ガンダム芸人の実力

私の姉はグランドをならす整地ローラーを「コンダラ」と呼んでいました。それはアニメ「巨人の星」の主題歌の一節「思いこんだら試練の道を」の「思いこんだら」を「重いコンダラ」と解釈していたからです。同様のケースでは唱歌「ふるさと」の「ウサギ美味し(正しくはウサギ追いし)」があります。

こうした覚え違いではなく、知らないことを知っていると装うことを「知ったかぶり」といいます。「ザク」「ドム」とはそれぞれアニメ「機動戦士ガンダム」に登場した戦闘ロボットの名称で、「目の形」や「スカートの有無」からマニアでなくても違いは明らかです。テレビ番組で「ザク」を「ドム」と主張する自称「ガンダム芸人(ガンダムマニアという意味)」がいました。彼のお粗末な「知ったかぶり疑惑」はガンダム以外でも噂されます。もっとも芸人の発言に目くじら立てるのも大人げなく、その場の雰囲気からの「知ったかぶり」なら日常でもあることです。しかし「経営」に関する「知ッタカ」は看過できません。

税理士とは税務処理の相談を受け、業務を代行する職業です。つまり、納税手続きの専門家に過ぎないのですが、「経営相談」をうたう税理士が少なくありません。もちろん、税務からできるアドバイスはあるのでしょうが、ITから営業と広範にビジネスをサポートすると声を大にします。その中身が「知ッタカ」だったりするのですが。

トヨタの世界戦略を語る税理士

「ホームページぐらい持っていなければ」。K税務事務所代表のKさんは経営者を集めた「勉強会」で熱弁をふるいます。定期的に開かれる勉強会は毎回Kさんが演壇に立ち、幾つかの小ネタを披露した後に「正しい納税」で結びます。この時の小ネタのひとつが「ホームページ」でした。

経営者の勉強会には「飲み会」というルビが打たれており、そこでKさんの自慢話が始まります。ダラダラと長いので要約するとこうです。

「ホームページは本気になれば一晩で作れる」

夕食後からとりかかり翌朝には完成したといいます。そして誰にでも作れると吹聴します。

ネタばらしを。Kさんのいう「ホームページ」とは、所属する税理士会が運営するサイトの「自己紹介ページ」で、必要事項を入力すれば開設できるものでした。初心者にとっては一苦労でしょうが、ホームページを作ったと語るのはプラモデルを組み立てて自動車を作ったというようなものです。

ホームページ戦略についてもご高説を垂れていましたが、こちらは完成したプラモデルをもとに「トヨタの世界戦略」を語るような妄想でした。

DMなんて意味がない

Kさんは携帯電話の通話機能を多用します。メールでは相手が読んだかどうかわからないという理由です。理由の根拠として自分がそうだといいます。迷惑メールの煩わしさからメールを毎日チェックしないと悪びれもしません。しかし、ホームページ戦略を語りIT活用を推奨します。そこに「悪意」はありません。あるのは「ザク」を「ドム」と言い張るような「知ったかぶり」です。

Kさんは自分が特別だと思っています。その理由は後に述べますが、それにより小耳に挟んだネタが体験談にランクアップし、わずかな体験を慣れた手つきで語ります。 こんなこともありました。「DMなんて意味がない」といつもの勉強会の小ネタで語ります。DM経験を訊ねるとこう答えます。

「知人に10数通だしたがサッパリだった」

「なるほど」と感心したふりをしてDMの内容を尋ねると「組合の発行する業界紙」に名刺をつけて送付しただけといいます。DMを知人にだしても意味はなく、10数通では統計もとれません。これで客をゲットできれば営業マンが靴底を減らすことなどないでしょう。

検査技師は名医にはなれない

金は企業活動の血液のようなもので、健康状態を知るバロメータのひとつです。血流の悪さは肩こりの原因となり、粗利が低い状態は貧血に置き換えることができます。税理士は企業の金の流れ(や質)を知ることができます。Kさんの「特別意識」のひとつはここにあります。

血流や血液の成分から健康状態がある程度わかるように、自分は「金」から「経営」が分かると信じているのです。また「納税」が国家を支える貴い行為という信仰と、税に関する業務を税理士以外が行えないという特権も特別感を加速させます。そして、「知ったかぶり」が暴走します。しかし、金だけで経営が分かるというのは血液検査の技師が「医者」を名乗るのと同じぐらいに「僭越」です。

決算は毎年発生し、税務申告や相談を税理士以外は行えません。同業者間の競争はあっても異業種からの参入リスクはありません。一定の顧客を確保すれば「安定」している商売といえます。Kさんにはいわゆる「営業経験」がありません。所属していた税理士事務所から客を引き継ぎ独立し、DMは既に紹介しましたが、飛び込みやチラシはもちろん、ホームページで客を捕まえた経験は皆無です。つまりKさんの語る「経営戦略」とは聞きかじりやごくわずかな体験から妄想した「知ったかぶり」なのです。

もちろん真の意味での「経営相談」をしている税理士もたくさんいます。しかし「知ったかぶり」で経営を語る税理士は実在し、危険です。経営の現場では金はひとつのツールに過ぎず、机上の空論で戦えるほど甘くはありません。ホバリング移動ができる「ドム」を「ザク」と見誤れば、戦場では撃墜されます。「ガンダム」という机上の空想世界の話ですが。

エンタープラズ1.0への箴言


「知ッタカ税理士からの経営アドバイスは根拠と論拠を訊ねてから  判断すること」