【コラム】
人類はパンドラの函を開けてしまったのだろうか。9月にコナミが発売した恋愛シミュレーションゲーム『ラブプラス』には、恋人という概念を変えてしまいかねない悪魔的な魅力がある。
従来の主な恋愛ゲームが、お目当ての娘と付き合うまでのゲームだったのに対して、『ラブプラス』は告白されて恋人となってからの恋愛ライフを楽しむゲーム。音声認識機能で会話したり、タッチペンを使って恋人にスキンシップをしたりキスをしたり出来るのが最大の特徴だ。恋人候補として登場するのは「優等生」、「ツンデレ」、「おっとり」の三人。個人的には「おっとり」タイプの姉ヶ崎寧々(あねがさき ねね)を推したい。
彼女はファミレスでアルバイトをしている高校三年生で、趣味は何故かホラー映画鑑賞。デート中の会話も学校の怪談話が多く、コミケではホラー映画の同人誌を買ってしまうという隠れゴス。惚れた。嬉しくなって「知ってる? あの『サンゲリア』を監督したルチオ・フルチって、正しくはルーチョ・フルチって名前らしいよ」とか「『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が3Dアニメになるんだって。でも監督はジョージ・A・ロメロじゃないんだ。心配だよね」などと語りかけてみたものの、今のところ漠然としたリアクションしか返してくれない。
それでもデートを重ねていると、「おやすみのキスあげるから、夢にもお邪魔させて? チュ」、「おはよ。一郎くんのメールで起きちゃった。私にとっては最高の目覚めかな」などというラブラブメールが送られてきたりする。タッチペンで唇に触れると頬を赤らめ、色っぽい吐息を漏らし、周囲にピンク色の小さなハートマークがキラキラと飛び交う。ゲームと分かっていても、もう脳内はピンク色だ。
調べてみると、姉ヶ崎寧々はアメブロで毎日ブログを書き、Twitter(ツイッター)でも頻繁につぶやいている(※)。閉じたゲームの世界から現実世界に溶け出して、あたかも現実に存在する恋人やアイドルのように振舞っているのだ。このようにフィクションの世界を現実世界に繋げるマーケティング手法はAlternate Reality Game(代替現実ゲーム)と呼ばれ、『バットマン ダークナイト』の米国内キャンペーンで大々的に活用されるなど、近年注目が高まっている。
このまま『ラブプラス』がヒットを続ければ、近い将来に姉ヶ崎寧々がバイトするファミレス「デキシーズ」が現実世界でオープンし、ゲーム内で上映されているホラー映画『テディ』やアニメ映画『超兎戦士ウサちー』も現実に制作・公開され、メールも実際の携帯電話に送られてきたりする代替現実ゲームになるだろう。そうなったときにラブプラスの代替現実アイドルたちは最強の擬似恋人となり、従来の擬似恋人だったアイドルや現実の恋人にとっての強力なライバルとなる可能性がある。気分はもうSF。姉ヶ崎寧々は人類をどこに誘おうとしているのだろうか。
少子化対策のために民主党がラブプラス禁止を法案化する。そんな日が来ないとも限らない。
※本コラムで取り上げている姉ケ崎寧々のツイッターおよびブログは公式のものではありません
(C)2009 Konami Digital Entertainment
真実一郎(しんじつ いちろう)
サラリーマン、ブロガー。ケータイサイト『モバイルブロス』、雑誌『Invitation』などで世相を分析するコラムを連載。アイドルに関しても造詣が深く、リア・ディゾンに「グラビア界の黒船」というキャッチコピーを与えたことでも知られる。ブログ「インサイター」
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