる0.2についてお話しましょう。

中小企業診断士に中小企業庁長官賞を受賞

東海地方の中核都市で経営改革コンサルティング事務所を営むT社長は、もちろん「先生」と呼ばれています。「中小企業がITツールを活用することで経営改革を実現する」ことが、T社長のミッションだと広言しています。

T社長は中小企業診断士など数々の資格を持ち、ホームページには「中小企業庁長官賞」を筆頭に輝かしい受賞実績が彩ります。また、複数の地方自治体の有識者会議の委員長を務め、アドバイザー登録をしている団体は2ケタを軽く超えます。

さらに後進の育成にも力を注いでおり、中小企業診断士育成のための講師活動も活発に行っています。「いつ本業の経営改革に取り組んでいるのだろうか?」という疑問は、凡百の徒である庶民の愚問かもしれません。

T社長はインターネットの黎明期から企業ホームページのコンサルティング活動をしていたこともあり、東海地方では「インターネットと言えばT先生」と呼ばれるほどで、「相談者は門前市をなす賑わい」と自身のホームページにあります。

プライドを傷つけられた腹いせにセミナーで顧客に仇討ち

T先生がセミナーを開きました。クライアントと共に登壇したT先生は万雷の拍手を受け誇らしげです。まずマイクを持ったクライアントがT先生に感謝の言葉を述べます。

「完熟ミカンのリアルタイム販売」というキャッチを入れるようアドバイスを受け、それまでアクセスがほとんどなかったサイトをリニューアルしたところ、アクセス数が右肩上がりに伸びたと言います。「うちのような家族経営のミカン農園が、T先生のお陰で生まれ変わることができた」と賛辞は尽きません。これほどクライアントから感謝されている姿に、聴衆は感動していたとのこと。

そこでT先生に変わります。ひととおりリニューアルしたサイト概要を説明してから、「さて」と言ったのですが、それに続いた言葉は会場の空気を凍りつかせました。

「このリニューアルのダメなところは」

誰もが耳を疑いました。リニューアルとは問題点を改善して課題を克服し、その時点において最善を尽くすものです。ところがT先生は次々と問題を指摘し、悦に浸りクライアントの表情はこわばります。

「問題」と指摘された部分は、T先生のリニューアル提案にクライアントが「ノー」を出した部分でした。中小企業庁長官賞を筆頭に数々の受賞歴と実績を誇る権威ある自分の提案を却下したことへの仇討ちを、セミナーという公衆の面前で行ったのです。

輝かしい受賞実績の意外なカラクリ

ところで、T先生ご自慢の「中小企業庁長官賞」ですが、語弊を怖れずにザックリと語れば、商工会や中小企業診断士協会などの「内部推薦」から選ばれるものです。中小企業庁の定める要件は満たしていても、ビジネスでの「実戦」による評価とは別物であることは、受賞企業の「大躍進」を耳にしないことが裏付けているのではないでしょうか?

賞とビジネスはイコールではありませんが、昨年の書店員が選ぶ「マンガ大賞」に選ばれた「テルマエ・ロマエ」は、受賞が報じられたことをきっかけに部数を伸ばし、現在30万部のヒットとなっています。

また、インターネット黎明期の「実績」は実力を裏付けるものではありません。当時はライバルがおらず、いわば独占企業と同じで、看板を掲げていれば客がきた時代でした。

さらに、続けます。「アドバイザー」は申請するだけでなれるものが多数あります。そのうえ、自分のクライアントに「●●先生でお願いします」と指名させることで「実績」を積み上げれば、お声がかかるようになると、ある中小企業診断士が教えてくれました。

つまり、これも「実力」と呼ぶのは微妙なのです。また、有識者会議も「推薦」が多く、この場合「人脈」が何より大切で、見識を問うペーパーテストも面接もありません。

しかし、こうした「自己演出」が目白押しでも、自ら「先生」と名乗れば、日本人は盲目的に「偉い」と勘違いします。講談師のようにセミナーで"語る"のが本職であり、経営改革による実績がほとんどない人でも。

ここで「権威0.2」が生まれます。もっともT先生のように、クライアントの目の前でその欠点をあげつらうなど、人として論外です。また、クライアントが喜んだ「アクセス数」ですが、社員に命じて朝昼晩とクライアントのサイトをクリックさせていたという噂がまことしやかに囁かれていました。

私の知るかぎり、中小企業診断士を「先生」と呼んで否定した人はいません。そのほか、「税理士」「会計士」も同じです。日本には「先生」が多すぎます。

余談ですが、私も東京商工会議所で「ITアドバイザー」を拝命し、地元足立区では「都市計画マスタープラン」の委員を務めておりますが、「先生」と呼ばれることは断固拒否しています。

エンタープライズ1.0への箴言


「"先生"と呼ばれる資格のない"先生"もいる」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi