図7 IHS Markitのディスプレイ部門中小型FPD市場担当シニアディレクターである早瀬宏氏

IHS Markitのディスプレイ部門中小型FPD市場およびアプリケーション担当シニアデイレクターである早瀬宏氏は、2016年の中小型FPD市場を振り返り、「中小型FPDとそのアプリケーションは、米国はじめ世界の政情不安やGalaxy Note 7の発火問題など、消費動向に敏感に影響を受けるが、2016年の携帯電話用パネルの出荷数は、弱含みであった年前半から後半には力強い成長へと転じ、2015年並みを維持する見込みとなっている」と最大アプリケーションであるスマホの勢いが回復してきたことを指摘する。

また、Galaxy Note 7の発火問題の影響が懸念されたSamsungの携帯電話事業については、パネルの出荷数量から見た影響は限定的で、Galaxyシリーズに搭載される有機ELパネルも中級機まで採用を拡大することで、その出荷数量を伸ばしているとするほか、有機ELを採用し販売を伸ばしてきた中国ブランドのスマホメーカーについては、有機ELの需給逼迫により調達数量を増やす事が出来ず、その補填にLTPS TFT液晶パネルの発注を拡大させていることを指摘。iPhone 7向けの出荷分も合わせ、LTPS TFT液晶の出荷が下半期に偏って在庫を減らす結果となっているほか、普及価格帯の携帯電話機向けに出荷されるa-Si TFT液晶パネルの需要落ち込み見通しが当初の見込みより小幅に留まった反動によりパネル価格の上昇が生じているとする。

発火問題により生産・販売中止となったGalaxy Note 7 (出所:Samsung Electronics Webサイト)

ただし、スマホに需要を奪われたそれ以外のモバイルアプリケーション向けFPD出荷量が縮小を続けており、そんな中でも市場を拡大している車載およびスマートウォッチ市場の伸びを相殺し、2016年の中小型FPD出荷数量全体としてはマイナス成長をもたらす結果となった。とはいえ、高付加価値パネルである有機ELは、出荷数の増加により総出荷金額が引き上げられており、マイナス成長の要因はa-Si TFT液晶パネルの総出荷金額が前年割れしたこと、ならびにLTPS TFT液晶パネルがiPhone向けが低調だったことによる前年並みにとどまったことにあるとしている。

なお同氏は、各アプリケーション需要の飽和と縮小により低成長となった2016年の中小型FPD市場の中でも明るい希望を示した有機ELについても、スマホのハイエンド機種向けの需要獲得に成功したものの、その供給能力が不足している結果、機会損失を生じる事態を招いており、今後の課題を露呈する結果となったと厳しい見方を示している。

中小型パネルの将来市場は車載とIoT

このほか、早瀬氏は中小型FPD市場の中長期の展望として、成長が見込めるアプリケーションは「車載モニター市場」としており、すでにアプリケーションごとにFPDメーカーの特徴が現れ始めていると指摘。これからの成長産業として車載機器メーカーと連携する合従連衡の動きも出始めており、今後のFPD業界のサプライチェーンの変化が注目されるとする。新型車のデザインでは複数のFPDの組み合わせや、カーナビの大画面化の傾向が強まっていることを背景に、今後の車載モニターFPDの需要動向に変化をもたらす可能性について検証を進めて行く必要があるともしている。

また、長期予測については、今後iPhoneが有機ELを採用する可能性が高まった事、フィーチャーフォン需要の見直しなどにより、有機EL需要の伸びの前倒し、a-Si TFT液晶の需要の上振れなどを加味した結果、その出荷金額については高い成長率で拡大していく可能性があるとの見通しを示す。ただし、中国FPDメーカーを中心に積極的な設備投資が進んでいる有機ELに関しては、今後大幅な供給過剰となり、その反動として価格競合に伴う成長の鈍化・停滞に向かう可能性が懸念されるとしている。 2017年の販売が予想される有機EL採用の新型iPhoneがどの様な仕様で搭載してくるか、また、これから有機ELに参入しようという後発のFPDメーカーが、有機ELの量産出荷をどの様に立ち上げてくるかによっても中小型FPD市場の将来性は大きく変わる可能性があるといえる。これらの点を踏まえると、今年は今後の中小型FPD市場を占う上で、極めて注目すべき年になるであろう。

ちなみに同氏は、成長が期待されるIoT市場では、FPDに対して高い付加価値が求められる可能性は低いとしつつも、従来のアプリケーションの隙間を埋め、FPD産業のすそ野を広げていく可能性があるとの期待を示しており、今後の将来性を検討していく必要があるとの考えを示している。

次回は3月2日に掲載予定です。