11月末、こんなことを言うとインド・チェンナイや中国・大連の人々からは怒られるが……筆者にとっては嫌な季節になってきた。チェンナイは雨季の真っ只中。汚水の街と化し、市内のいたるところで浸水するが、これは年中行事である。雨季が明けるのを待つしかない。

インドの雨季

一方、大連はすでに真冬。これから1月にかけて極寒の季節になる。

まずは霧の問題である。筆者は若い頃に岡山県の津山に住んでいたことがあるが、津山も霧の街、吉井川周辺の霧で街が覆われる。それはそれで風情もあるが、大連には空港がある。フライトの欠航が相次ぎ、たびたび陸の孤島になってしまう。その後は寒さである。風があるので気温以上に冷え込む。

今年の大連の霧

12月ともなると地吹雪が舞い、夜間には、建物の外で携帯電話を使うことすらできない。別に通信事情が悪いわけではない。寒くて手袋を脱ぐことができないだけである。

これはあくまでも東京からの出張者の感覚である。大連より寒い街などいくらでもある。北朝鮮国境の街・丹東などは、すでに氷点下のようだ。沿海部でもこうなのだから、内陸部の寒さなど想像がつかない。

経済混迷とイノベーションがますます進むインド

このコラムでも以前、インド経済の混迷とインド式イノベーションについて書いた。第29回の「似て非なる大国 インドと中国 - 両国の大きな違いは何か?」ではインドルピーの下落とキングフィッシャー航空のLCC(格安格安航空)事業からの撤退について、第30回の「日本はインドで起きているイノベーションを見習え!」では1,750ルピー(約2,700円)と「世界最低価格」のタブレットPCを紹介した。

3年前には1ルピーが3円を超えていたものが、9月にはついに1.530円にまで下落した。インド政府の介入もあってしばらく持ち直していたが、ここにきてユーロ危機の深刻化とともに再び下落、先週、ついに1.461円にまで落ちた。ドル換算でも史上最安値1ドル=52.73ルピーをつけた。

RBI(インド準備銀行)も「ルピー安は世界的な流れ。抗おうとすれば資金が枯渇する」とサジを投げた格好である。これではそのうち、1ルピー=1円の時代も想定しなければならないようだ。キングフィッシャー航空もLCC事業どころではない。輸入代金の高騰で原油代金が払えずに次々とフライトが欠航しだした。キングフィッシャー航空だけではない。民間最大手ジェット・エアウェイズまで燃料代を払えなくなっているようだ。これではインドに進出しようにも、日本からの部品輸入に頼る製造業は苦しい。

明るい話はインド式イノベーションがますます続いていることである。今度は300ドルハウスである。

これは家賃が300ドルなのではなく、「300ドルでどこまで近代的設備を備えた家を建てられるか」ということであり、コンテストまで行われている。都市のスラム人口が1億人近い国ならではのことであり、スラム相手の巨大なビジネスでもある。

銀行では貧困層向けに文字のないATMまで出てきた。字が読めなくてもお金を引き出すことができる。指紋で識別をして、マークのついたボタンを押すだけである。

ドイツのアディダス傘下のリーボック社では、インドの貧困層をターゲットとした1足1ドルの靴を検討しているとのことである。リーボックの靴など高級品だと思っていたが、ボリュームゾーンである貧困層を狙うとこうなる。これも買ってみたい。

次に何が出てくるか、非常に楽しみである。タタ・ナノ以来、インドは常識を破るような商品を次々と生み出す。300ドルの家なら筆者も買いたい。iPhone 3台分の代金で車が買える国だ。iPhoneはインドでは売れないが、最初からボリュームゾーンを放棄して高級品志向の日本の電気製品など、この国では相手にされなくて当然である。

インドもマクロ経済は混乱しているが、それを補う技術革新がある。次回は医療におけるイノベーションを紹介しよう。

あれから27年、あれから3年

インドでこの時期が嫌な季節なのは、雨季だけではない。暗い2つの事件を思い出してしまう。

昨年のこの時期は「ボパール化学工場事故」について書いた(第10回 「保守」が苦手なインドに原発を供給してもいいのか?)。1984年12月3日未明にマッディヤ・プラデッシュ州の州都ボパールで起きた史上最悪の化学工場事故である。

この事故では、実に1万5000人~2万5000人が亡くなった。今年はこの事故から27年である(コラムの記述は今から考えるとおかしい。「インドで原発を運用できるか」という内容だが、それ以前に、日本でもできないということが福島原発事故で明らかになってしまった)。

この事故で新たな問題が生じた。

来年のロンドンオリンピックに対して、インドがボイコットを検討中とのことである。事故を引き起こしたユニオンカーバイド社を買収したダウ・ケミカル社がロンドンオリンピックの協賛企業に名を連ねたことに対しての抗議である。これは目が離せなくなってきた。

3年前のこの時期の事件は、ムンバイ・テロ事件である。日本人1人を含め171人が犠牲になった。11月26日の夜、ちょうどチェンナイがサイクロン「NISHA」に襲われた時である。

サイクロンの影響でインターネットがブツブツと切れる中でこのニュースが飛び込んできた。何が起きたのかネットではよくわからず、翌朝、サイクロンで寸断された道路を縫って市内中心部のGRTホテルに向かった。

チェンナイにいる時は普段からこのホテルのプールで泳いでから仕事に向かう。しかし、この日ばかりはホテルのコーヒーラウンジでインド各紙を読むのが先である。どの新聞も一面に「WAR」の3文字とタージマハールホテル炎上の写真で溢れていた。

ムンバイ・フォート地区にあるタージ・マハールホテルと、筆者も泊まったことがあるトライデントホテルが戦場と化した。

この事件でインドとパキスタンの関係も一触即発の状態となった。最近になってやっと融和に向かっていたが、今度はその融和を吹き飛ばすような事件が起きた。

よりによってムンバイの事件からちょうど3年後のこの日、今度はアフガニスタンにおけるNATO軍の誤爆で多数のパキスタン軍兵士人が犠牲となった。

パキスタン軍部が反米になればなるほどインドとの関係が緊張する。クリントン国務長官が電話で謝罪したとのことであるが、早く直接出向いての謝罪と責任者の処罰をしてほしいものである。

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「(続)インド・中国IT見聞録」も掲載中。

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