【コラム】

ITセキュリティのアライ出し

3 コンピュータウイルスの過去・現在・未来(2) ウイルスに寄生するウイルス

    新井悠  [2006/08/02]

    いよいよ夏の到来を感じる季節であるが、読者諸兄は体調など崩していないだろうか? 筆者は、ニンテンドーDS Liteの入手に成功。「逆転裁判」にハマり、目下、寝不足の身である。さらに今月は名作「ファイナルファンタジーIII」がリメイクして発売されるため、この夏は体調管理を慎重にと熟慮している最中である。

    さて、前回は過去に発生してきたウイルスから、いくつかのエピソードを紹介してきた。今回はそれらの過去をふまえ、現在についてふれていきたい。

    前回の宿題は、ファイル感染型のウイルスは現在も出現しているのか? ということであった。答えは「YES」。そう、ファイル感染型のウイルスは、本稿執筆時においても、密やかに世界中で感染が発見され続けている。

    MSRTの統計情報を別の角度から見る

    ここで、ひとつのデータを紹介したい。本コラムの第1回でも紹介した資料である。マイクロソフトは2005年の1月から「悪意のあるソフトウェアの削除ツール(MSRT)」を無償で公開しており、毎月その更新を行ってきた。それから2006年3月までの15カ月間に駆除してきたウイルスの統計情報がリリースされている。

    この統計情報がもたらす興味深い点の1つに、駆除した全体数の3位にランクされているPariteというウイルスがある。マイクロソフトによるPariteの分析結果を読む限りでは、これはファイル感染型に分類できる。そして、ファイル感染型は古典的なウイルスのひとつである。

    マイクロソフトの「悪意のあるソフトウェアの削除ツール」によって駆除されたウイルスのTop10

    トレンドマイクロのウイルスデータベースによると、Pariteは以下4点の特徴をもつという。

    1. システムに自身をインストール
    2. ファイル感染
    3. ウイルス(「PE_PARITE.A-O」)を作成
    4. 他の不正プログラム(「JS_NIMDA.A」)を作成

    (2)にあるとおり、Pariteはファイル感染型のウイルスである。この種のウイルスが、MSRTの駆除で第3位の位置を得ているのである。これは、どういうことであろうか?

    仮説 - ウイルスに寄生するウイルスとしてのParite

    Pariteはファイル感染以外に、目ぼしい特徴がない。(3)のウイルスを作成というのは、ウイルスとしての主体部(感染ロジック等)を切り出して単一のプログラムを作成することであり、(4)は5年前の2001年にパッチが公開されたMS01-020の脆弱性を使うようローカルファイルの改ざんを行うので、(イントラネットにおけるマウントなどの懸念すべき点もあるが)大量の駆除が行われている理由にならない。しいてあげるならば、DLLインジェクションを使っている点であろうが、これも大量検出の手がかりにはならない。

    つまり、自己増殖機能が乏しいPariteが大量に検出されるのは不可思議なのである。そして、筆者の勤めるラックで運用しているハニーポットにおいても、大量のPariteを検出している。ネットワークを経由して、脆弱性を利用するようなコードのないPariteが、なぜハニーポットに捕らえられるのか。ひとつの仮説としては「Pariteは他のウイルスに寄生して繁殖している」ということである。

    Pariteの検体を集めてみるとわかるが、ほとんど千差万別で、バラバラの傾向をみせる。つまり通常であれば、ある特定のウイルスは単一のサイズ、ファイルハッシュを示すのであるが、Pariteの検体はそうではない。そして、これらの検体には、さまざまなボットや他のウイルスの機能がそのまま取り込まれているのである。これはなぜだろうか?

    ここからは筆者の仮説の本筋であるが、あるPCがPariteに感染し、かつ、他のボットなどのウイルスにも感染していた――つまり多重感染していたとする。するとPariteによるファイル感染は、ボットや他のウイルスの本体に対しても発生する。そうしてPariteが寄生したウイルス本体が他のPCに感染した場合、どうなるであろうか? ハニーポットで数多く検出されるPariteは、そうした寄生体であることを明瞭に示していることになるだろう。この点が、筆者の仮説の根拠である。

    他のウイルスに(正確には『片利共生』がふさわしいと思うが)寄生することで、その機能をそのまま取り込み、数を増やしていったのである。ボットやワームといったネットワーク経由で脆弱性を利用するタイプの跋扈に乗じ、その数を増やしていったことは非常に興味深いものがある。ただし、Pariteの作者がわからない以上、このような副次的効果を狙っていたかどうかは定かではないが……。

    Pariteについてのこの仮説が成り立っているとすれば、前回紹介した捕食関係よりもさらに新たな関係性が生まれていることになる。それも、オールドタイプと認識されているファイル感染型のウイルスによって。そしてこれが事実に迫っているのであれば、ウイルスが新しいウイルスを生むという世界も、そう遠くはないということなのかもしれない。

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